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1話 異世界に拉致されました (2)

「え?」


 道を曲がったその先には、地面に開いた穴から顔を出す男の姿があった。


(落とし穴……?)


 俺は一瞬そう思ったが、よく考えたら穴が開いてる場所は道路の端の方だ。

 イタズラでアスファルトに穴なんか開けられないだろう。


 ということはマンホールか。


 そうだ、きっとマンホールだ。


 この男も、何か清掃員とか作業員とかそういう類の人だろう。


 男は顔が長めだけどそれなりにイケメンだし小奇麗だ。

 正直、こういうところで作業してるのはあまり似合わないような気もする。


 でもまあ、こんな作業員さんだっていることにはいるだろう。


 それにしても、ああびっくりした。

 地面から頭が出てるとか、ホラーかとも思ったよ。



(……あんなところに、マンホールあったっけ?)



 そんな疑問が思い浮かんだけど、気づかなかったことにする。

 普段から住んでる場所だからって、マンホールの位置なんか全部覚えてないしな。


 さっさと目的地のコンビニに向かおうと、その穴を避けて道を進むことにする。



「……見つけた!」

「は?」


 そんな俺の反応は完全に無視して、男は目を輝かせた。


 おいやめろ。そんな運命の相手に巡り合ったみたいな顔をするな。



 お前がホラーの人だろうがイケメン作業員だろうがどうでもいいが、とりあえず男にそんな顔されても嬉しくない。


 俺が好きなのは、もっとこう――



「うわっ!?」


 男は穴から身を乗り出すと、腕を伸ばし俺の足首を掴んだ。


 そしてそのまま穴の方へと引き摺りこもうとする。



 ……とても、とても、ホラー感があります。



「ちょっ……やめっ……!!」


 さすがにビビった俺はその手を振りほどこうとしたが、その男はやたら力が強かった。


 外で運動するよりも引きこもりたいといつも思っている俺が、その力に勝てるはずもない。

 

 片足をずるずると引き摺られ、もう片足で踏ん張るが耐えるどころかバランスを崩しそうになる。


「よっ……と!」

「あ」


 男は軽く掛け声を上げると、俺の足を持ったまま穴へと消えた。



 それと同時に、転がるような形で俺の身体も穴へと落ちていく。



 その一瞬、俺は青い青い空を見た。


 しかし、その視界は一瞬で黒く塗りつぶされる。



(足痛てぇ!!)


 掴まれた足首、無理矢理引かれた股関節が痛みを訴える。


 そして、穴へと落ちた身体が、地面に叩きつけ――――られなかった。


「え? え、ええー?」


 あたりは真っ黒だ。自分の足先すら見えない。


 多分、あの穴の中なんだろう。



 その中で、俺の身体は真っ逆さまになったままだ。


 落ち続けてるのか、宙に浮いてままのかもよくわからない。



「うわっ!!」


 やっぱり落ちてるのかと思ったら、突然上に引き寄せられる。

 かと思ったら、今度は右に左に身体を持っていかれる。


 嵐にでも巻き込まれたみたいに、もしくは重力の方向が滅茶苦茶になったみたいに、上下前後左右に身体が引っ張られ、どこかへ落ちそうになる。


 それでも、風のような音は聞こえず、自分の声や服が擦れる音だけなのが不気味だった。


「ぐ……ぅ……」


 同時に、乗り物酔いや貧血、睡眠不足体力不足、思いつく限りの体調不良を全部合わせたような不快さも湧き上がってくる。


 全身を揺さぶられているから酔ったって程度じゃない。


 この場所自体にいるだけで、急速に俺の体力を奪っていくようなそんな心地だ。



(もう、駄目だ……)


 俺が早々に諦めて目を閉じようとした時、どこからか声が聞こえた。


「こっちだ!!」


 同時に掴まれたままの足が引っ張られる。


(ああ、あのイケメンか……)


 ちょっと顔の長いあの男が誰なのか知らないが、今は頼るしかない。


 例えこの後ホラー展開が待ってるとしても、今ここで死ぬよりはマシなはずだ。


 そんなことを思いながら、引っ張られる足の先を見た。



 その先には、光が差していた。


 この穴で初めて見た光だ。

 あんなところにあったっけ?


「さ、あと少しだ!」


 男はそう言って、光へと向かっていく。


 徐々に近づいていく光に照らされ、ようやく男の顔が見えた。



(いや、せめて足じゃなくて腕……)


 宙に浮いたままではあるが、引き摺られるように俺の身体も光へと向かってはいる。


 だけど、足を掴まれたまま宙に浮いた状態じゃさすがに不安定だし痛い。



 こっちの方にしてくれ、とか思いながら男に向かって腕を伸ばす。


 俺がやりたいことにすぐに気が付いたのか、男の方ももう一方の手をこっちに伸ばしてくれた。



 だが、俺はもう限界だ。



 伸ばした手がそいつに届いたその瞬間、俺は意識を手放していた。





 そしてまた目覚めた時には、見知らぬ場所にいた。

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