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3話 スミア村奪還作戦開始しました(アムルが) (2)

 入り口の見張りを排除したアムルは、辺りを探るような仕草をした後、部隊の奴らに合図した。


 控えていた兵士達は素早く飛び出す。


 村の入り口はそれほど大きくないし、鎧を着た大人なら二、三人程度しか同時には入ることは出来ない。

 それでも、焦るわけでもなく落ち着いて尚且つ手早く村へ身を滑り込ませた。


(なんというか……すごいな)


 狭いから他の奴とぶつかってその場に倒れる……なんてトラブルもなく、動きにも統率がとれていた。

 この映像はそもそも音がないけど、もし音声つきでも大して足音とかもしなかっただろうな。


 兵士が全員村の敷地内に入るのとほぼ同時に、アムルから通信があった。


『マモル、聞こえるか?』

『おう、聞こえるぞ』


 映像の中のアムルは、周囲を注意深く見ているようでこっちと通信しているようには見えない。


 いつもは飄々とした調子で話すことが多いアムルだけど、今回はさすがに真面目な雰囲気だ。


『これから突入するが、こっちからの通信はほぼ出来ないと思ってくれ』

『ああ、わかった』

『打ち合わせした内容は覚えてるか?』

『当然。ひとまず、敵の戦力を削りつつ向こうの親玉を探すんだよな』


 今はまだ敵の奴らに気が付かれていないみたいだが、さすがにこれだけの人数で本格的に突入すれば、見つかるのは時間の問題だろう。

 そのまま全面対決になること自体は想定の範囲内だが、それまでに戦力を減らせるならばそれに越したことはない。


 ちなみに今回の勝利条件は、ここを占拠している奴らの中で、一番偉い奴を倒すことだ。

 この場合の"倒す"は"殺す"でも"降伏させる"でも問題はない。


 一応、その偉い奴が居そうな場所の目星はついている。

 絶対に親玉がそこにいる、という程の確証はないが、当面はそこを目指すことになった。


『それと簡単な合図を決めておくぞ』

『お?』

『こう指を立てて……』


 アムルはそう言いながら自分の指を見た。

 この部屋に映っている映像のひとつはアムルが見ているものだから、そうやって指だけを見てもらえるとわかりやすい。


 その目の前の指は、円を描くように動いた。


『振ったら、周りの状況を報告してくれ。特に指した方角を』

『りょーかい』

『それと、指を立てずにそのまま手を振ったら"了解"の意味だ』

『なるほど』


 本当に簡単だな。ややこしいのにされても困るけど。


『他に何か疑問とかあるか?』

『いや、とりあえず大丈夫だ。指を振ったら周囲を確認、手を振ったら了承、だったよな』

『ああ、問題ない』


 もし問題があるとすれば、俺の心の準備の方だな。


 現代日本で生まれ育った俺にして見れば、こんな風に人が何人も死ぬような状況っていうのはどうしても戸惑いはある。


 だけど、覚悟ももう決まっている。

 さっき入り口の見張りをアムルが殺した時はビビっちまったけど、いちいち怯んでいるわけにもいかない。


 片手で自分の頬を軽く叩いて、一度大きく深呼吸した。

 そして、映像の中のアムルを睨みつける。


『よし、行ってこい。この村の人のためにも』


 俺の言葉に、アムルは言葉での返事はよこさなかった。

 「当然だ」とでも言いたげな顔をしながら、手をひらひらと振る。

 これは、「了解」の意味でいいんだよな。



 手を振り終わったアムルは、前に向き直ると部隊のやつらに付いてくるように軽く指示を出した。


 そして、進む先を指で示しながらその指を振った。

 早速俺の出番だな……と、その前に。


「あんな感じで指を振ったら、周囲を調べてくれって合図らしいです。特に指さした方を」

「はい、承知いたしました!」


 俺の傍に佇んでるメイドのアリアさんにはアムルの言葉が聞こえてなかったからな。

 うっかり伝え忘れたら、アムルが意味もなく指を振っている変な人に見えたかもしれない。


 そんなことを考えながら、アムルが示した方向を観察してみた。


「ひとまず……敵兵はいなさそうですね」

「そうですね。ただ、建物の陰などは確認出来ませんが……」


 まあ、それもそうだよな。

 いくら魔法の鷹の魔石で上から見ているとはいえ、村を完全に探るのは難しい。


 ……なんか、もどかしいな。

 自分で鷹を操れるようになればもっと役に立てるかもしれないのに。


 でも今はそんなことを言ってもどうしようもない。

