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3話 人柱はじめました (16)

 女王様は、こんな光景はもう見たくないと言った。

 俺だって同じ気持ちだ。


「この国を俺も守りたいです。そのために手伝えることがあれば、頑張ります」


 俺の言葉に、女王様は軽く息を飲んだみたいだ。


 アムルのやつは、少し離れたところで控えているから、どんな顔をしているかちょっとわからない。


 女王様の方は、一度だけ口をきゅっと引き結んだ後、また言った。


「また、お命を狙われるかもしれませんよ?」

「それは……出来れば勘弁したいですが、何とか頑張ります」


 男に二言はない。

 既に一度逃げてる俺が言うと説得力がないけど。


 でも、今度こそ逃げるつもりはない。


「俺の"守"なんて名前通り、この国を"守"ってみせます」

「マモル殿……」


 女王様が俺をじっと見る。

 俺の言葉に感激しているように見えなくもない。


(ちょっと、カッコつけすぎたかな……)


 そんな女王様を見ていると、俺の方が少し心配になる。


 守りたいと思ってるのは本当だけど、魔力の提供(?)以外は役に立たないし。

 あくまで俺は手伝う程度しか出来ないだろう。


 実際、俺ひとりでこの国を守るわけじゃない。

 アムルとか、まだ会ったこともない兵士とか、皆でするんだ。


 まあ、こういうのは気持ちの問題だからな。

 俺にその力があるなら、ひとりでも守りきりたいっていう気持ちに嘘はない。


「…………"マモル"、というのは"守る"という意味なのでしょうか?」

「ん?」


 そんな話してたっけ?


 というか、相手が女王様じゃなければ「"マモル"って言ってんじゃねーか」とツッコミをいれたい。


 あ、そうか。

 俺の名前の"守"は翻訳されてなくて、そのまま"マモル"って女王様には聞こえてるけど、"国を守る"の方の"守る"は翻訳されてるのか。


 ややこしいな!!


「あ、はい。俺の故郷では"まもる"は"守る"って意味です」


 うーん、言ってる俺としては、ちょっと意味がわからない。


 翻訳魔法ってこういうややこしい自体も起きるんだな。


「……ということは、我が国の"アムル"と同じですね」

「へ?」

「"アムル"というのは、この国では"守る"という意味なんですよ」


 へ、へー……?

 そうなんだ。翻訳するなら、俺アイツと同じ名前なんだ。


 なんかもう色々とびっくりです。


「と、とにかく! 俺は、この国を支える"柱"になるって、決めましたので!!」

「ええと……さっきから話の腰を折って申し訳ないのですが……」


 え、何。まだ何かあるの。


 ちくしょう、俺カッコつかないな。


 女王様は少し困ったように笑いながら言葉をつづけた。


「"人柱"の"柱"とは、建物を支えるあの柱のことではありません」

「え」


 そ、そなの?


「マモル殿の国では、神々を"一柱、二柱"といったように数えたりはしますか?」

「あー……そういや、しますね」


 なんかラノベあたりで見た気がする。

 一人、二人、とは数えないんだよな、確か。


「人柱における"柱"とは、その神々のことを指す"柱"のことです」

「は、はあ」

「すなわち……"人柱"とは、"人"の身でありながら、"柱"――神のような存在となる方のこと言います」


 正直、初耳だ。


 というか、この国でも"人柱"っていうのは"人"って単語と"柱"って単語が合わさったものなんだな。

 "守る"は"アムル"なのに。


 それにしても、この国にとって"人柱になる"ってことは"神になる"ってことなの……?


