表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/100

1話 異世界に拉致されました (3)

 えーここどこ。


 目を覚まして俺が最初に思ったことがそれだった。

 見たことのない、小屋の中らしきところで俺は眠っていた。

 ちゃんとしたベッドや布団がある訳ではない、ゴザみたいなものの上でだ。


「っ……」


 起き上がってみれば、まだ少し頭が重かった。

 それでも、あの穴の中にいた時よりはずっとマシだ。


 気を失う前、何をしていたかは……まあ、覚えてる。


 コンビニに飯を買いに行こうとして、その途中で顔の長めなイケメンになんか穴に引摺りこまれた。

 その穴の中で、何故か一気に体調が悪くなり気絶した、そんなところか。

 記憶喪失とかではなさそうだ。


 そういや、あのイケメンどこ行ったんだ?


「お、目覚めたか?」


 噂すれば(声に出してはいないけど)、小屋の入り口からあの顔が長めのイケメンが入ってきた。


「あ、お前!」

「大丈夫か? お前、空間の歪みで凄い具合悪そうだったろ」


 誰のせいだ!

 お前があんなとこに引き込んだんだろうが!!


 そう俺が言う前に、その男は続けた。


「髪まで白くなっちまって……」


 は?髪?


 言われて、俺は自分の前髪を摘まんだ。

 俺はごく一般的な日本人で、髪も染めてないから、本来は黒だ。

 本来は。


「はあ!?」


 今見上げている長めのその前髪は、決して黒ではなかった。


「可哀想に……まだ若いのに」

「その憐れみの目を止めろ!!」


 確かにこの髪色は、俺が知っている俺の髪ではない。

 だが断じて白髪だと認める訳にもいかない。


「ぎ……銀だよ!銀髪!!」

「お前、元は黒だったろ。空間を渡ったからって黒が銀になるか?」


 や、やめろ! そういう現実を言うのは!!


 確かに、空間を渡ったからそのショックで白髪になったって考える方が自然かもしれないけど…………ん? 空間?


「空間を渡ったて何だよ」

「ようやくその質問が出たか」


 真っ先に聞かれると思ったのにな、とちょっと笑ってるそいつは、冷静に見ると日本人ではなさそうだった。


 濃い茶色の髪と紺碧の眼、服装は……なんか鎧?を着ていて、ゲームとかに出てきそうないかにも騎士って感じの格好だ。

 腰には剣らしきものをぶら下げている。


 ……コスプレ?


「お前、今失礼なこと思ってるだろ」


 バレたか。

 いやだって、その格好コスプレにしか見えないだろ。

 イケメンだからそこそこ似合ってるけどさ。ムカつくけど。


「いいか、よく聞け。お前にしてみればオレの格好がおかしいかもしれないが、オレからみればお前もなかなかだぞ?」

「はあ?」


 いや普通だろ。

 普通の長袖Tシャツに安いズボン。何がおかしい。


「ここは――この世界は、お前達が言うところの異世界だ」

「……はあ?」


 この時俺は、本日何回目かの「はあ」を口にしていた。

 何を言ってるんだコイツは。

 異世界とかそんな……「黒い穴に落ちて、異世界へ☆」て、ベタにも程があるぞ。

 もしこれが物語なら、もうちょっと捻った内容にするべきだ。

 俺ならこんな展開にしない。


 いや、それとももしかして。


「これ何かのアトラクションか?」

「はあ?」


 今度は目の前の男が、「はあ」と言う番だった。

 いやだって、そうとしか思えないだろう。

 異世界を楽しめる!みたいな名目のさ。


 あの穴の中であんな体験させるなんて、なかなか凄いが、今やVRやら何やら色々ある時代だぞ。

 不可能ではないはずだ。


「……空間の歪みのせいで頭がおかしく……」

「はあ!?」

「て訳ではなさそうだが……お前、他人を信じない質か」


 いや、この状況で素直に信じる方がおかしくないか?

 変なコスプレ野郎に拉致されて、身代金の請求とか何か詐欺とか、とにかく事件に巻き込まれた、て考える方が普通だろ!


「言っとくけど、金なら大して持ってないからな」

「いや、だからそうじゃなくて……」


 どうしたら信じてもらえるかなーとか、ぶつぶつそいつは言い出した。


 が、しばらくすると顔色が変わった。


「どうしたんだ?」

「ちょっとこっちに来い」


 そう言うと、また俺の腕を掴み、引き摺るように入口へ急ぐ。

おいやめろ。だから、男にそんなことされても……


「ん?」


 徐々に、俺にも音が聞こえてきた。

 何かが走るような、だが足音にしては早すぎるどどどど……という音。

更に音も何か大きい。人間程度が走る音ではなさそうだ。


 まさかコイツ、これを警戒したんだろうか。


「出来るだけ、小屋から離れるぞ」


 マジな顔で言ってから、俺を連れてさらに急いで離れる。

 正直、肩痛い。


 そんなことを思っていたら、遠くから足音の主が現れた。


「ぶほぉおおおおおおお!!」


 鼻息荒いソイツは、やたらデカくて黒い猪だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twitterにて更新情報等を呟いてます。 → @Mi_Tasuku
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