3話 スミア村奪還作戦開始しました(アムルが) (3)
簡単に現状を再確認しよう。
アムルが率いる部隊は、敵国に占領されたスミア村の敷地内にいる。
敵の数を減らしつつバレるまで進めるだけ進もう、というのが基本的な方針だった。
その目標自体は失敗はしていないと思う。向こうの奴らに見つかった様子はない。
だが、そろそろ"バレずに進む"というのは難しくなってきている。
そもそも小さな村だから、この人数で潜入しておいて最後までバレずに行動する、というのは無理があるだろう。
ちなみに、この村は片側が住宅地のようになっていて、反対側には農地が広がっている。
その中間にあたる場所は、広間のようになっていた。
住宅地側から入ったアムル達は、その広間の手前まで既に来ている。
いまアムル達が目指している場所――敵側の親玉がいそうな建物は、広間と同じく住宅地と農地の中間にある。広場の脇に建っている、と言ってもいいか。
その場所を目指すなら、広場を通らなければならない。
いくらやる気のなさそうな向こうの兵士さん達も気づくだろう。
『……それで、これからどうするんだ?』
"敵に見つからず行動する"の方は問題なく達成しているが"敵の数を減らす"の方は微妙だ。
全く減らしてないわけじゃないが、それも数人程度だ。
やらないよりはマシだろうが、これで大きく戦局が変わるとも思えない。
かといって、戻って住宅地方面にいる奴を倒そうにも、今度は位置的に"バレずに敵を倒す"というのが難しくなる。
そもそも、比較的バレにくい道を選んだ結果、今いる場所にたどり着いただけだし。
こんな時どんな作戦をとればいいのか、なんて俺にはさっぱりわからないが、とりあえず素人目には"バレるの覚悟で住宅地側で敵を減らす"と"このまま突っ込む"の二択に見える。
『このまま行く』
アムルは前を向いたまま、俺の疑問に答えた。
『オレたちが突っ込んだら、奴らに変な動きがないか上から確認してくれ。直接ぶつかっている位置とは別に人が集まっていないか、とかな』
『了解』
変な風に人が集まってたりしたら、魔法とか使ってる可能性とかあるのかね。
それはそれでちょっと見てみたい気がするけど、アムル達が危険に晒されるのは却下だ。
どうせなら、村の建物とかも被害が少ない状態で村人に返したいしな。
「このまま、突っ込むみたいで……」
す、と俺がアリアさんに伝えきる前に、アムルからまた通信が入った。
『行くぞ』
アムルは短く言うと、部隊の人達に軽く合図を出した。
そして、一気に駆け出す。
現地では、どどど……なんて足音とかしているのかもしれない。
怒号とか指示も飛び交っているかもしれない。
でも、俺達が今見ている映像には相変わらず音がなかった。
それでも、本格的な戦闘が始まったことは見ればわかる。
「……ということ、みたいです」
「はい、私も気を引き締めますね!」
メイドのアリアさんは、真面目な顔で頷いた。
「向こうの奴らが何か変な動きとかしていないか、とかを重点的に見てほしい、とのことです」
「かしこまりました!」
まあ、わざわざ言わなくても、アリアさんならそういうところまで見ていそうだけど。
こういう連絡はちゃんとしておかないとな、うん。
俺達がそんな話をしている間にも、アムル達が突き進み、敵兵の奴らが迎撃する。
アムル達が飛び出した瞬間、敵兵のやつらは「敵が来たぞ!」よりも「は、何事?」とでも言いたそうな顔をしていた。
だがアムルを含め、こっちの兵士達が飛び出し、そして近くにいた向こうの兵士を剣で斬りつけた時、その顔は変わった。
何が起きたのかようやく把握したっぽい敵兵が、部隊のやつらへと突っ込んでくる。
その近づいてきた敵兵にアムルは剣を振るった。
何度か鎧ごと首を斬り落としたアムルだが、今回は鎧に包まれた胴のあたりを狙う。
"斬る"というよりも"叩きつける"攻撃だったのか、鎧への傷自体はあまり大きくない。だが敵はそのまま仰け反るように吹っ飛ばされ、後ろに近づいてきた奴らも巻き込んで倒れた。
そしてさらに突き進み、次に現れた敵にまた剣を振るう。
視界の端に映る他の兵士達も、似たように手近にいる敵を倒しながら前に押し進む。
……アムルや他の兵士達がが今どんな状況になっているのか、そもそも無事なのか、気にならないと言ったら嘘になる。
でも、俺が任されたことは個々人が何をやっているか、とかじゃなくて、周囲を見渡すことだ。
ついアムル自身の視点の映像に注目したくなるが、上から見下ろす鷹魔法からの映像に目を移した。
上から見ると、広場に人が押し寄せてごちゃごちゃしているのがわかる。
どれがアムルで、どれがアリアさんの旦那さんなのか、なんてのはさっぱり分からない。
でも多分……その場に倒れ伏した兵士は隣国の奴らだけで、今のところはこっちの兵士で倒れている奴はいない、と思う。
少しだけ安心して、広場以外も観察する。
当然のことだが、他の場所にいた奴らも騒動に気が付いたのか広場に集まってくる。
アムル達が突入した時よりも徐々に人数が増えていく。
ただ……単純な人数差でいうなら、こっちの方が勝っていると思う。
こっちの勢力が確実に押している。
今のところは、挟み撃ちにされそうな感じでもない。
アムルが言ったような、他の場所で集まっている奴らもいない。
目標通り、敵さんの親玉が居そうな建物へと向かっている。
倒れた敵兵の中には血を流している奴もいるが、こっちの奴らにはそれらしい奴はいない。
突入前にかけた身体強化の魔法が効いているのかもしれない。
(よし、大丈夫そうだな)
俺は密かに胸を撫で下ろした。
撫で下ろしたところで、違和感に気が付いた。
(いままさに、人が死んでる……かもしれないのに?)
この距離からの映像だと、生きているのか死んでいるのか、はっきりとはわからない。
こっちの兵士に関しては倒れているやつがいなさそうだから大丈夫そうだが、向こうの兵士は死んでるかもしれない。
俺の知り合いが、また人を殺したのかもしれない。
(いや、でも……味方が死ぬくらいなら、敵が死んでくれた方がいいし)
ずっと、頭ではそうわかっていた。
向こうから襲って来たんだから、返り討ちにするもの仕方ないって。
わかっていたけど、少し前にはあんなにビビってたのに。
「マモルさま、援軍のようなものが……」
自分で自分の心境に少し戸惑っていると、アリアさんから声が掛かった。
おかげで、陥りそうになっていたよくわからない思考から浮上する。
「え、どこですか?」
「あの建物からです」
アリアさんが示した先には、アムル達が向かっている建物が映っていた。
そして、そこからはアリアさんが言ったように人間が中から出てくる。
そいつらは、槍やら弓やらを構えていた。
『おい、目的の建物から、援軍らしき奴らが出てきてるぞ!』
俺は、通信用の石を使ってアムルに呼び掛けた。




