表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/100

2話 城に行きました (7)

 おう……?

 いまこの人、自分のこと王って言ったよな…………?


 え、つまりこの人、王様? 国王様なの?

 いや女性だから女王様?


 パッと見は女王様というより、"勇ましき女騎士"って感じだけど。

 鎧っぽいの着てるし、腰には剣を下げてるし。


 金色の髪は頭の上の方でまとめてあって、緑色の瞳は意思が強そうだ。

 お胸はたわわだし髪は長いけど、男装が似合いそう。


 豪快な感じで威厳がある……という意味では王様然としてるけど、やっぱりどちらかというと騎士寄りな感じだなあ。


 と、ここまで考えて、女王様をジロジロ見てるとか失礼じゃないか、と気が付いた。


(お、怒られるかな……?)


 一応、後ろに控えている護衛っぽい人達は何も言わず控えている。

 俺をここまで連れてきたアムルも同じだ。


 だが、みんな無表情で何を考えているかわからない。

 本当は「無礼な!」と思いつつ黙っているだけのような気もする。


 いたたまれない。


「お、俺は佐藤守!一般人……です!」


 この空気をどうにかしようと、俺なりに王様への対応として礼儀を返してみた。


 立ち上がり自己紹介をして、胸を張り、手は額に当て……ようするに敬礼したりとか。

 ちなみに声は上ずっている。


 この国の正式な作法なんてわからないけど、そもそも日本とか元の世界の国王に会う時の作法すらわかららなかった。


 やった後に、(敬礼はちょっと違うんじゃないかな……)とは思ったが、焦って上げてしまった手を下げるタイミングもわからない。


「ふむ……貴殿らの国ではそうして挨拶をされるのか」


 いえ、違います。

 ちょっと焦った結果こんなことになっただけです。


 ディエーティナ王?は、あくまで異国の文化に関心しているみたいだった。


 怒ってはいないみたいだ。

 助かったような、申し訳ないような。


 しかしディエーティナって長いし覚えづらいな……。


 ティナさんとか呼んだ方が簡単そうだ。

 実際に言ったら不敬だとわかってはいるけど。


「充分な歓迎も出来ずに申し訳ありません。まずは我らの都合で、貴殿をお連れしたことを深く謝罪いたします」

「は、はあ……」


 ティナ王は深く頭を下げる。

 アムルを含む他の兵士だか騎士っぽい人達も同じように頭を下げた。


 何か大仰な言い方だし態度だ。そりゃ王様だから当然か。


 でも正直、そんな言われ方をすると戸惑う。俺はただの一般人だし……。


 まあ、勝手に異世界まで拉致したんだから、これくらいの謝罪は当然なのか?

 いやでもやっぱり、国王様自らっていうのが不思議だ。


「謝罪もそこそこで申し訳ありませんが……我らが貴殿を召喚した理由についてお話してもよろしいでしょうか」

「あ、はい」


 やっぱりこの畏まった言い方は苦手だな……。


 もっと気さくな感じで話しかけてくれないだろうか。

 それはそれで女王様に対して失礼か。


 そんなことを思っていたら、ティナ王は言った。


「我が国を守るため、人柱となってはもらえないだろうか」

「は?」


 膝をつき、謝罪した時よりもよりもさらに深く頭を垂れる。

 周りにいる人たち――護衛たちも同じように深く深く頭を垂れる。

 アムルまでもが同じように頭を垂れていた。


 俺以外の人間が、全員、頭を垂れている。


(え、ど、どゆこと……?)


 立っている俺からみれば、全員を見下していることになる。

 胸がすくどころか、戸惑いしかない。


「あの、すみません……もう一度いいですか……?」

「我が国を守るため、人柱となってはいただけないでしょうか」


 文言はちょっと変わったが、顔も上げず、しかし力強く同じことを言われた。


(ひとばしら……って言ったよな?)


 人柱ってアレか? パソコンとかの、なんか新しいやつを試すやつ。

 いやそれはネットスラングか。


 このファンタジーっぽい世界で人柱って言えば……何か大きい建物を作る時とかに壁やら何からに埋めるやつ?

 災害を鎮めたりとか……。


 いやそもそも、ネットスラングの方も使い方としては生贄か。

 生贄……。


 生贄!?


