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3話 人柱はじめました (13)

「俺が悪かった!! すまん!!」

「ん? なんのことだ?」


 俺はアムルと繋いでいた手を離すと、真っ先に身体を折り曲げて謝った。


 ところがアムルは、何のことかさっぱりわからない、といった反応だ。


「なんのことってな……」


 いま俺たちの目の前には、倒壊した建物がある。


 アムルが抱きかかえている女の子――どうもアムルの娘っぽい――は、建物が倒れる瞬間、その近くにいた。


 ようするに、文字通りあと数歩でこの子は死ぬところだった。


 建物が壊れた原因は、街が魔法による攻撃を受けたからだ。

 それで……これはあくまで俺の予想だが、もし俺がこんなところをほっつき歩いてなければこんなことにはならなかったはずだ。


 実際、アムルの奴と手を繋いだだけで、攻撃は全部防げた。


 "人柱"としてあの部屋に居て、国を守るため魔力を供給していれば、最初の一撃もすべて防げた可能性があるんじゃないか。


「いやほら、勝手に抜け出してきたこととか……」

「あー……その話はちょっと場所を移動してからにするか」


 アムルは少し困ったような顔をして言うと、抱えていた女の子を下ろした。


「ごめん、パパはまだ仕事があるから、先に家に帰っててくれるか?」

「よるには、かえってきてくれる?」

「ああ。何時になるかはわからないけど、エリナたちが寝るよりも早く帰れるように頑張るからな」

「ぜったいだよ!」


 アムルはエリナちゃんの頭を撫でながら、エリナちゃんはアムルを見上げながら話をしている。


 うーん、親子の会話って感じだな。

 ちょっと……羨ましい。


「じゃあ、また夜にな」

「パパ、いってらっしゃーい!」


 子供たちはサレンさんに連れられていった。

 通りを進んでいって、すぐに姿も見えなくなる。


 この辺りは住宅街みたいだし、多分近くに住んでるんだろう。


 それにしても、壊れたのが民家じゃなくて人がいない小屋で良かった。

 ……いないよな?


「な、なあ今更だけど、この小屋に人とかいないよな?」

「ん? いないと思うぞ。魔法で軽く調べてみたが、特に生体反応みたいなのはないし」


 いつの間に。

 調べる魔法(?)とやらは、話しながらでも使えるってことか。


 しかし、"生体反応がない"って、それもう死んでるってことじゃ……いや、今はアムルを信じよう。そうしよう。


 死体があるかどうかとかも分かるってことだよな、きっと。


「すぐに衛兵も来るだろうから、任せておいて大丈夫だと思うぞ。オレからもガイスに報告するし」

「おう、わかった」


 ガイスさん……って確か、いかついおっちゃんだよな。

 "警邏も担当してる"って言ってた気がする。


 こういう事件の処理もあのおっちゃんの管轄なのか。


「そういや、お前の管轄というか、お前は何をする人なんだ? "アムル様"とか言われてたし、実は結構偉い人なんじゃ……」

「その辺を説明するのは構わないんだが……立ち話もなんだし移動しないか?」


 それもそうだ。


 壊れた建物の前で男二人で話し合ってるのも、はたから見たら怪しいだろうし。


「じゃあ、もう城に戻るか」


 俺が言うと、アムルからは予想外の反応が返ってきた。


「……いいのか?」


 むしろ駄目なの?


 俺はもう帰る気まんまんで城に足を向けてたが、アムルの方は神妙な面持ちだ。


「え、いや、駄目ならいいけど……城じゃ駄目なのか?」

「いや、お前がいいのか?」


 話が噛み合ってない。

 どゆこと。


「いやお前……城が嫌だから抜け出したんだろう? それなのに戻っていいのか?」

「ああ、それか」


 確かに、俺は自分の意思で自分の足で城を抜け出した。


 殺されかけて混乱もしてたし、人を殺すことに加担するのも嫌だった。


 でも、いまは。


「そこのところも話し合うんだろう。別に俺は、城に戻っても問題はないぞ」

「…………」

「それに、だな」


 改めてアムルに向き直る。

 そして、正面からアムルの顔を見据えてやった。


「今度こそ腹はくくった」


 自然と口の端が上がる。

 俺自身、こんな顔したのは久しぶりだと思う。


 でも言ったことは訂正するつもりはない。

 むしろ、晴れやかな気分だ。


「この国のために、やれることがあるなら、頑張るよ」


 今日、この街で俺が見たものは、この国のほんの一部だろう。

 でもその一部を守りたいと思ったのは、嘘偽りない本当の気持ちだ。


 エリナちゃんもサレンさんも、教会で一緒に遊んだ子供たちも死なせたくはない。


 敵国の奴だろうと"他人の死"ってやつに抵抗感がないと言ったら、やっぱり嘘になるだろう。


 それでも、もう逃げるつもりはない。


 いつか逃げたくなっても、踏ん張ってやりきるつもりだ。


 俺のそんな気持ちが伝わったのか、アムルの表情は動いた。


「本当にいいのか?」

「おう。もう大丈夫だ」

「そうか……」


 しばらく、アムルは何かを考えているのか黙り込んだ。


 そして、何かの答えが出たのか出なかったのか、また顔を上げた。


「じゃあ、城に向かうか。今度こそ場所を移動しようぜ」

「おう!」


 俺たちは、その場所へ帰るためまた一歩ずつ足を進めた。

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