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2話 城に行きました (9)

 えー……というと?


「我々から見て異世界の人間である貴殿は、この世界ではありえないほどの魔力を秘めておられます」


 目の前にいる女王様は言った。

 俺が異世界人だから魔力がある、ってことかな?


 ……なんだ、俺が魔力があるのって、実は勇者の生まれ変わりとか、選ばれしなんちゃらとかじゃないのか。


 ちょっと残念。

 ちょっとだけな。


「恐れながら」


 んん? またアムルが口出ししてきた。


 女王様の後ろに控えるコイツは、パっと見はイケメン騎士(ただし顔は長め)だ。


「魔力を何度かお借りして気が付いたのですが、文献などで見かけた普通の異世界人の魔力量よりも、貴台らさらに多くの魔力を宿していると思われます」


 おい、まさか魔力量をはかるために俺の手をやたら握ったのか?


「ですからして、人柱として生活したからといって、身体になんら影響はないと断言いたします」


 そう言われてもなあ……。


 とりあえず、一度情報を整理しよう。



 俺は異世界に拉致された。

 異世界とか言われても簡単には信じられないが、まあそれはそれとして。


 拉致られた理由は、俺を人柱にしたいから、らしい。

 女王様から直接頼み込まれた。


 そして、その人柱とは国に魔力を供給する人のことだ。

 その魔力はこの部屋にいれば勝手に吸い取るから、ただここで生活していればいい、と。


 魔力を完全に失ったら死ぬが、そもそも俺たちの世界の人間は魔力が莫大にあるらしい。

 アムルの言い分としては、俺はその世界の人間の中でも特に魔力がある。


 だからまず死ぬことはないだろう、と。



 すんなりとは信じられない部分があるが、まあ結論から言えば「この部屋で生活しろ」ってことか。


「食事とかは貰えるんですか?」

「もちろんです」

「他にも服とか……」

「ええ、生活に必要なものはいくらでも」

「何時に必ずこれをしなきゃいけない、とかもあったりします?」

「特にありません」

「就寝時間が何時までーとか」

「貴殿の生活スタイルにお任せします。ただ、問題があるとすれば……」


 え、何。何かあるの?


「部屋からは基本的に出ないでいただきたいのです」

「……それが何か問題でも?」


 俺が答えると、ちょっとだけ女王様が困ったような顔をした。


 小首も傾げている姿を見ていると、勇ましき女騎士風の女王様もかわいいな、と思う。


「ずっと部屋にこもっていると……外に出たいと思いますよね?」


 あ、そうか。


 活動的な人にしてみれば、部屋で引きこもってるとかそれだけで苦痛だったんだ!

 俺はむしろ引きこもっていたい人だけど!!


「それに関しては、俺は何の問題もありません。全然。全く。これっぽちも」


 まあ、せっかくの異世界生活なのに、いわゆる冒険者業が出来なかったり、各地を見て回れないのは残念だけど。


 三食昼寝つき引きこもり生活とか、それ自体は至福だぞ。


「えっと……もう一度確認しますが、生活関連のものは用意してくれるんですよね?」

「いたします」

「部屋にひきこもる以外、特にやらなきゃいけないことはないんですよね?」

「はい、ありません」

「……死にませんよね?」


 これには、女王様は答えずアムルの方を見た。


 "答えに困った"というよりは、俺の魔力量をよく知っている(らしい)アムルに任せたんだろう。


「ええ、死ぬことはないでしょう」


 アムルは力強く答える。


 ふむ……魔力とか考えなければ、結構いい条件なんじゃないか?

 故郷に家族とか残してたり未練があったらそうはいかないだろうが、俺はそんなの特にないし。


 親父は(多分)女作って出て行ったし、母さんは少し前に死んだ。

 友達も……特にいなかったし、仕事に熱中していたわけでも、やり残したこともない。


 あー、マンガの結末が見れないのは残念か。

 でもそれくらいだな。

 ……自分で言ってて切なくなってきたけど。


 俺の返答は「ま、いっか」寄りではあったが、少しの間だけ悩んでいた。


 それが、女王様には「お断りします」寄りに見えたようだった。


「何か条件等おありでしたら、可能な限りなんでもいたします! 貴殿の生活も快適になるよう尽力いたしましょう! ですから、どうか、この国を救っていただきたいのです!!」


 そういうと、また女王様は跪きだした。

 護衛っぽい人やアムルも真剣な表情で、それに続く。


 それほど本気で、切実で、必死なんだろうと伝わってくる。


 でも、その土下座しそうな勢いで頭下げるの正直やめてほしい。

 頼られるの自体はちょっと嬉しいけど、その大仰な態度は苦手だ。


 そもそもこの国の偉い人が、こんな小僧相手に跪いていいのか?

