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4話 決闘することになりました(アムルが) (1)

(決闘?)


 アムルは建物の入り口に立つ男を見た。

 その男は「俺とお前が戦って、勝った方が勝ち、負けた方が退く」ということでいいか、などと提案してきた。


 一見すると、本気で面倒に思っていて、簡単に決着がつくならそれでいい、と思っているようには見える。

 だが、今までお互い軍の一部隊を率いて衝突した後の言葉とも思えない。


 他人のことをとやかく言える立場ではないが、そもそも将が前線で戦うということ自体が不自然だ。


(やはり罠か)


 そもそも、この男が向こう側の将だという証拠はあるのか。

 二人だけの決闘のはずがこちらが前に出た時点で総攻撃を受ける可能性はないのか。


(だが、まあ……悪い条件、というほどでもないか)


 アムルは剣術自体にはさほど自信があるわけではない。だが、魔法技術に関してだけはこの場にいる誰よりも優れている自信があった。

 下手に他の奴らに手出しをさせず、純粋に一対一の決闘の場を作る方法はいくらでもある。


 それと同時に、いま率いている兵たちのことを信頼もしている。

 仮に自身に何かがあっても速やかに撤退することくらいは容易だろうし、決闘を始めた途端に突撃してくる――という状況になっても冷静に対処出来るはずだ。


「わかった、それでいい」


 アムルはそう言うと、構えていた剣を一度下げた。


(さて、どうでるか)


 武装解除したように見せるのは、相手の真意を探るためでもある。

 もし罠なら、何らかの行動に出る可能性は高い。

 魔法はすぐに発動出来るように展開していたが、その必要はなかった。


「お前らも一応下げとけ」


 真意を試されていることはわかっているのだろう、敵将と思われる男も周囲に指示を出した。

 しぶしぶといった様子ではあったが、弓を構えていた兵達は言われた通りに武器を下ろす。

 だが、矢に指を掛けたままで、攻撃しようと思えばすぐに行動に移せる状態だ。


「矢は番えたままなのか?」

「お前だって、魔法展開してるだろうが」


 バレてたか、とは声に出さなかったがアムルは肩をすくめた。

 それと同時に、相手も魔法を使えることも、そこそこの実力者であることも悟った。


 この地には人柱であるマモルの魔力がばら撒かれ満ちている。

 それなのに少し離れた相手が魔法展開している、ということを見破るのはそれなりに難しいことだ。

 魔法技術は"そこそこ"以上にあると思って問題ないだろう。


(じゃあ、これはどうかな?)


 アムルは組んでいた魔法の一つを解除した。

 この防御魔法は魔力の流れを変えるため、比較的見破られやすい魔法だ。


 だが、その裏でもう一つの魔法を起動する。

 こちらの魔法は、攻撃としては大して役に立たないが、見破ることも難しい。


 この魔法すらも見破るとなれば"そこそこ"ではなく"かなりの"魔法使いということになる。

 相手の魔法技術レベルを図るには有効な手段のひとつだ。

 もちろん、そこまで見抜かれて本当は読める魔法を気が付かなかったフリをされる可能性もあるが……だからこその、この魔法だった。


「ほら、魔法の展開はやめたぞ。お前らも武装解除しておけ」


 アムルは相手に声をかけてから、自身が連れてきた兵にも指示を出した。

 敵将らしい男は、その様子をじっと見ていた。


「……確かに、問題はなさそうだな」


 そういうと、自身の部下へと矢を下ろすように目配せした。


(やっぱり魔法に関しては"そこそこ"程度みたいだな)


 表情など表面上だけならば、誤魔化すことはいくらでも出来る。

 だが自然と身体の内から出てくる魔力の性質までも完全に変化させることは不可能だ。


 動揺や自信などの感情は、少なからず魔力へと影響を与える。

 アムルが目立たないよう展開している魔法は、その魔力の性質を読み取ることが出来るものだ。


 この魔法を研究し発展させていけば、考えていることすらも完全に読み取ることが出来るだろうと言われているが、そこまで辿りついた者はアムルを含めこの大陸の人間には誰もいない。