 そんなご大層なものになれって言われると、ちょっと気が引けるけど……いや、人柱としてこの国を守るっていうのは、もう決めたからな。


「わ、わかりました。俺が人柱、つまり守護神になればいいんですね」


 そもそも、こういう由来とかは基本的にハッキリしてないもんだよな。

 責任をもって、これだけはちゃんと言っておかないといけないだろう。


 ※諸説あります。


「本当によろしいのですか?」


 俺よりも女王様の方が、未だに迷っているみたいだ。


 眉を下げて不安そうな顔をしている。

 いつもは"勇ましき女騎士"って雰囲気の女王様だけど、いまは"迷える子羊"にも見える。


 ……ここは、神として大事な仕事――つまり、人心の不安を取り除く、ってことをするべきだな。


「問題ありません。どんとお任せください」


 背筋を伸ばし、胸を張り、まっすぐと女王様を見据えて言う。


 カッコつけすぎかなあ、という気持ちがないわけではない。


 でも、今はこの女王様を安心させたいと思う。

 そのためには、俺がビビってるわけにはいかない。


「この国を守るため、俺に出来ることがあったら何でもお申しつけください」


 俺の言葉に、女王様がどう思ったかはわからない。

 コイツ調子に乗りすぎ、とか思ったかもしれない。


 でも女王様は、少しだけ黙った後、表情を和らげた。


「どうぞ、これからもよろしくお願いいたしますね」


 女王様はそう言うと、とびっきりの微笑みを見せてくれた。


***


「お前の名前、俺と同じ"守る"だったんだな……」

「オレも、お前の名前が"守る"って意味だって聞いて驚いたよ」


 話が終わって、俺はアムルと一緒に人柱部屋へと戻るところだった。


 女王様は忙しいらしく、俺達とは別の部屋へ向かった。

 ……忙しい中、俺が時間とらせちゃったみたいだ。ちょっと申し訳ない。


 ちなみに、いまだに人柱部屋への行き方は俺にはわからなかった。

 アムルに城の中を軽く案内されつつ、雑談をしている。


「それにしても、お前も随分なお人好しだよな」


 含みのある笑いを浮かべながら、アムルが言った。

 ちょっと、バカにされている気がする。


「なんだよ」


 ムっとして答えた俺に、今度はほがらかにアムルは笑った。


「別にバカにしたつもりじゃないぞ。むしろそのお人好しっぷりに助かってる」

「はあ、そうですか」


 やっぱり何かバカにされている気がするけど、褒めてるつもりなのか……?


「何しろ、オレ達が言っていることを疑わないしな」

「え? そうだっけ」

「ああ。向こうが先に戦争しかけてきた、ってな話だって"うちに都合の謂いように伝えた"とか"嘘ついた"とか疑わなかったもんな」

「んんん?」


 本当はこっちから戦争しかけたり、先にちょっかいだしたりしたのに言わなかった、って可能性か。


 そういや、そこは疑ってなかったな。


 ここでカッコよく「もしそうなら、そんなことを言わないだろ?」とか答えられたらいいんだろうけど……実際、この世界情勢なんかさっぱり知らない俺には何とも言えない。


「本当にそうなの……?」

「いや。向こうから仕掛けてきたのは本当だぞ」


 ううむ、こっちの言い分だけ聞いても本当なのかどうかわからないな。


 いや疑ってるわけでもないけど……ちゃんとその辺も勉強するべきかな。


「本だけじゃなくて、何か新聞とか歴史書とか、そういうのも今度届けてもらってもいいか?」

「お、それなら大歓迎だな。うちの国のこととか、興味持ってくれたならありがたい」


 興味持つっていうか、自分が守ろうとしてる国のことを知りたいのは普通じゃないか?

 暇つぶしにもなるし。



 そんな雑談をしている間に階段を降りて、見覚えのある壁にたどり着く。


「そうだ、アレが完成したぞ」

「アレ?」


 ってなんだろう。

 本以外に何か頼んでたってけ?


 俺がそう思っている間にアムルは壁に手を当て、隠蔽が高度な引き戸を開いた。

 その先には、見覚えのありすぎる部屋がある。


 ここを抜け出したのはせいぜい半日くらいだろうけど、ちょっと懐かしい気がする。


 今度こそ、ここが俺の生活する場所であり、人柱として国を守るための場所にもなる。


 初めてここへ来た時とはまた違った心持ちで部屋へと入った。


「ほら、これ」


 そう言って、アムルが石を取り出す。


「それ、明るさ変えたりするやつと同じだよな?」

「そうそれだ。ちょっと位置とか調整するから待っててくれ」


 そう言って、アムルは手を伸ばした。

 手を少し動かすと、部屋が光りだす。


「お、おお……?」


 正確には、光ったのは部屋自体じゃなくて、部屋に描かれてる魔法陣っぽいものだ。


 何かを描写するようにアムルが指を動かすと、光で出来た魔法陣も変化する。

 指自体は、魔法陣には直接触ってはいないのに、だ。


(すげえ、魔法っぽい)


