監禁
「信じてもらえてるならいいが、実は俺記憶喪失何だ。お前の言ってる俺自身俺が何者か分かってない。今分かるのは名前と言葉だけだ」
「え? 記憶喪失?」
驚きを隠せないブルード。
アンディは構わず続けた。
「しかも名前も言葉も中途半端だ。特に魔法関係において知らない単語が多過ぎる。俺はどんな人物でどこに居たのか分からないんだ。それでも信じてくれるのか?」
少しの沈黙の後、ブルードは
「記憶喪失とは予想外だよ。全く、どうしたものか。あんたがどんな人物か分からないんじゃ記憶を取り戻した時にこの国の裏側のお偉いさんだったら私が危ないじゃないか」
と言った。
「大丈夫だ。おそらくそんな事はない。俺はーー」
アンディの言葉を遮り続ける。
「だって確証がない。人格が違う可能性、価値観が違う可能性、記憶喪失前と後の記憶どちらを記憶を取り戻した時に優先するか分からない。あんただってさっき自分が分からないって言ってただろ?」
「確かに言った、だけど何か出来るのか? 何もしようがないだろ。そもそもそんな奴が事故でエルフの所まで流れ着くか?」
「あぁ、流れ着くさ。奴隷がいる確信は持てないが、南の方で作業してるなら何かの拍子に川に流されてそっちに行く可能性が十分にある」
「でも、」
またも遮られるアンディ。
「とりあえずあんたは地下室に監禁しておく。殺しはしないが怪しい動きをされると保証は出来ないからな」
そう言ってアンディを見るその眼差しは有無を言わさぬ様鋭さを増し、恐怖を連想させる形相を引き立たせていた。
「そんな事言っても、監禁だけで真実が分かる訳ないだろ!」
怯まずアンディは異議を唱えるがそれはブルードには意味を持たず、魔法により拘束され、地下室に運ばれた。
ーーーーー
「暫くたったが、あいつが様子見に来る素振りもないし、監視されてる気配も感じないし、一体何がしたいんだ」
そうアンディが思案していた時、上から寝息が聞こえた。
微量ではあるが確かに壁を挟んだ向こう側から音が漏れていた。
「本当に何の意味があるんだ? でもやっぱり言葉から考えると俺がこの国の上層部、特に裏側に関与していたら自分の身が怖いって感じだよな。……考えても仕方ないし、まずは自分の身の潔白を証明して信用してもらってから質問するか」
それと同時、ブルードはアンディを監視していた。
監視と言うには余りにも雑で不正確であろうはずのそれは、監視対象に気配を悟られなくする為のブルードの経験から出た知恵であった。
しかしそれは監視魔法に監視魔法をかけ、それを凝視せず目の縁で捉えるという実に単純なものである。
「やっぱり、賢いんだな。魔法使えないのに監視魔法から漏れ出る気配の事は知ってるみたいだし、それに無駄な事は一切しない合理主義に見える」
窓の外を見て一呼吸おいた後言う。
「だから余計に信用出来ないな」




