4話 決闘することになりました(アムルが) (2)
更新がだいぶ遅くなりまして、申し訳ありません……。
「何かルールは必要か?」
結界の中でアムルが聞けば、目の前に対峙する長身の男はやはり面倒そうに答えた。
「別にいらないだろう。どっちかが死ぬか気絶するか……ようするに、戦えなくなるまで戦う。それでよくないか?」
「問題ない。むしろ助かる」
実際のところ、アムルは魔法を使用しない武術は決して長けている方ではない。
もしも"魔法は禁止"等のルールが追加された場合、アムルの方が不利になることは明白だ。
その魔法ですら、身体強化などではない攻撃自体を目的にしたものは得意ではなかった。
このスミア村へ来てからも、直接ダメージを与えるような魔法は使用してない。
あくまでアムルの魔法は補助がメインだ。
だがその補助系魔法ならば、この大陸の誰よりも優れていると言っても過言ではなかった。
「じゃあ、3、2、1……で、開始でいいな」
「ああ。さっさと終わらせようぜ」
互いが率いる兵を置き去りにして、周囲からは暢気にも見える雰囲気のまま二人は向き直る。
「ではお言葉通り。3」
アムルは半ば投げやりに言うと、正面に剣を向け構えた。
「2」
男も自身の武器である槍を腰のあたりで構えた。
両者ともに軽く腰を落とし、攻撃に備える。
「1――!」
アムルが数字を読み上げる声が周囲に響く。
二人を見守る兵士の間にも緊張が走った。
そして、その声が止むのとほぼ同時にアムルは距離を詰めた。
(先手必勝!!)
一気に男の懐へと飛び込み、剣を横さまに振るう。
アムルの剣が相手の鎧に触れる――かに見えたが、それは阻まれた。
カン、と鈍い音がして、剣は槍の柄で受け止められていた。
材質の差を考えれば、この時点で相手の槍を分断してもおかしくはない。
だが、アムルの剣は男の槍に傷らしい傷をつけられなかった。
(あ、まずい)
剣を受け止めていた槍の下半分が引き、同時に男は半身を翻す。
アムルの剣が空を斬るのと同時に、今度は槍の上半分が迫る。
柄自体に殴打されそうになり、アムルは無理な姿勢のまま後へ飛びのく。
そのまま数歩下がり、槍が届かない位置まで退いた。
ざざ……と砂が音を立てて軽く舞う。
追撃が来ても対応出来るようすぐに構えたが、男は元いた場所から一歩も動いていなかった。
(ふむ、あの長さの槍なら接近戦は苦手……のはずだが)
距離を詰めた所までは問題なかっただろう。
だが、相手は予想以上に素早く反応した。
相手が鍛え抜かれた肉体の持ち主だから、という理由だけではない。
アムルと同様に魔法で自身を強化し、本来よりも素早く動いた結果だ。
(槍と身体への強化魔法か)
見た限り、相手の槍そのものに仕掛けはないように見える。
長めの木の柄に、金属の穂先を着けた一般的なものだ。
今回の斬撃自体には魔法を付与しなかったとはいえ、金属の剣で木の柄に傷をつけられたなかったのは魔法が使用された影響が大きい。
(……やっぱり、オレには魔法しかないな)
男の槍を回避出来たのは、とっさに足を強化したからに他ならない。
そもそも、一気に距離を詰められたのも魔法を使用したからこそだ。
"魔法で身体を強化し武器で攻撃する"という意味では、アムルと男の戦いはよく似ていた。
だが、魔法技術ではアムルが勝っていて、武器の扱いでは男が勝っている。
「どしたー。もう来ないのかー?」
「ちょっと作戦を考えてるところだ」
この状況でも、相対する男の声はやる気がなさそうだ。
それでも目の奥は武人らしく鋭く光っている。
男の年齢はおそらくアムルよりも上だ。
年齢通り軍人である期間も長いとすれば、戦闘経験も圧倒的に向こうの方が多いことは間違いない。
(魔法技術でどうにか……出来るか?)
たとえば、これが魔法技術を競う大会で、優れた魔法を披露すればいいだけならば勝てる自信がある。
しかし、それを戦闘で活かすとなるとまた別問題だ。
(……大丈夫だな。やる)
アムルは何事にも自分に自信を持って挑んでいた。
そうでなければ、出来ることも出来なくなってしまうからだ。
ただの蛮勇では意味がない。
しかし、むやみに怯えていては何事も成せない。
(それがオレのやり方だもんな)
自身を奮い立たせ目の前の男を睨みつける。
その男は、踏み込むと突然槍を繰り出した。
「ふっ!」
「おっと」
それなりに距離をとっておいたはずだが、今度は男が距離を縮めアムルを目がけて槍を突く。
目の前に迫っていた槍の穂先を、また後ろに退くことで回避した。
「ああ、すまん。戦いの最中に寝ているのかと思ってな」
「別に気を使ってもらわなくてもいいぞ。避けるから」
男の言う通り、今は戦いの最中だ。
ただ考えているだけでは埒があかない。
「じゃあ、ここからが本番ってことで」
 




