3話 人柱はじめました (14)
「は? お前、ずっと俺をつけてたの?」
城に向かって歩いている途中、雑談のつもりで話をしていた。
ところが、何か予想外の発言が飛び出してきた。
「ああ、エイルにも頼んでおいたんだ。"もしアイツが部屋から抜け出そうとしたら、そのまま自由にしてやってほしい。それと、オレに連絡してくれ"ってな。さすがに城下町の外へ出たら止めようとは思っていたが」
「え、じゃあまさか城を出る前から……」
「ああ、結構大変だったぞ。お前のことを知らない兵士がお前を見つけないように誘導するのは」
「はい?」
「お前を城から抜け出させたのは、オレも共犯ってことだ。先回りして声をかけたり、魔法使って兵士を足止めしたりな」
「ええー……」
俺があっさり城を抜け出せたのはそのせいかい!!
……ただのザル警備じゃなかったんだな。
「だから"勝手に抜け出した"ってとこは気に病まなくてもいいぞ」
「はあ」
俺が言うのもなんだが、コイツなかなか自分勝手というか、自由だな。
それだけの権限があるってことなんだろうか。
「ちなみに、結局お前は何なんだよ」
「何って?」
「偉いの?」
「あーそうだな。結構偉いぞ」
「どれくらい?」
「この国の軍属だけで考えるなら、三番目くらい」
「さっ……」
え、もしかしてコイツめちゃくちゃ偉いんじゃ……。
「正確には、一番偉いのは王であるディエーティナ陛下だ」
「うん」
そこは問題ない。
「次に、軍属をまとめる人がいる。この役職は、だいたい国王以外の王族がなる」
「ふむ」
ここも問題ないな。
「その下に、それぞれ役割の違う部隊がある」
「はい」
陸軍とか、海軍とか、空軍とか、そんな感じの分類かな?
「その部隊の内の一つが、防衛や国内の治安維持活動を請け負っている。それが、ガイスの部隊だ」
「ほう」
「他にも、魔法に関すること全般を請け負っているところがある。それがオレのところだ」
「なるほど」
陸海空説は違うのか。
目的別って感じかな。
「で、その部隊の隊長がオレ」
「へー……」
……何か、すごいことさらっと言ったような気がするな、コイツ。
陸海空説に無理に当てはめるなら、コイツ陸軍で一番偉い人、とかそういうことになるんじゃ……?
「まあ多少は偉いって言っても、あくまで軍部内の話であって、爵位とか身分っていう意味ではそこまで高いわけでもないんだけどな」
「軍人も爵位持ってるの……?」
「正確には、軍属の全員が持っているわけじゃないが、ある程度偉い奴は持ってる」
「ということは……貴族とかある程度身分が高くないと偉くなれない……?」
「逆だな。ある程度偉くなると、騎士の称号や爵位も貰える」
「ほー」
「まあ、城に所属する軍人は、爵位だけもらっても領地はなかったりするけどな」
「ふーん」
それが、普通なのか異常なのかよくわからないな。
この世界の常識も、元の世界の中世ヨーロッパ的な制度もよくわからないや。
でもとりあえず"身分はそれほど関係なくて、基本的には実力主義"ってことでよさそうだな。
いい国だなーと思うと同時に気が付いた。
つまり、魔法部隊で一番偉いコイツは、もしかすると魔法技術もすごいんじゃないかと。
「お前も実力でのし上がったくち……?」
「うーん……そうとも言えるし、そうでないとも言えるな」
「どゆこと?」
「オレは、この国はもちろん、この大陸でもトップクラスの魔法使いだと思っている」
おおう……随分大きくでたな。
「でもさすがに、平時だったらこんな若造にこんな役職を任せないさ」
若造……。そういや、いまだに年齢聞いてない。
「でも、先代の隊長や多くの兵士が戦争で死んでな……。それで、残っている中で一番魔法が上手いオレが急遽隊長になった、って感じだ。端的に言うなら"人員が足りてないから、若くても仕方がない"ってところだな」
「……そうか」
急に重い話が混ざってくるな。戦時中だから仕方ないか。
「これで、大体の説明は済んだか?」
「年齢」
「ん?」
「お前の年齢、聞いてない。あとあの子供たちのことも」
「ああ……まさか、お前の後をつけてたら、うちの子供たちと遊ぶとはオレも思わなかったよ」
アムルは意外そうに軽く肩を竦めた。
そりゃこっちも意外でしたよ。
まさか、たまたま出会った子が知り合いの子供だったとか。
世間が狭すぎるだろう。
「やっぱり、お前の子供なのか?」
「ああ、正真正銘オレの実子だ」
うーむ……やっぱり意外だ。
26歳の俺と大して年齢が変わらないか少し上くらいだろうと、ずっと思ってたけど……。
……あ、26歳って子持ちでもそんなにおかしくもないのか……。
自分が彼女なんてさっぱりいないから、気が付かなかった。
ちょっぴり切なくなりつつ、念のため確かめる。
「で、お前年齢は?」
「24」
よん……っておいお前。
「年下……?」
「……年上か」
「にじゅうろくさい……」
「…………」
なんだかちょっぴり気まずくなって、顔を見合わせてお互いに黙る。
しばらくした後、先に口を開いたのはアムルだった。
「もうちょっと丁寧に扱うか? それこそ、年上として」
「いや、いい。このままで。うん」
今更、敬語とか使われても何か違う気がするんだよな。
このまま、気さくな感じでお願いします。
友人みたいに。
そんなしょうもない話もしつつ歩いていたら、城の入口は目の前にあった。
前と同じようにそばには兵士がいて、前と同じように大きく敬礼される。
……いまになって思えば、そりゃ軍の中でも三番目くらいに偉い人間が相手だったら、扱いも丁寧になるよな……。
お勤めご苦労様です、と心の中でひっそりとつぶやきながら、城の中に入る。
前に入った時は、その先でメイドさんがいたけど、いまはいない。
代わりに、女王様がそこに立っていた。




