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2話 スミア村奪還に向かいました(アムルが) (2)

いつも、閲覧評価ブクマ等ありがとうございます!

 ええと、今回の目的地のスミア村は、ここだな。


 俺はアムルに貰った地図の一点を指で追った。

 この村から見ると、エアツェーリングの城下町はそこそこ遠い位置にあり、隣国のノイリアの国境の方が少し近い。


 確かここまで三時間くらいで着くってアムルが言ってたな。

 あの部隊が出発したのが一時間くらい前だったはずだから……あと二時間か。


 さすがに残り二時間ずっとアリアさんに見張りを任せるのもアレだしな。

 もう少ししたら声を掛けてみようかなー……なんて思ってたら、しばらくしない内に、向こうから声が掛けられた。


「マモルさま、誰かが近づいてまいりました」

「え」


 まさか、もう敵側に襲撃されるのか。


 それとも盗賊とかの類か。

 俺も少し歩いただけで盗賊には出会ったし。


 そんなことを考えながら映像を覗いてみると、敵兵にも盗賊にも見えない人物が遠くに映っていた。


「クワを持ったおじいさん……ですよね。クワですよね」

「そうですね。剣ではなくてクワですね」


 まあ、クワも武器になることはなるだろうけど……服装からしても"村人A"って感じの見た目だ。


 でも明確にアムル達を目指しているみたいだし、報告自体は必要だろう。


『おい、アムル。何かお前たちのところに人が近づいて来てるぞ』

『あのクワを持った人だな。確認した』


 石を持って念じれば、アムルからの返事が脳内に響く。

 耳から音として入ってきたというより、直接俺に情報が届いた感じだ。


『止まれ』


 次にアムルの少し大きめな声が聞こえてきた。

 ついでに片手をあげて、部隊を静止させる。


 ざっざっと音が聞こえてきて、そしてすぐに止まった。


(あれ、音が聞こえてる?)


 アムルがこっちに向かって話している内容はともかく、足音とかの雑音はさっきまで聞こえてなかった。


 実際、映像自体に音まで再生する機能はなかったはずだ。


(これは、アムルが音も送る魔法を使ってるってことでいいのかな)


 聞いている音を送る魔法も、やろうと思えばやれるようなことをアムルは言っていた。

 ただ目の前の戦闘に集中できなくなるってだけで。


 今は戦闘とかになりそうな状況じゃないって判断したってとこか。

 もしくは、戦闘になったとしてもあっさり倒せる、とか。


 まあ相手はクワのおじいさんだしな。

 さすがに警戒はしてるだろうけど、片手間で魔法を使う余裕くらいはあるってことか。


『ぬしら、我が村に行くんじゃろう!』


 クワを持ったじいさんが、クワを振り回しつつ、顔を真っ赤にして言った。


 我が村……ってことはもしかしてスミア村の人か。


『あなたはスミアの村の人ですね』


 アムルが確認するように聞くと、おじいさんはクワを掲げた。


『そうじゃ!!』


 おじいさんは、興奮して顔を真っ赤にしている。

 なんか血の気が多そうな人だな……。


『そのスミア村の方が何かご用事ですか』

『ワシも連れてけ!!』


 連れていってもらって何するつもりなんだろう……まあ、予想はつくけど。クワ振り回してるし。


『これは、軍としての行動のひとつなので、民間人は連れていけません』

『あの村はワシらのものじゃぞ!! ワシらが取り戻しに行くことに何の問題がある!!』


 あくまで冷静に対応してるアムルとは対照的に、おじいさんは興奮している。

 自分の故郷が他国の奴にとられてて、それを奪還しにいく、なんて事態になったらじっとしていられないのもわかるけど。


 さて、アムルはどう対応するのか。


『失礼ですが、あなたには家族はいますか?』

『おお、いるぞ。だからこそ、あの村をすぐにでも取り返して……』

『私にも、子供が三人います』


 アムルがじいさんの言葉遮った。

 落ち着いてるけど、力強い口調だ。


『私自身、家族のために国を守りたいと思って軍人になりました』

『そうじゃろうそうじゃろう。ワシとて、家族のために命も投げうって……』

『死んでも家族を守りたい、という覚悟はもちろん私にもあります。ですが、それでは私の家族は幸せにはなれないのです』


 お、情に訴えかける作戦で来たか。


『家族にとって、子供たちにとって、父親が戦場で死ぬというは、つらいことでしょう。だから私は生きて帰ると――』

『ええい、御託はいい! どのみち、ワシは老い先短いんじゃ!! それならば家族を守るために命を使おうがワシの勝手じゃろうが!!』


 情に訴えかける作戦効いてないっぽい。

 というか聞き耳を持ってない、って言うべきか。


『家族思いのあなたでしたら、家族の方々は戦場で死ぬよりも、ベッドの中で看取りたいと思っていると思いますよ』

『そのワシのベッドが、彼奴等に奪われたのではないか!!』


 ううむ、平行線。

 このままだといくら話し合っても、聞き入れてくれなさそうな雰囲気だ。


 無視して先に進んでも、勝手についてくるんじゃないか?


