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3話 人柱はじめました (1)

「てーんてーて、てててて」


 人柱生活五日目。

 俺は、某ラジオな体操をしていた。



 何もせず、ただ部屋にいるだけでいいと言われた人柱生活も、最初の内は順調だった。


 一日目はとにかく寝た。

 これぞ引きこもりの醍醐味だろう。とにかく寝た。

 前日は疲れてたし。


 二日目も、まあ寝た。

 前日もずっと寝てたが、やっぱり寝た。


 そして三日目。

 二日間寝続けたため、そろそろ眠れなくなっていた。

 身体も痛くなってきた。


 ここで問題が起きた。

 暇すぎるのだ。


 元の世界では、「暇」なんて思うことはなかった。

 スマフォがあればソシャゲをするし、PCがあれば意味もなくネットをさまよっていたし、本があればひたすら読んでいた。


 だが、この部屋にはそのどれもない。


 せめてトランプでもあれば、ソリティアでもひとりババ抜きでもするんだが、それすらない。

 それでも、ひとり〇×ゲーム(三目ならべ?)とか、意味もなく歌を歌ったりとかしてすごした。


 四日目も前日とだいたい同じだ。

 適当に遊んでいた。


 だが、五日目。

 そろそろひとり遊びにも飽きてきた。

 シーツで折り紙も無理だったし(布が柔らかすぎる)、掃除洗濯とかもやることはない。


 暇だ。


 まさか、引きこもり生活でこんなすぐに飽きがくるとは思わなった。

 スマフォさえあればなー。



 そして、他にも問題がある。


 その内のひとつは、飯が正直ビミョーだってことだ。


 マズいわけではない。

 味はシンプルだけど、あれはあれで美味しい。


 が、毎食ミルク粥なのだ。

 一食目は普通においしく頂けた。


 だが、何故か毎食毎食ミルク粥だ。

 今は五日目の昼前だから……14杯連続?のミルク粥だ。

 おかずはちゃんとあるし毎回違うんだが、主食だけはミルク粥だ。


 ちなみに、最初の飯の前に"ご飯とパンどちらがいいか"は質問された。

 どうやらこの世界でも、米や小麦はあるらしい。


 その時は「ご飯がいいです」と答えておいたが、それがミルク粥責めの始まりだった。

 もしかしたら、この国では米はミルク粥でしか食べないのかもしれない。


 これがせめてピラフあたりならまだ主食として普通に食べられたんだけどなー。


 日本人としてはやっぱり白いご飯が食べたい……。

 いやミルク粥も白いっちゃ白いけど。


 これならパンでもよかった。

 もしくは自分で作らせてくれ。暇つぶしにもなるし。



 さらにもうひとつの問題は、俺の世話係が不愛想なことだ。


 この部屋にひきこもってから、兵士風の男が身の回りのことをやってくれている。

 食事を持ってくるのもそうだ。


 だが、話しかけてもまともな答えが返ってこない。

 世間話でもしようものなら、「はあ、そうですか」くらいにしか反応してくれない。


 ひどい時は無言で立ち去られる。切ない。


 「ご飯じゃなくてパンにしてください」と伝えることすらまともに出来ない。

 というか、言ったけど全く変わらないあたり多分無視された。


 料理担当の人に伝言すらしてない、なんてことはさすがにないよな? な?

