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2話 スミア村奪還に向かいました(アムルが) (1)

「おお、見える。見えるぞ」


 また例によって、この人柱部屋には画面のようなものが宙に二つ浮いていた。


 でも今回のは、窓代わりの風景ではない。

 片方はアムルが見ている光景で、もう片方は空からそのアムル達を見下ろしている光景だ。


 草原の中の道を、アムルとアムルが率いている部隊の人達が進んでいる。.


 目的地は現在敵国に占拠され、これから奪還に向かうスミア村だ。

 こうして見ると、アイツって本当に軍で偉い人だったんだなあ……と不思議な気分になる。


 そして、その部隊を上から見下ろすこと自体も、何だか不思議だ。


 空からの光景はただ一点に留まっているいるわけでもなく、少しずつ流れるように移動していて、優雅に飛んでいるような気分になる。


 それもそのはずで、この景色は実際に今も空を飛んでいる鷹っぽいものから撮影されたものだ。

 正確には、鷹みたいな見た目のアムルの魔法の足っぽいところに括りつけられた魔石から。



 その鷹っぽい奴はハリボテみたいなもので、生きているわけでも意思があるわけでもないらしい。


 だからこその利点は、仮に敵に見つかって攻撃されてもそこまでの痛手でもないことだ。

 消費魔力は増えるがまた出そうと思えば魔力が続く限り何度でも出せるらしい。


 欠点は、鷹自身が考えて行動しないってことだ。

 本格的に集中すれば細かく指示して様々な動きをさせられるが、アムル本人が戦いながら片手間で操作するなら、簡単な指示しか出せないらしい。


 そして、今現在出されている指示っていうのが「頭上で旋回しろ」ってことだ。


 ちなみに、その説明をされた時、通信用の魔石も渡された。

 これを握ったまま、呼びかけることでアムルに話しかけられる。



 ようするに、俺の役目は「鷹(っぽい見た目の魔法)で周囲を見張って、何か怪しい奴を見かけたら報告すればいい」ってことだな。



 色々と便利なように見えるが、問題点もないことはないらしい。


 たとえば、あくまで鷹自身が見ているものは直接こっちには送れないことだ。

 だからこそ、魔法の鷹の足に括りつけた魔石から送る、なんてややこしい方法になっている。


 鷹が見た映像をアムル自身が見ることは出来る。


 だが、鷹から映像をアムルに送り、更にアムルがそれをこっちに送る、なんて方式にしたら、アムル自身の魔法のリソースが結構キツイことになるらしい。


 魔力が足りない、という意味じゃなくて、魔法を使うことに精一杯になって、目の前の戦闘なんかに集中出来なくなるって意味でだ。


 同じ理由で、アムルからこっちへの通信もいつでも出来るわけじゃない。


 アムルが見ているものを映し出すことは前からやっているが、音声はなかった。

 その原因が、「映像を送る魔法」と「音声を送る魔法」が別のものだかららしい。


 この大陸でも上位に入る魔法使いだ、とアムル自身はいつも言っているが「鷹を飛ばして簡単な指示を出す魔法」「アムルが見ているものを人柱部屋に送る魔法」「鷹から送られてきた映像を更に人柱部屋に送る魔法」「アムルが聞いていることやアムル自身の言葉を送る魔法」を同時にこなしながら、更に戦闘をして部下にも指示を出す……なんてことはさすがに厳しいみたいだ。