『では、単刀直入に言います。あなたが共に来ても、こちらが有利になることはありません』

『な……』


 おいおい、そんなこと言っちゃって大丈夫かアムル。

 おじいさんもさらに真っ赤になって打ち震えてるけど。


『何を言うか!! 農作業で鍛えたこの体力!! 貴様らみたいな若造には負けんぞ!!』

『我々は、常日頃から戦闘などの訓練しています。仮に体力筋力共にあなたが私と同等であったとしても、こと戦闘においては、あなたに負けることはないでしょう』

『そ、それにじゃ! 別にワシが役に立つとか立たないとかどうでもいいんじゃ!! 村のために戦って、それで死ねるなら本望!!』


 舌戦がさらに激しくなってる。

 お互い今のところ手は出してないけど、今にも掴みかかって殴りあいの喧嘩でも始めそうな雰囲気だ。


 正直、現場に俺がいたらビビりまくりだと思う。


 だが、アムルはあくまで冷静に受け答えしていた。

 挑発的な言い方はするけど、声を荒げたりはしない。


 そんな隊長の様子を、部隊の人達も黙って見ている。


『あなたはそのつもりでも、我々はあなたを見捨てることなど出来ません』

『ワシがいいと言っておるじゃないか!!』

『目の前であなたに死なれてしまっては、あなたの家族だけでなく、私も私の部下も、女王陛下も皆が悲しみます』


 アムル視点の映像でも、鷹もどきの足に括りつけられた魔石からの映像でも、アムルの表情まではわからなかった。

 こいつは今、どんな気持ちでこんなこと言ってるんだろうな。


 嘘も方便とばかりに適当なことを言っているのか、それとも心からの言葉なのか。


 おじいさんの方は、アムルが本当にそう思っていると判断したのか、少しだけ狼狽えた。


『いや、だがしかし……』

『あなたを死なせなくない我々は、目の前であなたが襲われたら、あなたを救助にいくでしょう。ですがそうなると、作戦の成功を遠ざけることになります』

『…………』


 そりゃあ、民間人も混ぜて庇いながら戦うより、訓練された軍人だけで戦う方がラクだよな。


『村を確実に奪還するため、少しでも懸念は少ない方がいいんです』

『じゃ、じゃが……道案内くらいは、役に立つぞ』

『申し訳ないですが、道がどうなっているのかは、我々にもわかります』


 こうやって、今も上から見てるからな。

 鷹もどき魔法で。


 上から見てもわからない抜け道とかならおじいさんの方が詳しいだろうけど、今現在どの道なら通れるか、なら俺の方がわかる。はずだ。


『念のため聞いておきますが、地下などに秘密の抜け道がある……といったことでもあるのでしょうか?』

『いや、ない……ないが』


 普通の村にそんなものあるはずないよなあ。

 仮にあるとしても、いま聞いて行けばいいだけだし。


『でしたら、繰り返しになりますが、あなたが我々と共に来ても、村を奪還出来る可能性が上がるわけでもないですし、むしろ下がる可能性が高いです』

『…………じゃが』

『安心してください』


 ダメ押しとばかりに、アムルはおじいさんに近づき手をとった。


 空からの映像に、ようやくアムルの顔がちらりと映った。

 その表情は、明るく力強い。


『あなた方の村は、必ず我々が取り戻します。あなたがあなたのベッドで大往生出来るよう努力いたしますので、あなたもあなたの家族のために長生きしてください』


 アムルの目の前にあるおじいさんの顔からは、赤みが引いていた。

 眉毛をハの字に下げ、不安そうな顔になる。


『お願いしても、大丈夫なんでしょうな?』

『ええ、お任せください』

『本当の本当に』

『はい。一日も早くあなた方が村に戻れるように頑張ります』

『…………』


 おじいさんは少しだけ黙り、何かを考えているようだった。

 そして、頭を振ってから再び顔を上げると、アムルをまっすぐ見て言った。


『どうぞ、我らの村をお願いいたします』


 そのおじいさんに対して、アムルもまっすぐに見て応えた。


『必ずや、果たしてみせます』




 おじいさんは、後ろ髪を引かれる思いが全くない、なんてことはさすがになかったんだろう。

 何度もちらちらとアムル達を振り返りながら、それでも現在避難している他の村へと戻って行った。


『あなた方に村を取り戻すことが出来ないとしたら、ワシが行っても無駄でしょうなあ……』


 最後にそう言っていたのが、印象的だった。


「どうなりましたか?」


 後ろから、控えめな感じでメイドのアリアさんに言われた。

 足元には猪のイノリもいる。


 そういえば、このやり取りアリアさんにもイノリにも聞こえてなかったのか。

 あくまで俺に直接通信してたんだな。


 話が終わるまで待たせてたみたいだ。ちょっと申し訳ない。


「どうやら、あのおじいさんはスミア村の人で、一緒に行きたかったみたいですよ」

「まあ、そうだったのですか。それで、納得していただけたのでしょうか」

「ええ、それは大丈夫そうです」


 完全に納得してくれたかは疑問だが、もう無茶なことはしないだろう。

 少なくとも、アムル達が本当に村を奪還すれば何も問題はない。


 アムル達もまた、スミア村に向かって歩き始めた。

 だが、その足音は聞こえてこなかった。


(もう通信切ったのか)


 早いな、と思うのと同時に、それだけアムルも集中したいんだな、と思うことにした。


「それじゃあ、俺たちも見張りを頑張りますか」


 ただ見てただけの俺も、ちょっとだけやる気が出た。

 あのじいさんや、その家族を少しでも早く家に帰してやらないとな。


 何のことかはよくわかってなさそうなイノリも、俺が気合を入れたのを見て、ふごっと鼻を鳴らした。


「見張りだけなら、私がやりますけど……」

「アリアさん一人に任せておくつもりはさすがにないんで、俺も手伝わせてください」


 正直、アリアさんと比べると俺は大して役に立たないだろうけど、一人より二人がいいのは間違いない。

 スミアの村だけじゃなくて、この国を守るために俺も頑張るって決めたんだから、やれることはやっておきたい。


 俺に仕事を押し付けていいのか少し迷っていたらしいアリアさんも、俺のやる気を見て笑顔になった。


「では、交代で一緒に頑張りましょう」

「はい、お願いします!」

「ふごっ」


 最後にイノリが、一際大きく鼻を鳴らした。

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