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3話 人柱はじめました (8)

(に、逃げ出してしまった……)


 今の俺は、城下町っぽいところにいる。


 人柱部屋に入る前、バカにすんな、とか思いながらアムルを睨み付けた場所だ。


 今なら思う。


 俺はバカです……そしてビビり野郎です。


 さすがに勝手に抜け出したのはマズかった。

 全力で言い訳させていただくなら、殺されかけて混乱してました、ごめんなさい。


 もしかすると、ひきこもり生活で少し気が滅入っていたのかもしれない。

 あそこ地下だし、窓ないし、やることないし。


 今は外の空気を吸えて少し落ち着いた。

 考えがまとまったわけでもないけど。


 勝手に外に出て申し訳ないな、という気持ちは当然ある。

 せめて一言あってもよかっただろう、と自分に言いたい。


 アムルや女王様なら「やっぱり人柱やめさせてください」って言えば聞いてくれたんじゃなかろうか。

 人柱を続けてくれ、って土下座されるくらいはありそうだけど、多分強制はされないと思う。多分だけど。


 でも、本当に人柱なんかやりたくないのか、と聞かれれば返事に迷う。


 少なくとも、アムルや女王様は嫌いじゃない。

 みんなを守るために、ただ引きこもるだけならしてもいいかな、とは思う。


 人殺し行為だって、ちょっと驚いただけだ。


 心の準備が出来ていれば、あんなにモヤモヤしてなかっただろう。

 ……多分、きっと。


 仕方がないのはわかってるからな。


 さすがに「他人に襲われても、絶対に反撃せず無抵抗で死ね」なんて思ってない。

 それくらいなら返り討ちにしてくれて構わない。


 ただ、見たくはないけど。


 今は反省もしてるけど、すぐに城へ戻る気があるかと聞かれると……もう少し、時間が欲しい。

 連れ戻されそうになったら、とりあえず拒否させていただきたい。


 生きる気力は元からないとはいえ、殺されたいわけじゃない。


 あの毒入りシチューを食べた時のことを思い出すだけで足がすくむ。


 気持ちに整理がつくまで待ってほしい。


 そもそも、人柱になった理由なんて、所詮「三食昼寝付きの引きこもり生活ならしてもいいか」だからな。


 いやそれ以前に、何故よく知らない国のために命を賭けなきゃいけないのか……なんて考え方も出来る。


 まだここ来て十日くらいだぞ。この国のことなんかよく知らない。

 元の世界に戻れないっていうなら、田舎でスローライフでもしていたい。


 でも、それはつまり……この国を見捨てるってことなんだよな。


 命を賭けるほどの義理はまだないと思うけど、滅んでしまえ、とか思うほど嫌ってるわけでもない。


 アムルや皆が死ぬのは嫌だ。

 本当にただ引きこもるだけなら、まあしてもいいだろう。


 つまり、俺は…………どうしたいんだろう。

 よくわからない。


 やっぱり、まだ混乱してるな。

 我ながら優柔不断にも程がある。


 もうちょっと頭を冷やしたい。

 これはただのわがままだけど、しばらく外を散歩させてほしい。


 そうしたら、何か言うためには絶対に戻るから。


 エイルくんとか、俺を抜け出させちゃって怒られてないかな。

 もし怒られてたら、俺も一緒に謝ろう。後でだけど。


 しかし、簡単に抜け出せたな……。


 あの部屋入り組んだところにあったから、抜け出すのに時間がかかった。というか軽く迷子になった。

 それなのに、誰にも止められなかった。


 こんなんで大丈夫なのか、城の警備。


 俺が言うのもなんだけど、ザルじゃないか。ザルすぎる。

 まあ、今はそのザルっぷりに感謝しよう。


 前は素通りだった城下町を、今は満喫したい。

 そのうち答えも出るはずだ。



 この街は相変わらず活気があった。


 子供から大人、老人まで色んな人がいる。

 今日は井戸の周りにおばちゃん達はいない。


 そういや、今更だけど今は何時頃だろう。


 もしかしたら、おばちゃん達はまだ家事でもやってて、井戸端会議はまた後でするのかもしれない。


 太陽はそれなりに高い位置にあるけど、何時頃かまではさすがにわからないな。


 ファンタジーな世界とはいえ、太陽はひとつだけだし色も普通だ。

 ちょっと残念。


 西から東に昇るとか、明るい時間がやたら長い、もしくは短い、とかそういう差はあったりするんだろうか。


 そんなことを考えながら、空を見上げていたら、何かが後ろからぶつかってきた。