「なにそれ怖い」


 おっと口に出して言ってしまった。無礼極まりないだろうか。

 いやでもだって怖いし。


 この世界に拉致られる直前、俺は生きる気力がなかった、っていうのは間違いない。


 でもだからと言って、こんな知らない国でどこかの建物の壁に埋まりたくはない。


 そんな死に方は嫌だ。


 それならせめて、「無礼な!」とか言われてひとおもいに斬り伏せてくれ。


 それも怖いけど。


「恐れながら」


 今度は女王様のとは違う男の声がした。

 というか、これはアムルの声だな。


 入口脇に控え頭を下げながら、お堅い口調で言う。


「貴台なれば、人柱となろうとも生死やお身体には何の支障はないかと」

「え、ええー……」


 貴台ってなんだよ。貴殿の変形なのか?

 いや問題はそこじゃない。


 壁だか床だかに埋められたまま生きてるの……?

 それはそれで恐くないか?


 俺はひたすらビビってたが、またティナ王様が口を開いた。


「……失礼ながら、もしや貴殿は"人柱"の役目や具体的になすことを知らぬのではないでしょうか」

「はい。全く」


 そこで畏まってるやつが、言わなかったからな。

 これは嫌味じゃなくてただのツッコミだ。


 そういや、その辺を上司っぽい人が説明してくれるって言ってなかったか?


 まさかアイツ、女王様のことを"上司"って表現してたのか。

 女王様に説明させるとかすごい度胸だな。


「なるほど。ならば実際にその目で見て、試していただきましょう」

「試す?」


 人柱を試すってことか?

 それ大丈夫なのか。


「では、こちらへ」


 そう言って女王様はすっと立ち上がり、俺を入口へと促す。

 立ち上がる仕草すらカッコいいし綺麗だな、この女王様。


 俺は未だに戸惑っているが、この女王様のお話を聞くために移動するくらいなら問題ないだろう。

 まだ会ったばかりだけど、この人は悪い人じゃないと思う。……思いたい。


 俺が入口近くまで移動すれば、女王様が部屋を出て自ら先導した。

 普通こういうのはもうちょっと下っ端の役目じゃないだろうか。


 さりげなく、アムルは俺の横へ移動し一緒についてくる。


 アムルはこの世界で数少ない知り合いであり、傍にいてくれるのはちょっぴり心強い。

 でももしかしたら、逃げ出さないように見張られているだけだけかもしれない。


 そう考えると安心もしていられない。


 内心ビビりながらも、女王様についていき、城の奥へ奥へと進んでいく。


(なんか入り組んでるなー)


 ここは城だから、簡単に攻略できないようにわざと入り組んだ造りにしているのかもしれない。

 案内がないと目的地までたどり着けなさそうな予感がひしひしとする。


 そして、女王様下へと下へと階段を降りていく。

 この城に来て、一度も上がった覚えがない。


(どんな地下にあるんだよ……)


 少し休めたとはいえ、この城へ来るまでずっと歩いていた。

 元々運動をしない俺にとっては、もう足は限界に近い。

 というかすでに痛い。


 グダグダとそんなことを考えていたが、階段を降り切った少し先で、女王様が立ち止まった。


 廊下はまだ先まであるように見える。

 だが、すぐそばの壁へと女王様は向いあった。


 そこ何もないよね?


「この部屋です」


 どの部屋です?


 女王様は何もない壁に手を当てる。


 俺の目には、女王様がおかしい人にしか見えない。

 だが女王様は何も問題はないかのように壁を押す。


 すると、女王様が触れた辺りが光り出した。


「え?」


 石の壁には綺麗に切り込みが入った。

 さっきまではなかったはずだ。多分。


 そして、ズズズ……と重そうな音を立てながら、壁の一部が動く。


 壁自体は厚くて重そうだが、女王様は大して力を入れているようには見えない。

 それでも、壁は沈んでいく。


 ある程度押し込んだ後、女王様は壁に手を当てたまま横へすっと移動させた。

 普通なら、こんな壁がその程度で横へ移動するわけがない。


 だが実際は、横へスーっと移動した。

 まるで軽いもののように。


(……引き戸かな?)


 隠蔽が得意なやたら高度な引き戸だ。

 俺にはそう見えた。



 そして、その先には部屋らしきものがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twitterにて更新情報等を呟いてます。 → @Mi_Tasuku
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