 速やかにアムルに伝えないと。


『そっちの方角も他にも、とりあえず近くに兵士の奴らは見えない。でも物陰とかはこっちも見えてないから注意してくれよ』


 俺が伝えると、アムルはひらひらと手を振った。


「あ、ちなみにこれは"了解"の合図だそうです」

「はい。了解、ですね!」


 そう言ってアリアさんは微笑む。

 うーん、こんな状況だけど、やっぱり可愛い。


 ひとまずアムル達は少し進んで、つきあたりの手前の建物の陰で止まった。

 上から見ると、村の角のあたりにいるイメージだな。


 そしてまた、アムルは指で円を描くように振る。


「この先は……見つからずに進むのは難しそうですね」

「そうですね。他の道を進むよりは遭遇する兵士の数は少なそうですが、完全に回避するのは無理だと思われます」


 見える限り、進行方向にいる兵の数は三人だ。

 だが、その三人さえ排除すれば、それほど兵が多いわけでもない。


 アムルも大体の兵の数は把握していて、人数が少ないところを選んで進んでいるんだろう。


『進行方向には三人。そいつらさえどうにかすれば後は建物三件分くらいは進んでも大丈夫そうだ』


 アムルは手を振った後、部隊の奴らに目配せした。

 お互い頷き合うと、数人がさっと飛び出す。



 アムルと五人の兵士が敵に向かっていき、残りは周囲を警戒する。


 敵に向かっていった奴らは、二人で一人を相手取る形のようだった。


 不意を突かれた敵兵のうち一人は、こっちの兵の一人に簡単に抑えられ、もう一人にこん棒で殴られ、気を失ったみたいだ。


 他の二人は、最初に倒された奴よりも反応が早く、腰の剣を抜こうとした。


 だが、うち一人は鎧ごと体当たりするように突進され剣を振るう間もなく、あるいは振るっても鎧で阻まれたのか、こちらも押し倒されるような形ですぐに抑えられた。

 そして一人目と同じように、こん棒で何度か殴られ気を失った。


 最後の一人は、アムルと組んだ奴がさっきの奴と同じように突進していく。

 さっきと違ったのは、アムルは突っ込まなかったことだ。


 そのアムルは、少し離れた場所で剣を大きく振った。


(あ、そうか。コイツ一応魔法使いだから、本来は後衛なのか)


 パッと見た限りは、剣がかすりもしない場所で一人剣を振りまわしているようにも見える。


 だが、その大きな一振りをしただけで、相手は倒れ込み突っ込んでいた兵に抱き留められた。

 そのまま音がしないよう、その場にそっと横たえる。


 遠くからの一振りだけで相手を殺したのかと一瞬思ったが、アムルが近づき確認してみると、ただ眠っているだけのようだった。


(今回は殺さないで、無力化しただけ……ってことか?)


 結構あっさり首を飛ばしているのを見ていたから、殺さなかったことの方が少しだけ意外だった。


 殺してない……よな?

 正直、映像越しで見ても生きているのかどうか判然とはしないけど、今は敵の生死なんか気にしてる場合じゃないか。



 今の騒ぎで他の奴らが気が付いたか、周囲を確認してみる。


 一番近い奴が居るのは、来た方向とは別の方角の建物四件くらい先だ。

 少し大きめの音を出せば簡単に気がつかれるだろう。

 音声のないこの映像じゃわからないが、もしさっき倒した奴らが大きな声でも上げてたらアウトだ。


 バレてるとしたらコイツだろうけど、アムル達のところに移動する様子はな……あ、あくびした。


 近くで変な音がしたかどうかとか、そもそも気にしてなさそうだ。それでいいのか。


 まあ、こっちとしては助かる。

 念のため、他にも気が付いた奴がいないか確認してみるが……うん、大丈夫そうだな。


「見た限り、今の騒動に気が付いた人はいなさそうですね」

「ええ、おそらく大丈夫だと思います」


 一応、アリアさんにも確認してみる。

 アリアさんの言葉が終わるのと同時くらいにアムルも指を振った。


『問題なさそうだぞー。むしろ、やる気なさそうだった』


 俺の報告に、アムルは真顔のまま手を振った。



 ここまで一切見つからずに来れたのは良かったが、ここから先はさすがに難しいだろう。


 建物が密集していた村のはずれはそろそろ抜けるし、ここから先は広場のようなところを通らなければ目的の建物までたどり着かない。


 ある意味、ここからがこの作戦の本番かもしれないな。

 向こうとの全面対決も近い予感がした。

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