 多分ダメなはずだ。


「えっと……条件、とは違いますが……」

「なんなりとお申しつけください!」


 俺が口を開けば、女王様は顔を伏せたまま大きな声で答える。

 なんか前にも似たようなことがあった気がする。


 でも今回は女王様が相手だ。

 こんなこと言ったら、女王様相手に逆に失礼じゃないかって気もするが……ええい、言ってしまえ!


「そんな畏まらなくていいので、普通に声をかけてください」


 俺の言葉に、女王様が顔を上げた。


 でもまだ跪いたままで、眉をハの字に下げて俺を見上げる。

 正直かわいい。と思う余裕はない。


「で、ですが……」

「えっと、普通に友達になっていただけたら嬉し……じゃなくて……いや、その、そこにいる部下(?)の人とか、アムル……さん、と同じ扱いでかまわないので……」


 こんな扱いをされたら俺の方が恐縮してしまう。

 下っ端として扱ってくれた方が気が楽だ。


 それでもまだ悩んでいるのか、少しの間女王様は黙っていた。


「と、とりあえず立ちません? なんか俺が跪かせてるみたいですし」


 みたい、じゃなくてそうなのか?

 なら、なおさらやめてほしい。


 俺は王様にかしずかれる人間よりも、一般市民でいたい。


「……それが、マモル様の要望ですね?」

「あ、はい」


 ティナ王様は一度だけ顔を伏せたが、立ち上がった。

 もともと背が高い人だから、その目線の位置は俺よりも少し上だ。


「確認しますが、人柱となって貰えますか?」


 まだ敬語が抜けてないけど……まあ、さっきよりは、気さくになっただろう。


「はい、とりあえずよろしくお願いします」

「深く感謝します」


 俺が言えば、ティナ王は誇らしそうに笑った。


 ちょっと困ってる姿も可愛かったが、やっぱりこの人は堂々としている姿が本当に綺麗だと思う。


「これから、よろしくお願いします」


 そう言って、女王様は手を出した。


 今更だけど、この国……エアツェーリングだっけ?この国でも挨拶する時に握手するんだな。

 アムルもやってたし。



「こちらこそ、お願いします」


 ***


「あー疲れた」


 そんなことを言いながら、俺はベッドに頭から倒れ込んだ。

 例のやたら立派で、ど真ん中にあるやつだ。


 おっと、靴は脱がないとな。

 部屋で靴を履いたままなのは、正直違和感がある。

 その内慣れるだろうか。


「…………」


 仰向けになり、ベッドの天井を見上げる。


 今は俺以外この部屋にいない。

 俺を残してみんな出ていってしまった。


 まあそれぞれやることはあるだろうし、家もあるだろうからな。

 兵士なら寮とかもあるかもしれない。


 異世界事情は気になるが……いまの俺は、部屋から出たらダメな身だな。


 この部屋から出ていく時、アムルは俺に目配せをした。


 「ありがとうな」と切実に思っているように見えた。

 見えただけで、もしかしたら違うかもしれないけど。


 多分、今回は目線だけでも意思疎通出来ただろう、と、思う。うん。


 なんか重大なことを安請け合いしちゃったかなー、という予感はひしひしとしている。


 そういえば、なんで人柱が必要なのか、とかは聞かなかったな。

 この世界では人柱をたてるのが普通なんだろうか。


 また聞きたいこととか思いついたら、また次の機会に聞けばいいか。


 次の機会……あるよな。

 ここで死んだりしないよな。


 ……とりあえず今は飯を待とう。すぐに用意してくれるらしいし。


 この国の飯ってどんな感じかなー。

 今なら腹減りすぎて、何でもおいしく食べられるだろうなー。


 思えば、コンビニに飯を買いに行く途中で拉致られたから、昼から何も食べてない。

 しかも、長い道のりを歩き、女王様を前に緊張しながら話したりもした。


 今日は色々と濃い一日だった。


 精神的にも肉体的にもこんなに疲れたのは久しぶりかもしれない。

 ここまで腹が減るのも珍しい。

 休みの日に飯を抜くことは自体はよくあったんだけどな。母さんには怒られたけど。


 不安とか何もないわけではないが……まあなるようにしかならないだろう。


 明日のことは、明日考える。よし、その方針で行こう。


 我ながら情けない答えだと思うが、これからは堂々と引きこもっていられる。

 時間なんかいくらでもあるだろう。


 そんなことを考えながら、ベッドの上で転がった。


(飯、まだかなー……)



 こうして、俺の人柱生活は始まった。

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