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3話 人柱はじめました (4)

 人柱生活、十日目くらい。


「よぅ、元気にしてるか? 本も持ってきたぞ」

「アムル……」


 アムルがやってきた。



 俺は近くにある石のひとつに手を伸ばした。

 同時に、映像が宙に浮かび上がる。


「ん? どうした」


 アムルは微笑みながらも不思議そうな顔をした。

 宙に浮いた映像には、そのアムルが見ていると思われるこの部屋の光景が映し出されている。


「……この映像、お前が見てるものが映ってるんだよな」

「ああ、そうだな。何か不具合とかあったか?」


 アムルはあくまで笑みを崩さない。

 見られて困るものを見られた、なんて雰囲気ではない。


「てことは……やっぱり、お前は人を殺したのか?」

「……うん、まあそうだな」


 ようやく笑顔をひっこめ、申し訳なさそうな顔になる。

 やはり、あの村で人を殺したのはアムルだ。


「言い訳みたいだが、あれは向こうが先に襲ってきてだな……」

「うん、わかってる。他の人を守るため、だよな」


 実際、頭ではわかってるんだ。


 村人を守るために襲撃者を倒した、むしろ英雄だって。

 あの状況でも、絶対に人を殺してはいけない、なんて思ってもいない。


 でも感情が追い付いている感じでもない。


 気持ちの整理なんかついてないし覚悟が出来てない。

 他人を殺す瞬間を見る、とか。


 そうして、またグダグダとしている俺に、アムルが口を開く。


「……お前の世界では、人が人を殺すってことはないのか?」

「全くないわけじゃないし国にもよるけど、俺がいた国ではそんなことは基本的にはないな」


 俺の言葉に、アムルが少し寂しそうな顔をした。


「そうか、いい国だな」


 何だか俺以上にしんみりとした様子だ。

 この国では、他人を殺さない、なんて実現不可能なんだろうか。


「あのさ……地味に聞き忘れてたけど、そもそもこの国はどういう状況なんだ? なんで人柱が必要なのかとかも聞いてないし、お前が殺した奴とも何か関係あるのか?」


 俺の言葉に、アムルが真面目な様子で頷く。


 誤魔化したり、嘘を吐こうとしているようには、見えない。

 見えないだけで、実は裏であくどいことやってるのかもしれないけど。


「そうだよな、お前には話しておかないと駄目だよな。あんまり面白い話じゃないけど聞いてくれるか?」


 アムルの言葉に、俺はしっかり頷いた。


 正直、心構えが出来てるとは言いづらい。


 でも知らなきゃ何も始まらない。

 このまま人柱を続けるとしても、やめさせてもらってこの生活から逃げるとしても、聞くくらいはするべきだと思う。


「わかった。ありがとう」


 何故か俺の方がお礼を言われてしまった。

 内容によっては人柱やめようとしてたから、ちょっと申し訳ない。


「まず今のこの国の状況を簡単に言うなら、戦争状態にある」

「…………なるほど」


 戦争かー……。


 ファンタジー戦争もののお話とかは、まあ嫌いじゃない。

 人間と妖精が戦争するストーリーのゲームだってやったことはある。


 でも、現実に戦争をするとなると……やっぱり、嫌だな。


「その戦争相手って、ドワーフとか悪魔とか、何かそんな感じのやつ?」

「いや、人間たちの普通の国だ。普通の隣国だ」


 そりゃそうか。あの村を襲ってたやつも人間みたいだったしな。

 人間が相手となると……なおさら嫌だな。


「あのアムルがいた村を襲ってたやつもその隣国のやつか?」

「そうだ」


 やっぱりか……。

 つまり、敵国の兵士が襲ってきたから、殺した、と。


 戦争中なら当たり前の話だと思うが、やっぱりあんな光景は見たくないな。

 血の赤色が忘れられない。


 ちなみに、今日のアムルは小奇麗になっている。

 見た目にはいたって普通だ。


 でも、この鎧も洗っただけで、本当は殺した人間の血に一度は塗れたのかもしれない。

 その光景を想像すれば、あんまりお近づきになりたくない、とも思ってしまう。


「そもそも、うちと隣国だけじゃなく、他でも戦争してるところはあるぞ。この大陸ではな」

「ええー……」


 戦争が当たり前のタイプの世界に来ちゃったのか。

 これは、人柱生活をやめてものんびりスローライフとか言ってられないかもしれないな……。


「その中でも、南の帝国が強すぎてな……。着実に周囲の国を落としている。ノイリア王国――隣国がうちに戦争仕掛けてきたのもそれが要因だと思う」

「それって、その国同士が何かつながっているとか?」

「考え方はいいな。でも違う」


 じゃあ何だよ。


「焦ったから、ってのが一番の理由だろうな。このままだと帝国にこの大陸全てが支配される。その前に他国を侵略して国力をつけようってところだろう。他にも似たような理由で戦争しているところはあるが……される側にとっては迷惑な話だ」


