2話 城に行きました (3)
「おう、聞こえなかったのか? 金目のもの置いてけや」
ちょっと意味がわからないです。
俺たちは男二人と猪一匹というよくわからないパーティーで城に向かっていた。
そしたら、何か数人の盗賊らしき奴らに絡まれた。
こうして状況をもう一度確認してみても、意味がわからない……。
どこからつっこめばいいのか。
とりあえず、「ちょっと歩いただけで盗賊にエンカウントするとか、治安悪すぎだろ」とだけは言っておく。
確かにまだ森の近くではあるし周りに人はいないから、大声を出そうが誰も助けには来てくれないだろうが。
本来は危険すぎる状況だから、もっと焦ったりした方がいいんだろう。
だが、ちょっと色々と理解出来なすぎるので、今の俺の心境は「焦る・怖がる」ではなく「呆れる・現実逃避している」というかんじだ。
ちなみに、盗賊らしきやつらが飛び出してきた時、そいつらが言っていたことがわからなかった。
何か知らない言語を使っていたみたいだ。
ところが、同行者のアムルが俺の手をぎゅっ♡と握ったあたりからは、言葉の意味がわかるようになった。
何で俺たちが、みたいな意味ではやっぱり意味がわからないが。
これも翻訳魔法、ってやつなんだろうか。
俺の魔力とやらを移動させたんだろうが、やっぱり手を握られるなら女の子の方が嬉しい。
女の子の方が嬉しいが、これで魔法が使えて、盗賊をどうにか出来るなら少しくらい我慢しよう。
(おい、魔法使えるならどうにかしろよ)
手は握ったまま、目線だけで訴える。
その目線に気がついたアムルは力強く頷く。
頼もしい限りだが本当に大丈夫だろうな。
そもそもちゃんと俺の言いたいこと伝わったのか?
「金目のものっていうのは……こいつのことか?」
そう言ってアムルは俺の手を離し、腰に帯びた剣に手を掛ける。
(いやお前、それ"飾り"って言ってなかったか?)
やっぱり「魔法使えるなら」ってところは伝わってなかったみたいだ。
そもそも、お前ちゃんと剣扱えるのかよ。飾りなんだろ。
そう困惑している間に、アムルの剣が抜かれた。
盗賊を切り捨てるわけではなく、胸の前で剣を構える。
その剣を見た瞬間、「飾り」だとアムルが言った意味がわかった。
「お、おお……随分お高そうな剣を持ってるじゃないか」
アムルを警戒していた盗賊たちも、予想外の剣に少し戸惑っているようだ。
その剣は、明らかに何かを切るものではなかった。
刀よりも幅広な刀身には宝石っぽいものが埋め込まれ、他にも全体的にゴテゴテと装飾が付いている。
彫刻も施されて、全体的に美しい印象だ。
ぱっと見でわかる。
これは飾るものであって、使うものじゃない。
多分、刃も全く鋭くないんじゃないだろうか。
美術品としては最高、武器としては最低。
盗賊には朗報だろうが、俺は脱力するしかなかった。
相手を斬ることも脅しに使うことも出来そうにない。
「おい……」
俺は声を掛けるが、アムルは自信満々といった顔だ。
さっきまで困惑してた盗賊たちですら、極上の獲物を前にニヤニヤ笑ってるんですが。
「まあ見てな」
そう言うと、アムルは剣を横に振った。
でも盗賊には届かないし、そもそも斬撃というには遅すぎる。
まさか魔法の刃でも出るのか?と思ったが、そんなこともない。
そして次には剣を上に構え下におろす。
動き自体は力強いが、意味のある行動には見えない。
何やってんだコイツ。
俺はもちろん、盗賊たちも「こいつ頭おかしいんじゃないか」て顔をしている。
威嚇や牽制にしても、もう少しどうにかならないのか。
そもそも斬れない剣を使うより、さっきから大人しくしている猪をけしかけた方がいいんじゃないか。
だが、そんな俺や盗賊の前で、剣に――剣の切っ先に異変が起きていた。
(あれ、なんか光ってる?)
謎の動きを止め、アムルが目の前に剣を差し出す。
その先端に、赤い光球がある。
いや、よく見れば光球というよりも火球か。
火だ。
丸い火の玉が剣先でゆらめいている。
「お、おい……まさか、こいつ魔法使えるんじゃ……」
盗賊たちも急に動揺しだした。
火球は徐々に大きくなっているとはいえ、まだ拳より少し大きいくらいってところか。
しかも、まだ盗賊たちにその火球が放り投げられたわけではなく、ただそこで揺らめいているだけだ。
それでも、盗賊たちには十分の恐怖を与えられたようだ。
ざわざわと騒ぎだし、顔を見合わせている。
「どうする、オレとやるか?」
何をするのか。戦闘だろうな。
火球を先端から出すようなやつと盗賊が。
「う、うわあ」
「おい、待てよ!」
ひとりが逃げだせば、それに他の奴らが続く。
ばたばたと慌ただしく走りだし、森へと飛び込んだ。
あっという間に盗賊全員の姿が森の中へと消えた。
「……行ったな」
「ああ、行ったな」
「ふご!」
俺が言い、アムルが答えると、猪が鼻を鳴らす。
何だったんだあいつら。
心底、呆れ果てたいところだが、ひとつ気になることがある。
「あちっ!」
「そりゃ熱いだろ」
火球が気になって手を伸ばしたが、今度はアムルが俺に呆れた顔をする。
おいやめろ。
別に火に触れば火傷する、ってわからなかったわけじゃないんだ。
「いや、本当に本物の火かな、と思って」
「そりゃ本当に本物の火だぞ。魔法だからな」
やっぱり本物の火なのか……。
正直なところ、いまだに魔法とか異世界とか信じてきれてなかったけど……そろそろ諦めるべきかもしれない。
この世界には魔法があって、魔法があるということは、ここは異世界だ。
……多分。
「……魔法のこと、まだ信じてなかったのか」
アムルが苦笑する。
そりゃそうだろ。
いきなり拉致られて、「ここは異世界です。これは魔法です」とか言われて信じる方がおかしいと思う。
「そこまで魔法のことに疎いとなると、大まかな仕組みとか教えておいた方がいいかなあ」
「魔法の仕組み?」
え、ちょっと気になる。
異世界とか言われてもすぐには信じられなかったが、魔法が存在するのが揺るぎない事実なら、正直興味がある。
MMORPGとかも結構好きだったんだ。
もうこれは開き直って、この世界を楽しむしかないか。
――自棄になって、とも言えるが。
「まあいずれにしても、ひとまず先を進もうじゃないか。話は歩きながらでも出来る」
「おう、わかった」
「ふごっ」
アムルが歩きだし、その後を俺が付いていく。
さらにその後を猪が追いかける。
すぐに俺はアムルの横に並んだ。
魔法とかファンタジーな世界に希望を抱きつつ、それ以上の不安を抱えながら、俺は最初の一歩を踏み出した。




