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3話 人柱はじめました (9)

「何かこの辺で観光地……じゃだめか、お金なくても楽しめる場所ってどこかありますか?」


 子供を三人を連れたママさん(仮)に聞いてみた。


 実際のところ、気分転換のためにただうろうろしてるだけでもいいんだけど、それだと不審者扱いされかねない。

 この髪、そこそこ目立つみたいだし。


 それに、この国……というか、この世界の金なんか持ってないからなあ。

 金の掛かるものはダメだ。食事とかも。


「そうですねえ……特には、これと言って……」

「あたしが、あんないしてあげる!! たのしいばしょ!」


 お。さっき俺に体当たりしてきた方の小さな女の子が話に割り込んできた。


 元気いっぱいに目を輝かせて、俺をまっすぐに見上げている。


 キラキラしすぎててちょっと眩しい。

 そして、対応に困る。


 正直、子供は苦手だ。

 "嫌い"って意味じゃなくて、"対応がさっぱりわからん"って意味で。


「えーと……どしたらいいです?」

「そうですね……どうします?」


 ママさんに確認したら、これまた曖昧な答えが返ってきた。

 どうすりゃいいんだ。


 そんなことを思っていたら、お子様が俺の手をとった。


「こっち!」


 そのまま、俺を引っ張っていこうとする。

 "たのしいばしょ"とやらに連れていくつもりだろう。


 俺としてはちびっこに付き合ってもいいんだが、ふと"事案"とかいう単語が脳裏をかすめる。


 大丈夫かな……と、ママさんを覗いてみたら、やっぱり困ったような顔をしていた。


「うちの子がすみません……。お忙しいでしょうし、放っておいてもらっても大丈夫ですよ」

「いえ、忙しくはないです。全然。本当に」


 ……本当は早めに城に戻った方がいいんだろうけど。


 でも、そのための結論はまだ出ていない。

 少なくとも今は帰るつもりはない。


 無責任かつ自分勝手だとはわかってはいるけど、少しくらいは大丈夫ですよね。きっと。


「そちらこそ、お時間は大丈夫ですか?」

「ええ、元々この子たちと遊びに出るだけの予定でしたから。相手をしてくださるなら、むしろ助かります」


 子供の相手か。

 本格的な子守りを任されたら困るけど……ちょっと遊ぶくらいならいいか。


「少しくらいでしたら……」

「ねえ、はやくー!」


 俺が喋っている途中、今度は俺の手を引いている女の子の方じゃなくて、ママさんに手をひかれた男の子の方が言った。


 のんびりと話していることに、飽きたみたいだ。


 ちなみに、もう一人の子は抱っこされたまま静かだった。


 よく寝て……ない。ちゃんと目が開いてるじゃねーか。

 じーっとつぶらな瞳でこっちを見てる。


 みんな遊びに行くことを期待してるっぽい。


「よしよし、さっさと行くか!」

「わあーい!!」

「すみません、ありがとうございます」


 ママさんは恐縮しているが、子供たちは元気いっぱいだ。

 どうせだし、移動中に色々聞いてみるか。


「えーと、もしよければお名前を聞かせてもらってもいいですか?」

「あたし、エリナ!! 5歳!」


 うん、ちびっこの中では一番背が高い女の子よ。

 キミじゃなくてママさんに聞いたつもりだったんだ。


 子供たちにも聞くつもりではあったけど、順番な。

 あと今は年齢は聞いてない。


「ぼくアイル! 4歳!!」


 はい、二番目に背が高い男の子はアイルくんですね。年子かな。

 お姉ちゃんが自己紹介したから、キミもしたのかな?