 戦闘とかせず、魔法にだけ集中出来る状況ならやってやれないこともないらしいけど。



 この説明をされた時、「あ、はい。そうですか」という感想になったというのが本音だ。

 正直、ややこしい。


 「利点もあるけど欠点もある、程度に思ってくれればいい」とアムル自身も笑っていたから、ある程度は聞き流すことにした。

 まあ、魔法の仕組みも気になったから、こうして説明出来る程度には覚えたけど。


 ちなみに、アムルと通信するための魔石の他に、もうひとつ石をもらった。

 それは、「鷹に括りつけた魔石を爆発させる魔石」だ。


 「鷹は攻撃されても、さほど痛手ではない」みたいなことをさっき言ったけど、これはあくまで魔法の鷹自体の話だ。


 鷹につけた魔石の方を相手に回収され、変な風に利用させると結構な大問題みたいだ。

 具体的には、本来は映像しか送らないはずのものに、何か変な魔法を混ぜてこの部屋に送りつけたりとか。


 そんな状況は御免こうむりたいので「敵に持っていかれるくらいなら、さっさと爆破した方がマシ」ってことらしい。


 とはいえ、魔石は貴重で高価なものらしいので「何かあったら爆発させて欲しいが、基本的には爆発させるな」とも言われている。

 どっちだよ。



 こんなことをグダグダと考えている間も、アムルとその部下っぽい人達は初夏の陽射しの中を進んでいく。


 ちなみに、何故こんなにどうでもいい説明を俺はずっとしていたのかというと。


 暇だからだ。


 今現在、アムルとその部下にあたる人達は、これから奪還するつもりのスミア村に向かっている。

 その草原の中を通る道には、特にこれといったものはない。


 森や他の村はそれなりに遠い場所にあって、道自体はかなり見晴らしもいい。

 何もない場所をただ移動しているだけだ。


 正直、見ている方としては暇だ。


 何も考えず、ただぼうっとしててもいいなら、一時間くらいはいける気がする。


 でも一応、俺の役割は見張りだから、目を離すわけにも気を抜くわけにもいかない。

 かといって、何か襲ってくるわけでもないから、正直やることもない。


 暇だ。


 見張り台に立ってる兵士とかすごいな。

 心から尊敬したい。


「あのう……お掃除も終わりましたし、見回りは私がしましょうか?」

「え、いいんですか?」


 俺が退屈していることに気が付いたのか、メイドのアリアさんが申し出てくれた。


 アリアさんの今の主な仕事は俺の世話だから、掃除とか終わったらこの人も特に忙しいわけではないことを俺は知っている。

 他の仕事を中断させてまで頼むようなことじゃないけど、そうでもないならお任せしちゃってもいいかな。



 そういや、アリアさんは剣を腰に下げているけど、別に見かけ倒しではないようだ。


 メイドさんを含むこの城に勤める人達は、護身術程度でも何か武術とかを習っているらしい。

 アリアさんの場合は剣術で、アリアさんのお姑さんであるクララさんの場合は簡単な魔法だ。


 クララさんの場合は、体内から何かを押し出すように力を入れ手を前に出すことで、手から魔力(?)を出していた。

 パっと見は手元が一瞬光っただけ、といった感じだが、もしも大男に襲われても押しのけるくらいは出来るらしい。


 「城の人間は武術を習っている」といっても、普通のメイドさんはクララさんと同じく「大男に襲われても隙をついて逃げられるかも」程度のものだ。


 だが、アリアさんだけはガチらしい。本当に。リアルガチ。


 元々の目的は、他のメイドさん達と同じく護身用程度だったみたいだ。

 だけど、剣を習ったらそっち方面の才能が開花したらしい。


 才能は有り余るほど有り、本人も楽しくなって練習をきっちりした。


 小さい頃から体を動かすのは好きだったが、そこにきちんとした剣術を加えたらやたら強くなった、ってところらしい。


 アリアさんの強さについては、アムルからのお墨付きもあった。

 自称ってわけでも「メイドにしては強い」なんてレベルでもないらしい。


 下手な冒険者よりもよっぽど強い、とのことだ。


 特に一瞬の隙をつき攻撃するのが得意らしい。