 アムルは苦笑した。

 その帝国そんなに強いのか。


「その帝国と隣国……ノイリア王国さん(?)はすぐに戦争になりそうなのか?」

「いや。今のところはそんな気配はない。立地的に後回しにされているだけだろうが」


 ええとつまり?

 南の帝国さんがバンバン大陸侵攻しているから、それに対抗するためにこの国……エアツェーリング王国さんをノイリア王国さんが落とそうとしている、と。


 うん、確かに迷惑だ。同盟とかじゃダメだったんだろうか。


 いやそもそも、ある意味一番悪いのは南の帝国か。

 大抵の物語でロクなもんじゃないしな、帝国。


「それともう一つの理由だが……恐らく、ノイリア王国はお前と同じ異界人の人柱を立てている」

「え」


 となると……どうなるんだ?


「人柱を立てると、戦争に何か影響があるのか?」

「あるぞ、色々とな。自国の兵士を強化したり、その国に入った敵意あるやつを弱体化したりな。ちなみに、土地自体も豊かにもする」


 なんだそれ便利だな。

 常に自国バフ&敵国デバフってことか。強い。


「何か便利すぎないか? よくそんなこと出来るな」

「それはこの魔法陣のおかげだな」


 そう言ってアムルは見上げた。


 アムルが見ているのは、そこに描かれているはずの魔法陣だろうが、俺には何もわからない。

 無機質な天井があるだけだ。


「この魔法陣もこの部屋もかなり前――おそらく数百年前に作られたとは思うが、正確にはよくわかっていない。あえてこの部屋のことは文献に残さなかったんだろうな」

「へえ」

「現代のオレたち魔法使いが見てもよく出来てる。これを一から作ろうとなると大変だぞ」


 ふーむ……あんまり興味ない。

 難しい話が始まりそうだが、やめてくれ。


「それで、そのノイリア王国さんが人柱を立てたからどうしたんだ」

「ああ、そうだったな。……人柱を手に入れるだけで戦力が大きく上がるからな。これなら、うちを落とせると思ったんだろう」


 なるほど。その隣国は人柱を手に入れて一気に強くなったと。

 一気に強くなったから、調子に乗って戦争しかけたと。


 ……なんかこうして言葉でまとめると小物っぽい国だな。


「もしかして、その隣国に対抗するために、俺を拉致して人柱にしたのか?」

「そういうことだ。話が早いな」


 つまり……最初から、戦争のために俺はここに連れてこられたのか。

 そうか……。


 こういう言い方すると、気分はよくないな。

 正直、積極的に協力したいとは思わない。


 "魔王から世界を救うため!"とかだったら、喜んで引き受けただろうけど。


 ……でも、この国の人を守るため、っていう目的は変わらないんだよな。

 相手が魔王か人間かってだけの差だ。


「……ちなみに、その隣国に負けたらどうなる?」

「間違いなく、さらに戦力を強化するためにまた別の国に戦争を仕掛けるだろうな。うちの兵士も使って」

「うへえ……」

「その途中でどこかの国に負ける気もするが……もし勝ち続けたら帝国にも喧嘩を売るだろう。うちの兵士も使って。どうせ勝てないだろうがな。うちの兵士を使っても」

「うわあ……」


 これは、茨の道だな。

 この国が負けたら、のんびり生活なんてのも出来ないかもしれない。


「いやでも……そんな状態なら、もし隣が戦争を仕掛けてこなかったとしても、いつかこの国と帝国が戦争することになるんじゃないか?」

「……まあ、そうなるだろうな。交渉でどうにかなればいいんだが」


 さっきからの話しぶりだと、もし帝国と戦争になったら負けるんじゃないか?

 うーむ……どっちも茨の道か……。


 帝国対策に他国を侵略して戦力を上げる、って方向も、あながち間違ってないような気がしてきた。

 やられる側からしたら迷惑なのは変わりないけど。



「さて、だいたいの状況は説明出来たと思うが、他に何か気になることとかあるか?」

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