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3話 人柱はじめました (10)

(ここ……教会だよな)


 それなりに大きくて元は荘厳だったんだろう、という雰囲気の建物がある。


 この世界の宗教なんかさっぱりわからない俺でも、これは教会だろうと予想がつく。

 ただし、そこそこボロい。


 そして、キリスト教ならあそこに十字架を立てるんだろうな、という場所には……いち、にい……なな?七芒星?が立っている。


 何か不安定で変な図形だ。


「あれー? エリナだ! きょうはせんせいこないよー!!」

「しってるよー!!」


 先生?

 よくわからないけど、教会にはこっちの連れとは違う子供たちがいた。


 年齢はバラバラだけど、小さい子供もいる。

 数は10人弱か。


「あの、ここって……」

「教会です。孤児を預かったり、街の子供たちに簡単なお勉強を教えてくれたりもするんですよ。うちの子たちもたまに教わっていて」

「へー……」


 よくわかってない俺にサレンさんが教えてくれたけど、それでもよくわかってないってのが本音だ。

 あの子供たちが孤児なんだろうか。


「あのね、パパも先生なの!」

「ん?」

「パパはね、すっごいんだよ!!」

「ふーん」


 一番上の女の子――エリナちゃん、でよかったよな――その子がやたら誇らしそうに説明してくれた。

 が、さらに意味がわからなくなったぞ。


 たしか、パパって"国のために戦ってる人"だったよな。

 兵士とかかと思ってたけど、先生なの?


