プロローグ 後の相棒が旅立ちました
「行って参ります」
男が振り返った先には城があり、その前には数人の人間がいる。
これから男は、国の存亡をかけた計画のために旅立つところだ。
だが、任務の重要さとは裏腹に見送りの人数は少ない。
計画は極秘であり、大々的に送り出すことは出来なかったからだ。
そもそも、この計画を知っている者自体が決して多くはない。
しかし、その見送りの中にはこの国の要人とも言うべき人間も混ざっていた。
「……頼んだぞ」
険しい顔のまま応えた声は固かった。
その目には希望や不安が渦巻いていたが、態度自体は堂々としている。
遠目には、あくまで威厳のある上司が部下を送り出しているように見えただろう。
「では」
軽く一礼してから、男は足を踏み出した。
数は多くないはずの視線を、背中に強く感じながら先へと進む。
男の目的自体は、とある魔法を使うことだ。
この魔法は難易度が高く、失敗する可能性も高い。
そして、失敗した場合は周囲に絶大な被害をもたらすことは間違いない。
もしも街中で使用し失敗でもしたら、最悪の場合ひとつの街が消えるだろう。
だからこそ、男は街を遠く離れた。
仮に魔法が失敗しても問題ないよう、まずは周囲に何もない場所へと向かう。
ほとんど使ったことがない魔道具も用意した。
普段は、特別な道具など使わなくとも魔法を行使するが、今回ばかりは万全を期すために持ち出している。
目的の魔法が問題なく行使できるよう、他の魔法も使って入念に準備した。
他者に干渉されないよう結界を張り、魔力の流れなどの環境も入念に整える。
やれるだけのことはやった。
これで、魔法が成功するかどうかは、運と実力次第だ。
(――だがもし、失敗したら……)
柄にもなく、男は緊張していた。
この魔法が失敗した場合、この国へ希望をもたらすこともなく、優秀な魔法使いも一人失うことになる。
そうなれば、この国は滅亡へと向かうだろう。
城で見送ってくれた人々も、男の家族も、男にとって大切なもの全てがこの世から消えるかもしれない。
(…………大丈夫だ、オレならやれる)
男は、ふう、と一度息を吐いてから自分に言い聞かせた。
魔法は良くも悪くも精神状態に影響を受けやすい。
簡単なものならばともかく、高度な魔法は落ち着いていなければ成功もしない。
優秀な魔法使いの条件のひとつに、自身の感情のコントロールも含まれていると考えてもいいだろう。
「……よし」
緊張や不安は心の隅に追いやって、ただ希望だけを胸に男は魔法を開始した。
(頼む――この世界の人間じゃない、誰か……)
まだ見たこともない誰かに、心の中で呼び掛ける。
(オレたちの国を、救ってくれ――!!)




