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2話 城に行きました (4)

「『魔法』っていうのは、魔力を練り変換し何らかの効力を起こした効果、またその行為自体の総称だ」

「うん」

「魔法には、無限の可能性がある。今は"何でもできる"というほどではないが、いつかそうなる可能性も十分にある」

「そうか」

「ちなみに、魔力ってのは人間を含むあらゆる生物に宿っているし、世界自体……植物や土地、空間にまで宿っている」

「はあ」

「当然、今オレたちが歩いているこの場所にもある。空気と同じくらい自然にあり、空気が存在しないような場所にも魔力はあったりもする」

「はい」

「場所によって濃かったり薄かったりすることもあるが……まあ、どこにでも存在すると思ってくれれば間違いない」

「ああ」


 そんな会話をしながら俺たちはただひたすら歩いていた。


 魔法講義をするアムル、俺、猪、という構成だ。

 我ながら、ちょっと意味の分からないパーティーだと思う。

 特に猪。


 ちなみに、何故俺の返事が短いのかと言うと、歩き続けてすでに疲れているからだ。

 もう一時間は歩いているんじゃないか?


 一日分の有酸素運動はもうばっちり果たしている気がする。

 一時間じゃまだ足りねえよ、という声ももしかしたらあるのかもしれないが、俺にとってはもう十分なのである。


 目的地である城は遠くからでも見えるくらいに大きいし、そもそも建物が密集していないこの世界(国?)は見通しがいい。

 一歩ずつ近づいているのはわかるが、やっぱりただ歩いているのは退屈だし疲れる。


 そもそも俺は根っからの引きこもり気質で、バイト以外はほとんど外に出なかったから体力はないんだ。


 そんな俺の心境を知ってか知らずか、アムルの魔法講義は続いていく。


「そして、魔力を魔法へと変化される方法だが、これは一種類だけではなく人それぞれで、流派などによっても違う」

「へえ」

「魔法を構築する具体的な手順自体は何でもいいんだ。だが、本人が集中することはどんな方法でも大切だな」

「ふうん」

「最も一般的な方法は、やはり詠唱だろう。『〇〇よ××したまえ!』といったような言葉を口にすることだ。だがそれも、同じ効果が出る魔法でもそれぞれ言葉自体は違う」


 〇だの×だのなんなんだ。


「他にも、魔道具を使う方法も有名だし、変わったところだと、歌なんてものもある」

「ほー」


 歌で魔法って見た目にはカッコよさそうだけど、いちいち面倒じゃないか?

 少なくとも戦闘中に突然歌い出したら、ちょっと変な人だろ。


「ちなみに、魔力が大きければ大きいほど、この詠唱などは省略できる。お前の魔力を借りた時に使ったのが、その典型例だな」

「そうなのか」

「オレの魔力だけで発動することは出来るが、それだと時間が掛かる。お前の魔力を借りたから、簡単な詠唱だけで発動出来たんだ」


 魔力でごり押しってことか。


 レベルを上げて魔力で殴るみたいな。

 歌タイプの人にはこっちをお勧めしたい。


「魔力を上げる方法は『魔力を持つ他人からもらい受ける』『魔道具を利用する』『精霊と契約する』『大気中の魔力を取り込む』等々、色々あるぞ。ただし、口で言うほど簡単じゃないけどな」


 お前は簡単に俺から貰ってたよな。気軽にって意味で。


「それに、精密な魔法を使いたい時とか、効果をより大きくしたい場合は、魔力で経過を省略する方法はあまりすすめられない」

「ん?」

「行程が複雑であればあるほど難しい魔法を発現出来ることも多い。それを技術が未熟なものが省略すると、魔法の発動自体はしても色々と粗があって精度が低かったり、最悪、魔法が暴発する」

「うへえ……」

「ちなみに、大別すれば同じ言葉を媒体とする魔法でも、ただの言葉と歌なら一般的に歌の方が効果が高いし、言葉だけでも呪文自体が長くなれば複雑な魔法を使える場合もある」

