3話 人柱はじめました (15)
「ご無事でしたか、マモル殿!」
「ティ……王様」
城に入ってすぐ、女王様に声を掛けられた。
ティナ王様とか言いそうになってしまった危ない危ない。
女王様は相変わらず騎士風の勇ましい恰好で、俺達を歓迎してくれている。
俺達が無事に帰ってきて、本当に安心した、といった様子だ。
「…………勝手に抜け出して、心配かけて、それに……街の人を危険にして、本当に本当に申し訳ありませんでした!」
俺は身体を直角に折り曲げて深く謝った。
人的な被害は結果的になかったとはいえ、この人の国民を危険な目に遭わせたんだ。
こんな軽く謝ったからって許されるようなことでもないと思う。
でもティナ王様は、怒っているわけではなさそうだった。
「こちらこそ、貴殿を危険な目に合わせてしまい、大変に申し訳ありません。このような役目など放り出してしまいたくなるのも無理からぬことでしょう」
本当に申し訳なさそうな顔で、目を伏せられる。
そんな対応されると、こっちの方が戸惑ってしまう。
いやホント、勝手に抜け出したことは申し訳ないと思っていますので。
「本来ならば、吾が自らお迎えに行きたかったのですが……言い訳になってしまいますが、この城が攻撃されることが予測されていたため、離れるが出来ず申し訳ありません」
「攻撃?」
少し前に、城下町が攻撃されたばかりだけど……そうか、城に攻撃される可能性だって十分あったか。
「食事に毒を盛り、そしてその後、国に供給される魔力が減ったとなれば"人柱は死んだ"と彼奴等は考えるでしょう」
「きゃ、きゃつら、ですか」
「そして、その隙に攻撃すると考えるならば……標的になる可能性が最も高かったのは、この城です」
え、そうなの?
確かに国王様がいる城自体を狙った方が手っ取り早いのかもしれないけど……何かここに来るっていう確信があったみたいだな。
俺が戸惑っていると、女王様に同意するようにアムルが続けた。
「そも遠距離に関わる魔法を使う場合、目的の場所に協力者を置くと位置や的を定めやすくなりますから」
「……そうなの?」
実際に魔法使いがいる場所とは別に、攻撃したい場所にも人を置く、って認識であってるかな。
それなら、実際に攻撃したい場所にいる人が魔法使えばいいんじゃ。
「今回の場合は、食事に毒を盛った人間……敵国の協力者が呪符を持ち、そこを目印として魔法を放った、という状況です」
「えーっと、つまり?」
「その協力者もろとも、周囲を破壊しようとした、というわけですね」
うわあ……最悪だな、その隣国。
結局、俺は死んでなかったし、アムルと協力したから大した被害はなかったけど、もしそれが成功してたら城を一気に落とせてたわけか。
俺が唸っていると、今度は女王様が言葉を引き継いだ。
「その協力者は既に捕らえて、いまもこの城の中で拘束されています。呪符を持っていることも確認できました」
あ、もう捕まってるんだ。それは助かった。
また殺されかけたらたまったもんじゃないし。
「あえて城に滞在させ、その人物――の持つ呪符を標的として魔法を放たせ、それを迎え撃つために魔法兵を集結させていたのですが……」
ふむ……そうなると、だ。
「もしかして、向こうは城を狙って攻撃したのに、外して城下町に落ちた……?」
「そう考えるのが自然でしょう。あえて、城下町を狙った可能性もありますから、油断もするべきではありませんが」
ううむ、いまの状況じゃ、ただの魔法下手か意外と色々考えているのかよくわからんな。
一般人の俺には戦術とか魔法の仕組みとかもさっぱりわからないし。
「……ええと、立ち話も何ですし、場所移動しません?」
とりあえず女王様に提案してみた。
そもそも、そのために城に来たはずじゃなかったっけ。
と言っても、一応女王様には謝れたし、このまま人柱部屋に直帰でもいいんだけど。
「そうですね……少し、吾についてきてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい?」
「立ったまま、というのは変わらないのですが、見せたいものがあるのです」
女王様はそう言って、いくつかある廊下のうちのひとつの前に立った。
ついて行ってもいいんだけど、そろそろ人柱部屋に戻らなくて大丈夫かな。
また攻撃でも来たらどうするんだろう。
まあ、近くにアムルもいるし、何かあっても対処自体はすぐに出来るか。
そんなことを思いながら女王様のところへ移動した。
「では、こちらへ」
前に初めて人柱部屋に移動した時のように、女王様が先導して案内する。
そういや、あの時は護衛っぽい人たちがいたけど、今日はいないな。
ティナ王様、俺、アムル、の三人だけだ。
ちなみに、アムルは俺の後に控えたまま黙っている。
後じゃなくて横でも前でもいいんだけどな。
それにしても、見せたいものって何だろうな。
まさか国宝とか……?