 まあいいや。パパについてはどうでもいい。


「ここが"たのしいばしょ"なの?」

「うん! ここはね、いっぱいあそべるんだよ! みんないるし、たのしいよ!」

「そうかー」


 "たのしいばしょ"とやらに連れてきてくれる約束だったけど、子供基準で"たのしい"ところか。

 ですよね。ちょっと予想はついてました。


 ここは公園代わりってところかな。


 確かに庭は広い。

 さすがに滑り台とかはないけど、子供たちが走り回って遊ぶ程度には十分だろう。


「かくれんぼにする? おにごっこにする?」

「え? あーじゃあ、かくれんぼで」


 この世界にもあるんだな。かくれんぼもおにごっこも。


 さすがに身長差ありすぎて、体力ない俺でもおにごっこじゃ勝負にならないだろう。

 かくれんぼを選んだ俺は紳士だ。うん。


「みんなも、かくれんぼやるー?!」

「おうー!!」

「お、おう……」


 なんかエリナちゃんが呼び掛けて、ちびっこたちが集まってきた。


 その勢いにちょっと引いたってのが本音だ。

 元気いっぱいの子供たちは俺にはまぶしすぎる。


「えと、じゃあ……いってきます」

「はい。私はここで待ってますね」


 サレンさんに言ったら、ひらひらと小さく手を振ってくれた。


 一番下の子はさすがに小さすぎて、かくれんぼに参加は出来なさそうだ。

 その子の面倒を見るため、サレンさんもかくれんぼ不参加だな。


「よーし、まずルールの確認だけしたら、鬼を決めるかー」


 そんなことを言いながら子供たちに向かい合う。

 すると、お子様たちはそれぞれ元気よく答えた。


「おには、おじちゃんがやってー!!」

「おじちゃんじゃない。お兄ちゃん」

「兄ちゃんが、鬼やるのかー?」

「あー……何でもいいや」


 エリナちゃんやアイルくん?はもちろん、名前すら知らない子供たちが俺を中心に騒ぎ出す。


 正直、戸惑っているっていうのが本音だけど……悪い気分でもなかった。


「よーし、それじゃあ遊ぶかー!!」


 俺が言うと、お子様たちは「きゃー!」やら「わー!!」やら歓声を上げた。


***


「つ、つかれた……」

「ご苦労様です」


 結論から言うと、俺は子供たちの体力についていけなかった。


 最初はかくれんぼをした後、次におにごっこをした。

 でもおにごっこ開始後、十分程度で俺はもう限界だった。


 俺なさけなさすぎる……。


 ちなみに、子供たちはわーきゃー騒ぎながら、まだまだ元気に走り回っている。

 俺が極端に体力少ないのか、子供たちが凄いのか……。


「子供たちの相手って結構大変でしょう?」

「そ、そうですね……」


 サレンさんはこうなるのを予想していたようにくすくすと笑っている。


 この人、意外と神経が図太そうだな。


「……いまなら、こっそり抜けられますよ?」

「え? 抜けるって……」

「子供たちの相手は私がするので、帰っちゃっても大丈夫ですよ」


 あー……そうか。俺ただの気分転換でお子様たちと遊んでただけだ。

 別に最後まで面倒見る必要はないのか。


 もう疲れてこれ以上は遊べそうにないし、退散するにはちょうどいいタイミングだな。


「……では、お言葉に甘えて、そろそろ帰りますね」

「はい、子供たちの面倒を見てくれて、ありがとうございました」


 このまま黙って帰ってもいいんだけど……せっかく、一緒に遊んだ仲だからな。


「おーい、ちびっこどもー!! 俺はもう帰るからなー!!」


 せっかく気遣ってくれたサレンさんには申しわけないけど、挨拶くらいはしとくか。

 立ち上がって、お子様たちに叫んだ。


「えー!! もう帰っちゃうのー!?」

「おう! 結構楽しかったぞー!! ありがとな!!」


 実際、子供たちと遊んだのは結構おもしろかった。


 俺の目的は気分転換だったわけで、それには最適だったな。

 気分はすっきりしている。


 まだ答えがでたってほどでもないけど、今なら冷静に話し合えるだろう。


「じゃあーなー!!」

「ばいばーいー!!」


 もっと遊んでよー、なんて文句言ってるやつもいたけど、元気に手を振り返してくれた。


 うん、かわいいな。

 また遊べるといいけど、どうだろうな。




 一先ず、階段を降りて教会から離れた。

 すでに体力のほとんどが尽きている俺にはちょっと辛い。


 もう少し休んでからでよかったかな。

 ちょっと調子に乗って遊びすぎてしまった。


 そんなことを思いながら、ふらふらと塀に寄りかかった。


 塀の向こうは、多分街の外だ。

 どこかの家の塀じゃないから、休憩させてもらっても大丈夫だろう。


「ふう……」


 これからどうするか。

 一番の目的だった"気分転換"はすでに済んでる。


 もうちょっと街を見たいのが本音だけど、そろそろ帰らないとマズいだろう。


 太陽はまだ沈んでもいないけど、ここへ来た時よりは傾いてもいる。

 子供たちと遊んでいて、どれくらい時間が経ったのかはわからないけど、一時間は余裕で過ぎている気がする。


「……帰るか」


 これからも人柱をするかどうか、なんてまだ俺の中で答えは出ていない。


 でも、城に帰るくらいならもう大丈夫だ。

 ちょっとだけ、気持ちの整理がついた。


 また話し合って、今度こそ真面目に考えよう。

 軽いノリではなく、本気で人柱をするかどうか。


 そんなことを考えながら、塀から背中を離した時だった。


「おい、例の猪は見つかったか?」

「いやまだだ」


 …………猪?


 塀の外にいるのか、姿は見えないが大人の男の声が聴こえてきた。

 一人じゃなくて、最低三人はいそうだ。


「まだ被害が出ていないとはいえ、かなり大きな猪なんだろう?」

「目撃者によると、そうみたいだ」

「さっさと討伐しちまわないと、マズいんじゃないか?」

「ああ、だからさっさと探し……」

「で、でも、ソイツ黒かったんだろう? しかもデカいって……それ(くろ)(いのしし)じゃないのか?」


 黒い猪だから黒猪……? なんという安直なネーミング。まあわかりやすいからいいのか。


「バカ言うな。黒猪なら、目撃証言よりもっとデカいはずだろう?」

「いや、慎重になることは悪いことじゃない。"黒猪の可能性がある"程度には上に報告してもいいだろう」

「よ、よかった……」

「何しろ、アイツなら動物というよりも、モンスターだからな。俺たちの手に負えない」


 ………………本来はやたらデカい、黒い猪モンスター、ね。


 なんだか、とてもとても心当たりがある。


「えー、大丈夫じゃないスか? 何か結界も最近強化されたんでしょ?」

「だが、油断はしないに越したことはない。人的被害が出てからじゃ遅いんだぞ」

「へーい……」


 兵士とか警察みたいな何かだったんだろうか。

 次第に声も遠くなっていき、会話も聞こえなくなる。


 しっかし、気になるな。


 この辺に出た猪モンスター?

 もしかして、あの時会ったアイツだろうか。


 もしアイツだったら、人間を襲うようなことはしないと思うが……兵士たちはそれを知らないか。


(ちょっと覗くくらいならいいよな……。ちょっと見たら、今度こそ本当に城に戻るし。外には出ないし)


 もし本当にアイツで、もし本当に討伐されたら、さすがに可哀そうだ。


 自分に言い訳しつつ、街の外と内とを繋ぐ入口を探すことにした。

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