 結構な勢いだったから、ちょっとよろめく。


「ごめんなさい、おじちゃん……」

「お、おじちゃん……?」


 ぶつかってきたその何かは、幼稚園児くらいの女の子だった。


 くりくりとした眼に茶色い髪の可愛い子供ではあるけど、「おじちゃん」だけはやめよう。「おじちゃん」は。

 まだ26歳だそコノヤロー。


「すみません、大丈夫ですか?」


 焦ったように、女の人が俺に駆け寄ってきた。20歳前後くらいで、子供と同じ茶色い髪の人だ。

 この子のママさんかな。


 華やかな美人……とは言えないが、優しそうで可憐な人ではある。


 そして、他にも子供を二人連れている。


 抱っこしている小さい子に、手を引いてる子。

 三人きょうだいで、俺にぶつかって来た子が一番上のお姉ちゃん、ってとこかな?


 何か大変そうだ。


「はい、特に問題はないです」

「すみません、私が目を離したばっかりに……ほら、お兄ちゃんに謝ろうね」

「ごめんなさい……」

「いやいやお気になさらず」


 しょんぼりと謝る子供を見てると何だかこっちがいじめてるような気持ちになる。


 それにママさんが来る前に一度謝ってるし、怒ってないから大丈夫だ。「おじちゃん」呼び以外は。


 ちなみに、突発的に城を抜け出して来たけど、翻訳用の石はちゃんと持ってきてた。

 おかげで何を言っているかはわかる。


 よくやった俺。


「ところで……失礼ですけど、あまり見ない顔ですが他の国の方ですか?」

「えーと、まあそうです」


 間違ってはいないな、うん。

 本当は国どころか、違う世界の人だけど。


「ああ、やっぱりそうですか。見たことのない髪の色だったので、少し気になって……」

「髪の色」


 そう髪の色。

 地味にずーっと気になっていた、髪の色。

 水瓶を覗くたびに違和感のあった髪の色。


「ところで、俺の髪……何色に見えます?」

「え? ええと……銀色、かしら」


 よっしゃ!銀色頂きました!!

 そう、銀なんだよ、この髪は!!


「白髪じゃないですよね」

「言われれば、白髪にも見えますね」


 どっちだ、ちくしょう!!


 冷静に客観的に見れば、限りなく白に近い銀色、のはずだ。


 ちゃんと鏡を覗いたわけじゃなくて、水に映った姿しか見てないから、他人からはどう見えてるのかはっきりはわかってないけど。


 でも、前髪の先の方を覗いた限りでは、銀……にも見える。と思う。


 ……さっきも言った通り、俺は26歳なんです。


 この歳で髪が全て真っ白、とか避けて通りたい道なんです。


 なんかこの世界に来た時にこうなっちゃいましたが、本当は黒なんです。

 せめて白じゃなくて銀でいたいんです。


「ご、ごめんなさい! ええと、遠目で見ると白にも見えるけど、近くで見れば銀色で、ええと」

「いや、いいんです。正直に答えてくれてありがとうございます……」


 俺があまりに落ち込んでいるからか、気を使わせてしまった。


 でもあんまり必死で取り繕われるとちょっぴり切ない。

 やっぱり白髪に見えるんですね、ちくしょう。


 どうやら、この国の人は濃淡の差はあっても、みんな黒から茶色系の色合いみたいだ。

 少なくともここから見える人達はそんな感じだ。


 だから、俺の髪色が気になったんですよね。

 それはちゃんとわかってますから大丈夫です。ちくしょう白髪か。


「ええと……お詫びに、何かお手伝い出来ることとかありますか?」


 何だか申し訳なさそうに言われてしまった。

 お詫びされるほどのことではない、と思うんだけど……。


「ねえおばちゃん、はやくあそびにいこーよー」

「あ、このお兄ちゃんとお話終わるまで、ちょっとだけ待っててね」


 手を引かれた子が女の人に言うけど……「おばちゃん」てことは、ママさんではなかったのかな?


 気になるけど、ちびっこが退屈そうにしている。


 抱っこされた一人は眠ってるけど、手を引かれたもう一人も暇そうだ。

 手を引いてなければ、すぐにでも走りだすんじゃなかろうか。


 自動車がびゅんびゅん走っているような街じゃないとはいえ、危ないな。

 早く会話を切り上げた方がいいんだろう。


 ここで「私のことはお構いなく。ではさようなら」とか言って去れればかっこいいが、この街はよく知らないから、ひとつだけ聞いておきたい。


「何かこの辺で観光地……じゃだめか、お金なくても楽しめる場所ってどこかありますか?」

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