自分
「シャドウって言うのはよく分からない黒い奴だ。ただの黒じゃない、光が通ってないとまでは言わないが真っ黒なんだ。見てると自然と焦りや不安に駆られるし、何もされてないのに恐怖で覆われるんだ。あんな生物が他にもいるのか?」
アンディは監禁されていた部屋の魔法によってこの上なく冷静に客観的に自身の経験から予想出来る事を話した。
「そんなの初めて聞いたけど、あんたがそいつに怯える理由は簡単なんじゃないか? 話を聞いた感じそいつは真っ黒で一際異彩を放ってるんだから未知のものに恐怖している。もしくは魔法や催眠の類いだけど、実はそれを解除する魔法もかけてたんだよな、いや効果の弱いやつで術者に気付かれない様にしたんだけど、何もかかってなかったぞ?」
「いや、でも確かに俺は1度死にかけ、今は記憶を失い別人になっているからもう死んだって構わないと思ったんだ。なのに……」
少し感情的に語り出すアンディ。
「言いたい事は分かる。けどな落ち着け。私は何年も生きてるから知らない魔法なんてないし、世間に広まってない効率的な魔法の使用方法だって知ってるんだ。催眠や幻術は専門外だけど、人の思考を別物に変えるぐらい強力なものなら気配で分かる」
「でも、」
アンディの言葉を遮りブルードが言う。
「落ち着け、いっきにいろんな事が起こって混乱してるんだ。魔法を無断でかけた私も悪いけど、安心してくれ。大体話聞いてあんたは信頼出来るって分かった。とりあえず、あんたはこれから生徒兼参考人ってことでここに住み込め」
「参考人? 何の? いや、信用できない言っといて、あっさり手のひら返しか?」
「……実は自白魔法も、ちょっと……だけ、かけちゃったから。ま、まぁ、それは置いといてそのシャドウってのがもしかしたらこの世界を裏で牛耳ってる奴等に関係するかもしれないから話聞きたいんだよ」
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暫くしアンディは自身の身に起きた奇妙な事を全て話し終えた。
「結局さ、あんたの性格が分かんないんだけど」
「そうか? 気にしないでくれ」
「話聞いててもそうだし監禁してるの監視してても感じたんだけど、そのうちあんた何かデカイ事やらかすよ。ま、カンだけどね。それよりもあんたも言ってたそのキラキラ光るやつ監禁中にも出て来たんだけど、心当たりは?」
「特にないけど、今はそれは影とは全く関係ないと思ってる」
「そうかい。……言おうか迷ってたけどこれから魔法教えるのも楽になるだろうから言っとくね」
そう言ってブルードは一呼吸ついた。
「神、つまり人類なんだけど面白い事に自分達を思い込みの生き物って言ったって話があるんだ。で、そこから創られた私達も同等だって。その証拠が意志魔法。つまり私が言いたいのは、あんたが確かな自分を見つけて強い意志を持っていれば催眠なんかかからないし、意志魔法だって成功しやすくなる。自分の中の自分をちゃんと見つけろ。思い込みで構わない、出来ると強く信じれば出来るなら、自分だと強く信じればそれが自分だ。本来の自分にこだわる必要がどこにある?」
少し照れ臭そうにしブルードは顔を横に向ける。
「成長がない生物を死んだも同然だ。常に成長し続けるから生物は生きた生物なんだ。自分というものも常に変わり続けてる。元の自分を見つける前にちゃんと考えときな。元の自分を見つけた時それに従うのか、成長の為に今の自分と元の自分を合わせるのか」
「何か、ありがとう」
アンディは言った。
「……あー、今日は授業やめだ。とりあえず空き部屋貸すから泊まれ。掃除は後であんたがしとけよ」
そう言って、部屋を出て行った。