 いや実際、魔法なんだろうけど。


 何かちょっと感動する。

 中二心もくすぐられるな。


「よし、終わり」


 アムルが最後に手を軽く振ると、光っていた魔法陣も消えて元通りただの壁に戻る。

 多分、魔法陣は目に見えなくなっただけだろうな。


「じゃあ、つけるぞ」


 何を。

 俺が聞くよりも先に、アムルは持っていた石を握った。


「お、おおお?」


 石が軽く光ったかと思うと、天井が空になった。

 正確には、天井に空が映し出された、か。


 これが星空だったらプラネタリウムみたいな感じだっただろう。

 でもいまは、夕焼けが始まったばかりにオレンジがかった色の空だ。


 壁さえなければ、パっと見ここが屋外にも思える。

 吹いていないはずの風ですら感じられそうだ。


「こ、これって……」

「前に頼まれてただろ? 窓代わり」


 あ、そういや言ったな。


 気分転換に、窓っぽいのが欲しいって。

 出来ればカーテン付きで。


 でもこれ、窓じゃなくてむしろ空だろ。


「ちゃんと窓用のも作ってあるぞ」

「お」


 そう言って、アムルはもうひとつ石をとりだす。


 アムルがその石を握ると、縦に長い窓が壁に現れた。


「お、おお……」


 窓に映ってる景色は、天井に映ってる空と同じオレンジ色だ。

 ただし空よりは視点が低く木も見える。その木の枝も風で揺れている。


 それは、まさに窓って感じだ。

 ついでにカーテンもついてる。


「やろうと思えば、壁一面を窓っぽく出来るぞ」

「えっ」


 アムルが言うと、壁に映った窓が縦に横に伸びるし増える。

 大小色んな窓が壁の端から端まで埋め尽くす。


 ちなみに、映し出されている光景はそれぞれ別の場所を映しているわけではないけど、全く同じというわけでもない。ちょっとずつズレてる。

 本当にその先に庭でもあるみたいに、窓の位置によって見える角度光景が少しずつ違う。


 何コレすごい。便利。


「気に入ってくれたか」

「おーおう」


 その魔法で作り出された窓をひとつひとつ見ている俺にアムルが言った。


 正直、窓が気になりすぎてアムルへの返事は適当だ。


「他にも気になることがあったら、何でも言ってくれていいぞ」

「ん? 何でも?」

「ああ。お前がここに長時間いてもいいと思えるような居心地の良い場所にしてもらえないと、オレたちも困るからな」


 ……もしかして、また逃げ出すかもしれないと思ってるのか?


 もう今度こそ逃げないって決めたばかりだけど……まあ、居心地は悪いより良い方がいいよな。

 本当に長期間ここにいることになるんだし。


「片っ端から、文句言うかもしれないけど、いいのか?」

「いくらでも言ってくれ」


 迷うようなこともなく、アムルは引き受ける。


 いいのかな。本当に。


 ちょっと申し訳ないような気もするけど……俺はこの国を守る神にならないといけないからな。

 どーんと構えてればいいのか。


「……じゃあ、いっぱい我がまま言うからな」

「おう、任せとけ」




 その後、俺はトイレをはじめとして、色々と気になったこととか要望を言った。

 アムルは嫌な顔ひとつせず「わかった改善しよう」とか「それはちょっと難しいな……こういう代案はどうだ?」とか、真摯にひとつひとつ聞き届けてくれた。


 色々と頼みすぎて「本当にいいのかな……」とか思ったも本音だ。


 でも、それだけアムルも女王様も俺に期待してくれてる、ってことなのかもしれない。


 これだけ俺に色々尽くしてでも、国を守って欲しいってことだろう。


(その気持ちに、ちゃんと応えないとな)


 何度だって言うが、俺はもう逃げるつもりはない。


 この部屋で、この国を守る。

 改めて、自分の心に誓った。



 俺が、本当の意味で人柱を始めたのは、この時からだった。



ここまで、読んでいただきありがとうございます!

これにて序章は終了となります。


※諸説あります の内訳を含むあとがきを活動報告にて載せましたので、もし気が向いたら覗いてみてください。


また、今後のプロットを考えたりするため、次回の更新は少し先になりますm(__)m

だいたい一ヶ月後には戻って来る予定なので、その時はまたお付き合いいただけると幸いです。


繰り返しになりますが、ここまで読んでいただき、またブクマ評価等していただき、ありがとうございます!

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