 もういいや、このままちびっこの名前全員きいちゃおう。


「キミは自分のお名前言えるかな?」

「イリナ、1歳でーす。ちなみに、女の子でーす」


 ……ちびっこの顔あたりにママさんが顔を寄せて、そのままちびっこが喋っているかのようにママさんが喋りだした。

 ちびっこの腕を持って振りつつ。


 正直、ママさんがかわいい。

 よくある光景だとは思うけど、かわいい。


 お子様の方も、くすぐったそうに笑っててかわいい。


「えっと……ちなみに、私はサレンです」


 俺がガン見してたからか、ママさんが少し照れ臭そうに言った。


 薄々気づいてたけど、この国では名前は基本三文字なんだな。

 ……ちょっと覚えづらいけど、頑張ろう。


「俺は守です、よろしく」

「よろしくー!」

「よろしく!」


 漫画だったら、"にぱー"なんて効果音が描かれそうな笑顔をお子様二人が見せてくれた。


 かわいいけど危ないぞ。


「ほら、ちゃんと前向いて歩け」

「はあーい!!」


 ちびっこは前へ向き直ったものの、きゃあきゃあ騒ぎながら歩いていく。


 またさっきみたいに、他人にぶつかりそうで危なっかしいな。

 何であんなに元気なんだ。


「……そういえば、さっき"おばちゃん"って呼ばれてましたけど、あの子たちのお母さんではないんですか? あ、話したくないことだったらいいです」

「いえ、大した話ではないので大丈夫ですよ」


 よかった。気になってたから聞いてみたけど、マズかったかなって自覚はあったんだ。


 ちなみに、前を進むお子様たちは俺たちの話は聞こえてなさそうだ。


「この子たちは、みんな姉の子なんですけど、三人目の子……イリアを産んだ時に亡くなったんです」

「……そう、なんですか」


 やっぱり気軽に聞くようなことじゃなかったか。


 サレンさんも大変だろうなあ。

 子供たちだって、母さんがいないのは寂しいよな。


 俺には11歳の時から父親がいないけど、なんだかんだで元気でやってるのは母さんがいたからだ。


 もしその母さんがいなかったら、と思うとゾっとする。


「あの、父親は……?」

「元気でやってますけど、お仕事が忙しいみたいで。お金はいっぱい稼いでくれているんですけどね」


 冗談っぽくサレンさんは笑った。


 本当に冗談なのか、本当に本気で言ってるのかは、出会ったばかりの俺にはよくわからないけど……苦労はしててもそれを全部ふっとばしそうな笑顔だ。


 見た目は可憐だけど、"肝っ玉母さん"の片鱗を感じる。


「た、大変そうですね……」

「あの子たちも可愛いですし、それに、あの子たちの父親も国を守るために戦っているんですから、仕方ないですよ」

「国のため、ですか……」


 兵士か何かかな?

 でも、嫌な響きだな。"国のために戦う"って。


 戦争は悪いものだ、って認識が心のどこかにある俺にとっては嫌悪感がある言葉だ。"国のために戦う"は。


 相手が魔王とかモンスターで、国というより人類を守るために戦う、だったらカッコいいと思うんだけどな。

 いや、相手が違うだけでやってることは似たようなもんだけど。


「戦争なんて、起きなければいいんですけどね」


 サレンさんはそう言うと、今度は少し寂しそうに笑った。


 そんなこと言っちゃって大丈夫なのかな。

 ちょっと心配だ。


 そういや、この国が戦争状態なのは、相手から喧嘩吹っ掛けられたからなんだっけ。


 戦争なんかしたくないって人の方がこの国には多いのかな……。


 でも、無抵抗でいたら隣国に侵略されて、さらに次の戦争に巻き込まれる、と。

 仮に隣国が攻めてこなかったとしても、いつか南の帝国が攻めてくる可能性が高い、と。


 ……世の中、難しいな。


「ここだよー!!」


 いつの間にやら、階段のてっぺんでちびっこ二人が手を振っている。

 どうやら"たのしいばしょ"とやらについたみたいだ。


 俺はまだ、階段の下にいるけど。


(これ、全部上るのか……)


 段数は極端に多いわけじゃない。でも少ないわけじゃない。


 元々俺は体力がないし、最近は部屋に引きこもってたから、さらに体力が減っている。


(そういや俺、病み上がりじゃなかったっけ……?)


 そうだ、俺は少し前にベッドから起き上がったばっかりだ。


 毒を盛られてぶっ倒れて、それで目が覚めて今ここにいる。

 冷静に考えるなら、まだ寝ててもいいんじゃないか?


 そんなことを思いながら、階段に足をかける。


 ……うん、少し登ってみたけど、身体の不調自体はなさそうだ。

 体力はないことも含めて、いつも通り。


(まあ、大丈夫ならいいか)


 気にせず階段を上りだす。


 そういや、小さい子を抱えたままのサレンさんは大丈夫かな?

 ……なんて思いながら見てみたら、何も問題はなさそうだった。


 普通にすたすたと段を上がっていく。


 既にこの階段を上った小さな二人も元気だ。


(もしかしたら、一番体力も筋力もないのは俺かも……)


 ちょっぴり落ち込みながらも、階段を上る。


 その先には、教会らしきものがあった。

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