 力押しタイプではなくスピードタイプ、というのが大前提だが、それだけでなく相手の状況などを見極めるのが上手いそうだ。



 そんなアリアさんが周囲を探った方が、俺よりも異常を見つけられるだろう。

 ふとそう気が付いて、少なくとも村につくまで俺が見る必要性は全くないような気がしてきた。


「じゃあ、お言葉に甘えて……よろしくお願いします」

「はい、任せてください!」


 アリアさんは小さく拳を握って、気合を入れて微笑む。

 やっぱり可愛いなーなんて思いつつ、俺はベッドに寝転んで、今度はアリアさんが映像の前へと移動する。



 さて、これから何をしようか。

 映像を見張らないからって、暇なのは変わりないな。


 そんなことを考えだしていたら、アリアさんが小さく声を上げた。


「あっ」

「え?」


 アリアさんが映像を見始めてから大して時間が経ってないけど、何か問題があったんだろうか。

 それともまさか、俺が何か見落としていたんだろうか。


「どうかしましたか?」


 俺が気になって近くまでいくと、アリアさんは困ったように微笑んだ。


「いえ、大したことではないんです。ただ……」

「ただ?」

「夫を……あの中で見つけまして」


 アリアさんはほのかに頬を染めながら、本当に申し訳なさそうに呟いた。


 知り合いがいたからちょっと驚いただけってとこか。

 特に問題がないならよかった。


 そして、まだ会ったことがない旦那さんがちょっと気になる。


「旦那さんってどちらですか?」

「ええと……あの……アムル様のすぐ後ろの列の、右から三番目です」


 アムルの後ろの列……てことはあれだよなあ。右から三番……ううむ、映像が常に動いてるから見づらいけど……あれかな?


「あの明るめの茶色い髪の、ちょっと眉毛太い小柄な人ですか?」

「そうですそうです!」


 アリアさんはこくこくと頷く。


 ちょっと背の高めのアリアさんと比べると、旦那さんは背が低い気がする。


 たくましい大人の男、というよりかわいらしい感じだ。

 眉毛は太めだし、兵士らしい恰好でキリっとした表情ではあるけど、どこか人の好さがにじみ出ている気がする。


「もしかして、アリアさんの方が年上だったりします?」

「はい。ひとつだけですが、私の方が年上ですね」


 ほう、なるほど。

 ……アリアさんの年齢を知らないんだけど、ここで旦那さんの年齢を聞いたらマズイかな。


 ええい、言ってしまえ。


「旦那さんておいくつですか……?」

「29歳ですよ」


 アリアさんは答えてから、ふふっと笑った。


 29。そうか29。29……?

 ということは、アリアさんは、さ……。


「え、あ、へぇー……。そうは見えないですね」


 旦那さんも。

 ……アリアさんも。


 正直、26歳の俺より年下かと思ってました。


 年上かと思ってたアムルも年下の24歳だし……この国の人達は見た目通りの年齢じゃない人が多いのか?

 他の出会った人達の年齢も気になってきた。


「ちなみに、ディエーティナ王様の年齢ってわかります……?」

「陛下ですか? 確か、今年で御年25歳ですよ」


 25歳か……。

 まあ、イメージ通りかな、うん。


 結構しっかりしてる雰囲気の人だからもっと年上でも納得したけど、見た目だけならそれくらいかなって印象だ。


 他の人達の話も聞きたいけど……さすがに、アムルの亡くなった嫁さんの妹さんの年齢とか知らないだろうし、他に俺が知ってる人がそもそも多くないしな。


 あんまり女の人と年齢の話はするべきじゃないってのもわかってるから、これ以上はこの話は止めよう。



「ええと、それじゃあ俺は適当に休んでますから、アムル達が目的地についたり、何かあったらまた声かけてください」

「はい、かしこまりました」


 何か、結果的に自分が引き受けた仕事を人に押し付けているような気もするが……俺よりもアリアさんの方が優秀なのは事実だしな。


 引き受けてくれたんだし、お言葉に甘えて俺はのんびりすることにしよう。



 だけど、次にアリアさんが俺に声をかけるまで、それほど時間はかからなかった。

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