「ふむ」

「といっても、中には長い呪文を唱えた割に無駄が多すぎて大して効果が高くないものもあるけどな」

「おう」


 正直、もうあんまり真面目に話を聞いてない。


 コイツ自身はいきいきとしているが、ながーい講釈に、歩き続けた疲れが合わさって、話を聞くような気分ではない。

 人間の言葉がわかっていそうな猪も、アムルの言葉には何も反応せずただついてくる。


 とはいえ、俺に説明してくれてるやつを放置するのもアレなので、一応聞き返す。


「あの盗賊どもが、魔法を見ただけで驚いてたけど、魔法使いって少ないのか?」


 珍しく俺が聞き返すと、「いい質問だな!」とでも言いたげにアムルは目を輝かせた。

 ……相手しないで、生返事をしたままの方がよかったかもしれない。


「少ない、というほどでもない。だが多いとも言えない」

「何じゃそりゃ」

「魔法というのは、大抵修行すれば誰でも出来るようになる」


 げ、修行か……。


 ゲームのレベル上げは嫌いじゃないが、「毎日コツコツと」というのは正直苦手だ。

 実は、前に「毎日腹筋!」とか言う目標を立てたが、一週間ももたなかったことがある。

 そもそも腹筋まともに出来ないし。


「ところが、誰にも師事せず魔法が使えるようになるというのは稀だ。本格的に魔法を使いたいなら、大抵は教師や師匠役に当たる人に教わる」

「おお」

「ところが、元から魔法使いがいない地域なら師匠になる人も存在しないし、各村々に魔法学校を置くことは今のところ出来ていない」


 ま、魔法学校……。中二病心を刺激される素敵な響きだな。


「都市部には魔法学校があるんだけどな。現状、魔法を習いたければ村を出て魔法学校に行くか、弟子をとってくれる魔法使いを探すしかない」

「ほほう」

「だが、弟子をとる魔法使いはそれほど多くない。自身の研究に手いっぱいだったり、そもそも他人に自分の技術を教えたがらない奴や、その……別の仕事が忙しいやつもいる」


 いまちょっと言葉濁さなかったか?

 気になる。


「他にも、積極的に弟子をとった結果、弟子が集まりすぎてそれ以上受け入れられなくなった、なんてパターンもある」


 ……一瞬、一人の師匠が百人以上の弟子に囲まれてもみくちゃになってるところを想像してしまった。

 なんかカオスだ。


 でも他に弟子とってくれるやつがいなかったら、一人に集中するのは仕方ないのか。

 この想像もあながち間違ってないのかもしれない。


「学校の方は?」

「村を出て都市部に住むにも金はいるし、学校に入るにも金はいる。実際のところ、貴族の後ろ盾でもなければ地方に住む人間には不可能に近い。かと言って、あまり学費を下げすぎると、学校が教師に払う給料すらなくなる」


 国から援助とか出ないんだろうか。

 まあ、ここは異世界だしな。根本的な制度が違うのかもしれない。


「……というわけで、都市部には魔法使い……の卵はそれなりにいるが、地方にはほぼいない。全くいない村の方が多い」

「ほう」

「多分あの盗賊は、金を稼ぐために地方から出てきた奴らだな。あの時オレが使った魔法は、ちょっと勉強を始めただけの見習いでも使える奴だから……あの程度で驚いて逃げ出すってことは、魔法使いがいない地域から出たか、盗賊業に慣れてないか、だ」


 盗賊業に慣れるとは。


 もしかして、この国では盗賊とかも珍しくないんだろうか。

 コイツが追い払ってくれたから無傷で済んだけど、治安はよくなさそうだな。


「そういや、まだ聞いてなかったけど、お前の魔法はどのタイプなんだ?何か妙な剣を使ってたし、魔道具?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、アムルはにやりと笑った。

 やっぱり、質問は一切しないで適当に相槌うっときゃよかったか……。


「空間を渡る、なんて大それた魔法のために魔道具を使ったが、本来の俺の流派は剣舞だ」

「剣舞?」

「そう、剣を使って舞うんだ。これじゃない普通の剣でも魔法は使えるぞ。これだと、さらに高度な魔法を使えるけどな」


 舞う、のか……。

 確かに、あの時の動きは剣術というより舞……というか見た目重視の何かに見えた。


 しかし、舞いって歌と同じくらい戦闘では使えないんじゃないか?

 「敵がきたぞー! 舞えー!」てことだろ。うん、間抜けだ。


「何かまた、失礼なこと考えてるだろう」

「いや別に」


 アムルに呆れたように言われ、微妙に視線を逸らす。

 俺って考えていることが顔に出やすいんだろうか。ちょっと気を付けよう。


「まったく……。それよりほら、街までもうすぐだぞ」


 そう言ってアムルが指した先には壁が見える。


 話しながら歩いている内に、そこまであと少し、といったところまで来ていた。

 ゆっくり歩いても、20分はかからないだろう。


 遠くから見た時に、この壁が城や街のようなものを囲んでいたことを覚えている。

 これが、城下町ってやつか。


 ゲームとかであるようなリアル城下町に来れたワクワク感が胸の奥に沸き起こってくる。

 これが、ただの観光とかなら実に楽しい瞬間なんだけどな。


(まあ、気楽に構えてればいいよな)


 同時に感じ始めて緊張をごまかすため、自分に言い聞かせる。

 きっと大したことない用事だろう、と。



 だがそれは、俺の予想を越えた内容だった。

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