 だが「嘘をついているか」「どのような感情を抱えているか」等、簡単なことくらいはある程度の実力者ならば読み取ることが出来る。


 その結果、得た結論は「この魔法を展開していること自体に気が付いていない」と「本当に面倒だと思っている」だ。


 相手の純粋な武術の腕前自体はいまだに不明だが、魔法技術だけならば間違いなくこちらが上回っている。

 仮に、決闘自体が罠であっても、矢や攻撃がこちらの兵に届く前に防御魔法を張るくらいは出来るだろう。


 それを確信したアムルは、一歩前に出た。


「ほら、お前も来いよ。さっさと決着をつけようぜ」


 言いながら、ここまで率いて来た兵を数歩下がらせた。

 にらみ合うお互いの兵の間に、ある程度開けた空間が出来る。


「全く、仕方ねえなあ……」


 決闘を言い出したのはその男の方だが、その決闘すらも面倒だと言わんばかりに呟いた。

 それでも自身の武器――槍を手に携えたまま、前へと出る。


 アムルがしたように、部下である兵も下げさせる。

 また少し開いた空間の中心付近で、少し距離を開けたままアムルと男は向かい合った。


「……と、その前にちょっといいか?」

「ああ?」


 男の返事を聞く前に、アムルは大きく剣を振るった。

 剣先は上から下に大きく弧を描くように移動した後、翻って地面に触れた。


 突然の行動に、男は一瞬アムルを攻撃しようとして――止めた。

 これは自身に害をなすものではないと気が付いたからだ。


 地面に大きな円を描くように、結界魔法が展開され二人を囲んでいく。


「これで、邪魔者は排除出来るな」

「用心深いこって」


 アムルの言葉にどうでもよさそうに答えながら、男は魔法を観察していた。


(さて、これはどう判断するかな?)


 その結界は、周囲からの魔法攻撃も物理攻撃も防ぐものだ。

 しかし、あくまで悪意のあるものだけを遮断するように作られている。

 空気や悪意が込められていないただの物ならば通過することが可能だ。


 ここまでならば、男もこの結界の性質に気が付いているだろう。


 だが、込める魔力自体はあえて少なめにしてある。

 魔法技術に長けているアムルだからこそ、その微調整は容易だった。

 ある程度攻撃は防げるとはいえ、結界としての強度はさほど高くもない状態をあえて維持している。


(これで、オレの魔力総量を見誤ってくれるといいんだがな)


「結界へ注ぐ分の魔力はたいして確保出来ていない」とこちらを侮ってくれれば、御の字だ。


 このままでは強力な魔法攻撃は防げず危険な策にも見えるが、足りない分の魔力さえ追加すれば、この結界でどんな攻撃も遮断することが出来る。

 「強力な魔法が発動した」ということさえ察知出来れば、後出しでも間に合う自信がアムルにはあった。


 問題は、魔法の発動が察知出来るかどうかだが……それも、おそらく問題はないだろうとアムルは踏んでいた。


 先ほど、防御魔法を男に見破られた時もそうだが、どうしても強力な魔法を使う場合は魔力の流れが変わる。

 その魔力の流れの異常を、この村の内側程度は読み取ることがアムルには可能だった。


(それに……お前が見張っているはずだもんな、マモル)


 映像越しには魔力の異常などわかるはずもないが、不自然に人が集まった場合など物理的な異変には気が付けるだろう。魔力の流れを読むだけではなく、視覚的な監視も時には有効だ。


 敵を目の前にして通信魔法は使うことはしなかったが、心の中でここにはいない守護神に語り掛けた。



 ***



「え、あれ? なんかアムルの奴、敵側の親玉と戦おうとしてません……?」

「そうですね……なんだか、"決闘!"という雰囲気です」


 人柱部屋に浮かぶ映像は、向かい合う二人と少し離れたところにいる部隊の人たちを映している。

 音声はないし読唇術も使えたりもしないから、どんな会話がなされていたのかはさっぱりわからない。


 でも、何か、決闘することになったみたいだな。


「えと、こういう時はどうしたらいいんですかね」


 何をしたらいいのか、アムル側からの通信はないけど「そこだ! 足を狙え!!」とか言った方がいいのかどうなのか。

 いやそれだと、スポーツを観戦しながら野次を飛ばしてるおっちゃんみたいだな。


「多分ですけれど……あまり口出ししてもアムル様も戦いにくくなってしまうかもしれないので、"何かおかしな行動はないか"を観察していればよろしいかと存じます」

「なるほど、それもそうですね!」


 つまり、現状維持ってことか!

 ……ううむ、役に立ってるのかどうか怪しいけど……まあ、見張りは重要だろうしな。



 このままアムルが殺されたりしないようにだけ切実に祈りつつ、現状維持に俺は戻った。

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