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3話 人柱はじめました (12)

 それは、居住区っぽいところを歩いてる時だった。


 活気のある街だけど、この辺りは比較的静かだ。

 道行く人はいないわけではないけど、さすがに大通りよりは少ない。


 いわゆる"閑静な住宅街"ってやつだな。

 ……とか思っていたら、突然大きな声が聞こえた。


「伏せろ――!!」


 俺は「は? 何事?」なんて間抜けな感想しか出なかった、というのが本音だ。


 その声に聞き覚えがあるとか、何かテロでもあったのか、なんて思うことはなかった。


 反射的に声がした方を向いただけだ。


「あれ、アムル?」


 この時になって、その声の主がアルムだと気が付いた。

 焦った様子で、こちらに全力で突っ込んでくる。


 何でこんなところにいるんだ、というかどうしてそんな必死なんだ?

 そんなことを思っていると、大きな音がした。


「ふあ!!?」


 文字で表すなら「ドオオォォーン!!」なんて感じだろうが、実際に聞いた俺にとっては、その程度じゃすまないような轟音だった。

 同時に、ガラガラと何かが崩れる音もした気がする。


 ちょっと悲鳴を上げたけど、その音にかき消されて自分でも聞こえなかった。


 そういや、空に光が走っていたような……。

 雷なの? そうなの?

 この世界の雷こんなにヤバイの?


 今まで聞いた落雷の音よりもずっとスゴイ、ずっとヤバイ。

 鼓膜が破れるかと思ったし、地面も揺れた気がする。


「な、なにが……?」


 音が大きすぎて、どの方向から聞こえてきたのかわからない。


 それがどこだったのか確かめるよりも、アムルが駆け寄ってくる方が早かった。


「無事か!?」

「お、おう……」


 まだちょっと耳が痛いけど、怪我自体は特にない。


 それより、何があったのか、なんでコイツがここにいるのか、とかが気になる。


 ひとまず、辺りを見回してみると、とある一ヶ所で砂ぼこりが立っていた。


 他の建物の影になっていてどうなっているのかは見えないが、パラパラと何か小さな欠片が落ちる音もその方角から未だに聞こえる。


 その音に、泣き声のようなものが混ざっていた。


「子供……?」


 俺が言うよりも早く、アムルは駆け出していた。

 多分、子供を助けるためだろう。


「あ、おい……」


 すぐに俺もアムルの後を追う。


 その先で見たものは、元は木製の小屋だっただろう瓦礫と、その少し離れた所で泣いている女の子だった。


 この女の子は見たことがある。というか、少し前に一緒に遊んでたばかりだ。

 確か名前は、


「エリナ!! 大丈夫か!?」

「パパぁっ……!!」


 そうそうエリナちゃ……パ、パパパパパパパぁ!!?

 くそっベタな驚き方しちゃったじゃないか、というか、え、え、お前パパなの!?