女王様は人柱部屋のあったような地下ではなく、今度は階段を上へ上へと昇っていく。
……正直、ちょっときつい。
何段あるんだこれ。少なくとも、城下町の教会前の階段よりは多い。
「もうすぐつきます」
俺が苦労しているのに気づいたのか、女王様が言った。
何かすみません。大丈夫です、多分。
「この先です」
そう言って、指し示した先には、光が差し込んでいた。
(外……?)
その出入口から、先に女王様が外に出る。
俺とアムルがその後に続いた。
そこは、オシャレなテラスには到底見えなかった。
パーティとかするような場所じゃなく、周りを見渡すこと自体が目的の場所に見える。
ようするに、見張り台みたいだ。
ついでに、端の壁は凸凹としている。
この隙間から弓矢とかで攻撃するんだろうな、きっと。
「こちらへ」
そう言って、女王様は端の壁の方へと移動した。
「ついさっき攻撃されたばかりなのに、そんな端近に行っちゃって大丈夫?」とちょっぴり思いながら、女王様に続く。
アムルは少し離れた場所で待っていた。
「ここって……」
「ここは、敵が攻め入られた時に相手方を確認することも出来るのですが、それ以外の時は街を見ることも出来るんですよ」
隙間から下を見れば、女王様が言った通り街の様子を見渡すことが出来た。
建物が立ち並び、大小様々な道が間を通り、そこを人が行き交っている。
空には、太陽が傾きかけているのが見えた。
もうちょっと時間が過ぎてれば、綺麗な夕日が見れただろう。ちょっと残念。
「あ。あれって」
城下町をよく見れば、人が集まっているところがあった。
その中心には壊れた建物があって、そのすぐに近くには鎧をまとった人が何人かいる。
あれが衛兵かな。
その衛兵の更に外側にはいろんな人が集まっている。
「……あそこが、先ほど攻撃を受けたところですね」
「やっぱり、そう、ですか……」
上から見ると、街のほんの一部とはいえ痛々しい光景だ。
本当に、怪我人が出なかったのが奇跡だな。
「吾は――私は、こんな光景をもう見たくないんです」
「ん?」
何か女王様の口調がちょっと変わったような。
気のせいか?
「この国へ無理に連れてきたことは本当に申し訳ないと思っています。あなたが城を出たことは咎めるつもりもありません。もう二度とこの城へ近づきたくない、というのでしたら、可能な限り援助いたしましょう」
そう言って、女王様は俺の方を見た。
女王様の表情は不安そうにも見えるけど、でも目だけは真っ直ぐ俺を見据えている。
「でも……それでも、私はこの国を守りたいのです」
うーむ……やっぱり喋り方が変わっているような。
いつもの勇ましい感じがない。
……なんて、そんなことはどうでもいいな。
口調なんかよりずっと大切な話がある。
「俺は、この国に来たばっかりで、まだ知らないことばかりですけど……」
そういえば、アムルにはもう伝えたけど、女王様にはまだ言ってなかったな。
一度、大きく息を吸ってから、俺も真っ直ぐ女王様に向き合った。
「俺もこの国を守りたいです。そのために手伝えることがあれば、頑張ります」




