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3話 スミア村奪還作戦開始しました(アムルが) (4)

『おい、目的の建物から、援軍らしき奴らが出てきてるぞ!』


 その建物は、小さな村の割には大きものだった。

 もしかしたら公民館とか議会とか、もともとはそういう建物だったのかもしれない。


 この建物には兵士達が頻繁に出入りしていたため、ここが敵側の本拠地だろうと踏んでいた。

 だからこそアムル達が向かったわけだが……今もこの建物の中には多くの敵兵がいたみたいだ。


 今すぐに射ってはこないが、入り口付近にいる奴らが矢をつがえた状態でアムル達を睨みつけている。


 アムル達と直接交戦していた兵士達もその状況に気が付くと、こちらを睨みつけたまま少しずつ後ろ――つまり建物側へと引いていく。


 撤退するというよりも、このままだと建物の奴らが矢を放てないから避けたのかもしれない。

 それともこの建物に籠城するつもりか。


 アムルが引き連れて来たこっちの兵士達は相手を追わず、じっとそこで待つ。

 そんな中、矢が自身に向けられているにも関わらずアムルは建物の方……正確には、敵兵を真っ直ぐ見ていた。


 俺達が見ているのはあくまでアムル自身の視点だから、アムルがどんな表情をしているのかまではわからない。

 だけど、何となく恐れてはいなさそうな気がした。

 敵を睨みつけているか、むしろ口許は笑っていそうな気が。



 そんなことを思っていると、矢を構えた敵兵の間から、背の高い男が現れた。年齢は三十代~四十代くらいか。

 恰好や体つきは"屈強な戦士"といった雰囲気だが、表情は面倒くさそうな様子を隠してもいない。

 髭も生えているが、単に剃るのが億劫だったんだろう。


 雰囲気だけなら「何なんだ一体。せっかく寝てたのに」とでも言い出しそうな感じだ。

 その男が気怠そうに口を開いた。


 どうせ、当たらずとも遠からずなセリフを口にするだろうと思ったが……。


「……何言ってるか、全っ然わかりませんね」

「ええ……。読唇術でも身に着けていれば分かるかもしれませんが」


 隣にいたメイドのアリアさんに言えば、同じように困惑していた。


 音声がないからなー……文句を言ってたとしても、仮に褒めたたえていたとしても、さっぱりわからん。

 ついでに、仮に読唇術なんか使えたとしても、そもそも俺は日本語しかわからないし。


「とりあえず俺達は周囲の警戒でもしてましょうか」

「そうですね。アムルさまがお話ししている隙に何かしでかすとも限らないですし」


 本音としては、あのおっさんとアムルの会話が気になるけどな。

 でも見てもよくわからないものをガン見しても仕様がない。


 名残惜しく思いながらも、他へ目を向けた。



***



「全く、何なんだお前ら。突然押しかけてきやがって」


 建物の中から出て来た男――ノイリア王国のザンは、億劫そうな雰囲気を隠しもせずに言い放った。


 この建物の出入り口には階段があり、その上に立つ男からは、今この建物へと向かっている人間たちをよく見通せた。


「お前らに盗られた、この村を取り返しにきた」


 人間たちの先頭に立つ男がふてぶてしく言い放った。


 その目はこちらを真っ直ぐに見据えている。

 いっそ輝いているようにも見える。

 口許も笑っているようにさえ見える。


「あー……」


 面倒なことになったな、とザンはため息をついた。

 こういう若者らしい無邪気さって苦手なんだよね、とも同時に思う。


 ザンは気怠そうに頭を一度掻いてから、また口を開いた。


「お前、アレだろ? エアツェーリングの、魔法が使える系将軍」


 魔法というものは、多かれ少なかれ集中しなければ行使出来ない。

 目の前の敵に相対しながら更に魔法を使う、というのは見た目以上に難易度が高い。


 例えるなら、本を読みながら目の前の人物と会話をして料理を作りつつ自身も食事を摂るようなものだ。

 不可能とまではいかなくとも、どれかひとつくらいは疎かになる。


 それだけに戦闘中にも自然に魔法を使い、前線に出張ってくるような奴は厄介だ。


 自身も多少は魔法が使えるからこそ、目の前にいる奴が今も魔法を行使していることも、魔法については手練れだということも、ザンにはよくわかった。


「我が国には名称という意味では"将軍"は存在しない。だが地位という意味では、他国で言うところの"将軍"で間違っていない」

「うるせーな、そういうことを言ってるんじゃねぇよ」


 ザンにとっては屁理屈としか聞こえないことを、目の前の"将軍"は生真面目に答えた。


(……全く、メンドクセーよなあ…………)


 その理屈っぽいところも全てが面倒だ。


 こんな村と呼ぶのも烏滸がましい小さな集落なんぞ放って、どこかでのんびり暮らしたい、というのがザンの本音だった。


 野菜が採れること以外、そもそもこの集落を抑えることに大した利点はない。

 中継点として使うには立地条件はよくもないし、数少ない利点である野菜もこの規模の集落で採れる量などタカがしれている。


 エアツェーリングの奴らもこんな辺鄙な場所など放っておくか……とザンは判断しのんびりしていたが、実際に奴らはやって来た。


(ほっとくわけにもいかねえよなぁ……)


 ここで何もせず逃げ帰ったところで、郷に帰る場所などない。

 あの短気な王に首を切り落とされる可能性だってある。


(ああ面倒だ)


 痒くもない頭をさらに掻きむしった後、ザンは深く息を吐いた。


「そうだなあ……どうだ、ひとつ提案があるんだが」


 そう言って、一歩前へと出る。


「俺とお前が戦って、勝った方が勝ち、負けた方が退く……ってことでよくないか?」


 ザンはやる気のない顔のまま、自身の武器を手に取った。

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