 名前を知ってるくらいだから、知り合いではあるんだろうけど……なんて、茫然としているとアムルがエリナちゃんを抱え上げた。


 当のエリナちゃんは、不審者につかまった、という雰囲気ではなく、必死でしがみつくようにアムルを抱き返した。


「大丈夫か? 痛いとこないか?」

「おみみ……」

「そうか、耳か。あとでちゃんと診てもらおうな。他にはないか?」

「うん……」


 アムルと話している内に、エリナちゃんは少し落ち着いたみたいだ。

 まだ目には涙を溜めてるけど、大声で泣くほどでもない。


 しかし、だっこしてエリナちゃんをあやしてる姿は、確かにパパっぽいな……。

 へーほーふーん……お前、パパなの……ふーん……。


 そういや、コイツ年齢いくつだ。


「エリナ、大丈夫!?」

「おばちゃん!」


 すぐにサレンさんも駆け寄ってきた。

 気づかなかったけど、近くにいたんだな。


 やっぱり二人のお子様を連れているけど……ビックリしたのか、こっちの子供も泣いている。


「あ、アムルさ……」

「パパあ!!」

「あー」


 サレンさんがアムルに声を掛け終わるよりも先に、お子様二人が声を上げた。


 ……やっぱり"パパ"なんだな。

 それも慕われてるっぽい。


 名前はアイルくん、だったな。4歳くらいの男の子が、アムルに駆け寄る。

 アムルはそのアイルくんの頭をわしわしと撫でた。というより髪をかき混ぜた。


「お前も怪我ないか?」

「う、うん。でもガシャーンって」

「そうだな、ビックリしたよな」


 扱い慣れてる、って感じがするな……。


 正直、この子たちのパパがお前だった事もビックリだよ。

 いやまあ、さすがに突然の轟音の方がビックリレベルは上だけど。


「一体、何があったんだ?」


 俺は聞いてみたけど、アムルは少しの間黙っていた。


 コイツ、何か知ってるな。


 そもそも、あの轟音がする直前には気づいてたみたいだし。


「……いわゆる、敵軍による奇襲、ってやつだな」

「え?」

「あれは、魔法による攻撃だ」


 雷とか、何かの自然現象ではない、ってことなのか。


「あの、さっき空で光ってたやつ……?」

「そうだ。お前にも見えてたか」

「ちらっとだけだけど……」


 何故か顔も見たことのないやつの言葉を、突然思い出した。


『結界も最近強化されたんでしょ?』


 塀越しに聞いた、兵士らしき男の言葉だ。

 この言葉の意味を、俺は薄々気が付いていながら、頭から追い出していた。


 この結界がどんなものか、なんて俺は知らない。

 でもゲームや漫画と同じなら、魔法攻撃を防ぐ役割だってありそうだ。


 人柱っていうのは、この国に魔力を提供する人間のことだ。

 そして、国を守るのが目的だ。


 それならきっと、結界に魔力を供給するのも人柱の仕事のひとつなんじゃないか。


 でも、俺は今ここにいる。


「……もしかして、俺のせいか?」


 アムルの方じゃなくて、子供たちの方を見ながら、俺はぽつりとつぶやいた。


 この魔法による攻撃とやらで、エリナちゃんは死にかけた。


 もう少し場所がズレていたら、この崩れた建物に巻き込まれていたハズだ。

 飛んできた破片やらで怪我をしなかった辺り、すごく運がよかった、と言える。

 攻撃自体が直撃してた可能性だってある。


 もしこの子が死んでたら、俺は俺を許せなかっただろう。


 この子達は、今日一緒に遊んだ仲だ。

 今日会ったばっかりだし、年齢も全く違うけど、もう友達だ。


 アムルの子供だからとか関係ない。

 俺がこの子たちを守れるなら守りたい。


「……思うところはあるだろうが、一度手を貸せ」


 アムルはそう言うと、エリナちゃんを抱えているのとは逆の手を俺に差し出した。


 この"手を貸せ"っていうのは物理的な意味か。


 俺は向かいあい、その手を握手でもするように握った。


「まだ攻撃自体は終わってない。同じようなのが、二回三回と続く気配がしてる」

「……そうか」

「でも、お前とオレがいれば大丈夫だ」


 なんて楽観的な。

 と思いたいけど、思ってるわけにもいかない。


 大丈夫じゃなきゃダメだ。


 俺だって死にたくはないし、この小さな友達だって、アムルだって死なせたくはない。


「俺の魔力とやらでどうとでもなるなら、いくらでももっていけ」


 正直なところ、いまだに俺の魔力がスゴイとか言われても実感は全くない。


 でももし、本当に手を繋ぐだけで国を守れるなら、安いもんだ。

 何時だって、何度だって、その手を握ってやる。


 そんなことを考えていたら、また空から光が降ってきた。


 今度は魔法攻撃が来るって前もって知ってたから、その光をきちんと見ることが出来た。


 確かに雷じゃない。


 輪郭はギザギザとしていてはっきりと形作られている印象ではないけど、それは大きな矢が真下に落ちてくるみたいだった。


「そう言ってくれることを待っていた」


 アムルはそうぽつりと零すと、また魔法のようなものを唱えた。


上位防御結界ディフェン・アミナ・ラルジュ


 アムルがそう言うと、膜のようなものを街を包み……みたいな変化は起きなかった。

 見た目には特に変わった様子はない。


 だが、空から降ってくる巨大矢の方は、何かにぶつかったように見えた。


 そのまま見えない壁を貫こうとするが、光がそれ以上進むことはなく、むしろその力で光が押しつぶされてるような形になる。


 その光が、徐々に小さく圧縮され、そして突然四方に飛び散った。


「だ、大丈夫なのか?」

「ああ。あの光はこれを仕掛けたやつのところに戻って行くはずだ」

「そ、そうなのか」


 呪詛返し、みたいな単語は俺も聞いたことがあるな。漫画とかで。


 そんな感じの状況なんだろうか。

 魔法が仕掛けた奴に戻って行くってことは。


「それよりも、ほらまた次がくるぞ」


 今度は間髪いれず、三発目が降ってきた。


 二発目も三発目も、最初に落ちた場所と全く同じ所に落ちるわけではなく、それぞれズレたところへ落下していく。


 新しく降ってきた分も街には落ちず、空中でつぶれて四散する。

 そしてまた、四発目五発目とまた落ちてくるが、やっぱり街には落ちなかった。


(大丈夫そう、だな)


 ちなみに、サレンさんや子供たちは、何も言わず見守ってくれていた。

 どういう状況かまではわかってなくても、何か重要なことだ、くらいにはわかってくれているんだろう。


 ……男二人でずっと握手していることを不審に思われなくてよかった。

 そんなことを思う程度には、余裕が出てきた。


 そのまま、じっと待っていたが、攻撃は七発目くらいまでで止み、静かになった。


 それでも手を繋いだまま、次がまた来るかもしれないと警戒していた。


 しばらくして、何かを確認したようにアムルが言った。


「もう、大丈夫だ」


 俺は、無意識に詰めていた息を、ほっと吐いた。

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