 さすがに言葉の意味自体は、伝わっていると思うんだが。


 世話してもらってる分際で文句言うのもアレだが、正直困る。



 さらに問題といえば、日本よりも生活水準が低すぎることもある。


 昔のヨーロッパ風な世界だから仕方がないとわかってはいるが、やっぱり不便だ。

 毎日、水をくんで来てくれるとはいえ、水道はなく基本的に水がめに放置だし、冷蔵庫も冷凍庫もない。


 そして、一番厄介なのはトイレだが……。

 止めておこう。この話題は汚い。


 入れ物にそのまま放置で、さっき言った世話係の人が後で片づけてくれる、とかあんまり言いたくない。

 窓から放り投げる、とかじゃないだけマシだとはわかってはいるが、でも気分的に良くもない。


 ちなみに、電灯だけは代わりになる装置?魔法?があるから助かっている。


 リモコン代わりの石を握って「明るくしてくれ」とか「暗くしてくれ」と念じるだけで、勝手に部屋の明るさが変わるのだ。


 これは本当に便利だと思う。

 ずっと昼間みたいに明るかったら寝れないもんな。


 同じく便利なもの、と言えば翻訳石(?)が高性能だ。

 持ってるだけで、相手の言葉がわかるし自分の言葉も相手に伝わるらしい。便利だ。


 ティナ王様とかガイスさんとかはこれを持っていたらしい。


 翻訳石も明るさ調節石もパっと見はちょっとキレイな石(拳よりは小さめ)なんだけどな。



 少し話がズレた。

 この人柱生活における問題の話だった。


 ちなみに、最後の問題は……まあ、他と比べて大した問題じゃないと言えばないんだが、やっぱり引きこもり生活は運動不足になるな。


 普段から運動しない俺でも、今はかなりの運動不足だと思う。


 部屋から出ることもないし、その部屋にはベッドくらいしかないから、いつも寝てるか座ってるかだ。


 当然、背中とか肩とか痛くなる。


 まあ、運動不足とか普段から気にしてないからどうでもいいような気もするが……どうせ暇だしな。


 ストレッチとか軽い体操ならしてみよう。

 そんなことを考えながらおもむろにラジオな体操を始めてみた。


 とはいえ、元の世界にいた時ですらあまり熱心にやったことがなかったから、色々とうろ覚えだ。


 「たしかこんな運動もあった気がする」とか「肩とかほぐれればいんだよ」とか、言い訳しながら何となく身体を動かした。


 人柱になると最終的に決めたのは俺だし、色々と世話をしてもらっているのはわかっているが、もう少しなんとかならないかなー。

 なんて考えているうちに、うろ覚え体操も終わった。



 いまは意味もなく部屋をふらふら歩いている。

 これ元の世界でやってたら不審者扱いされかねないな。


 いまこの部屋には誰もいないから、それすらもないが。


「ただひたすら暇だなー……」


 そんなことを言いながら、天を仰いだ。

 天は天でも、天井だがな。HAHAHA。


 こんなしょうもないことを言っても、誰も聞いていない。むなしい。


 同じ"部屋に引きこもった"状態でも、"いつでも部屋を出られる"とか、"外には母さんがいる"とか、そんな違いがあるだけで全然違ったのにな。


「んー……」


 ぐだぐだ言っててもしょうがない。

 また寝るか。


 そんなことを思いつつ、身体を伸ばした時だった。


「お、今日は起きてるな」

「アムル!」


 突然、音もなく引き戸が開き、アムルが現れた。


 相変わらず騎士っぽい恰好をしていて、顔が長めでイケメンだ。

 ……と思ったけど、今日はちょっと汚れてるかもしれない。


 俺がこの部屋に入った日の晩に詳しい説明とかされた時以来、初めて顔を見た気がするが……『今日は』?


「前に来たのか?」

「四日前にな。よく寝てたから起こさなかったが」


 特に用事があるわけでもないので、起こしてくれてもよかったんだが……まあそこはいいか。


「でも、それ以降は来なかっただろう?」


 少なくともここ三日は見ていない気がする。


「あー……まあな。オレだって忙しかったんだぞ」


 この会話は何か恋人同士っぽいな。

 "仕事と私どっちが大事なのよ!"みたいな。


 この流れは危険だ。

 コイツは間違っても俺の恋人じゃないからな。


「唐突でわるいけど、何か暇をつぶせることあるか?」

「本当に唐突だな」


 俺が聞けば、アムルが笑った。

 が、すぐにマジメな顔になる。


「まあ、人柱業の二番目の敵は"暇をつぶすこと"か」

「二番目?」

「一番目は、魔力不足による体調不良」


 あー……なるほど。

 それは一番怖いな。今のところは何もないけど。


 ただひたすら暇なのも気が狂いそうだが、寝たきりとか瀕死の状態でずっとすごすよりはマシだ。

 そういや、"ずっと"と言えば。


「俺、いつまでここに居ればいいんだ?」


 俺が聞いた瞬間、アムルの表情が固まったように見えた。


 正直、ちょっと予想はしてたけどな。


「……死ぬまで、ってことでいいか?」

「…………」


 俺の言葉にアムルはすぐには応えなかった。

 言葉を慎重に選んでいるようだ。


「……可能ならば、そうして欲しい。だが、こんなところにずっと閉じ込めておくことが非人道的だってことは、重々わかっている」


 まあ、根っからの引きこもり気質の俺だって、この部屋で朽ちるまでずうーっと過ごしていなくちゃいけないのは、ちょっと嫌だな。


「だが出来れば一年……いや、半年でいい。オレ達を、この国を救ってほしい」


 お、おお……?

 思ったより期間が短くなったな。


 むこう五年くらいは監禁されるかと思ったが、一年でいいのか。

 ということは、長引いても二年くらいかな?


 期間が区切られるのはありがたい。少しだけ気が楽になった。


 ……そこから先は、冒険者とか異世界ファンタジーらしい生活が出来るかな。


「もちろん、あくまでお前がそれでよければの話だ。もし、今すぐにでも止めたいなら――」

「いや、悪かった。俺の言い方がよくなかったな。ただちょっと確認したかっただけなんだ」


 むしろ、ちょっぴり希望が湧いたくらいだ。


「なら、よかったんだが……。遠慮はしなくていいからな」


 ほっとしたようにアムルは答えるが、割と本気で言おう。

 遠慮など全くしていない、と。


「それは問題ない。で、早速暇つぶしの件だけど……」

「ああ、そうだったな」


 アムルは俺に向き直ると、ひとつの提案をした。

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