森林
「そう言えば」
何かを思い出して突然アンディが呟いた。そして、そのままアンディは続ける様に言う。
「そう言えばさ、木々が怒るとか言っていた気がするが、どう言う意味だ?」
スーロは少し眉を顰めた。
「そうだよな、他の種族には分からないよな。けど……俺らからしても他の種族に説明するのが少し難しいんだよな……。それでも聞くか?」
「当然」
間を置かずにアンディが答えた。
「まあ、そうだよな。そうだな……やっぱりまずはあれからだよな」
スーロの小さな独り言が聞こえたが黙ってアンディは待つ。
「この辺りにはいないが、森の奥地には樹が人型の生き物として活動していて、集落の様なものに隠れ住んでいるんだ。彼らは歩いたり、話したり出来る賢い種族で、その集落も他種族とあまり関われない場所にあるんだ。そして、彼らの中には歩けはしないが話が出来る樹もいて、そういう樹は確か、成長途中か怪我や病気の治療途中の樹だったと思う」
スーロの話を沈黙し続けてアンディは聞いていた。それは、あまりにアンディの常識から外れた事を言われたため言葉が出そうにも出てこないからである。その沈黙の間もアンディは納得の出来る思考を繰り返す。しかし、スーロは続きを話し出す。
「それに、彼らの活動範囲外でも数は大してないが歩けもしないし話せもしないのに意識だけは持っている樹がいるんだ。そういう樹については俺もあまり知らないけど、自分が傷ついたり、仲間が襲われているのには我慢が出来ずに攻撃を仕掛けてくる事だけははっきりとしてる。だから俺たちは森での活動中に細心の注意を払うんだ。それが分かってる理由は、つるや葉があり得ない軌道で飛んできたり、木ノ実もまだ熟してない物が飛んできたりするんだ。それも傷つけた人物の周辺に大量にくる。君もやってみると分かるよ。ただし、オススメはしない。樹々からの攻撃は言わば復讐。だから、最悪の場合、殺されてしまうんだ」
アンディは新たに事実を言われたにも関わらず、まだ言葉を出せないでいた。そしてそれは、彼が理解しているのに理解出来ないと肯定と否定とを続けてしまい、それ以外に能力をほとんど使えなくしているためであり、スーロに「大丈夫か?」と声をかけられても尚、そちらを向かずに下を向きながらようやく言葉を発した。そしてそれは、その場の誰もが予想だにしていないものであった。
「よし、じゃあ、そこに、行くか!」
それを言った本人は何故かそこの行かなければならない衝動に駆られていた。しかし、その発言はエルフからしたら考えられないものであった。死の危険を明確にしても尚行きたがるのは密猟者ぐらいであり、実際スーロの中のアンディは今までの台詞や今の村の状態から確実に1人で、記憶喪失以外の怪しいところも無く、人物が固まりつつあったのだ。そんな彼から言われた言葉に驚きを隠せずにいたが、落ち着いてスーロは返す。
「君の言いたい事は分かったが、まず、さっきの説明で納得出来たのか?そこが知りたい」
「いや、何というか、少し……難しい。全部に納得は出来てないな」
「やっぱりそうだよな。うーん、何て言えばいいかな?」
スーロが悩んでいると、今まで無視されて黙り込んでいたアーチが陽気に説明し出した。
「つまり、樹が歩いたり話したりして生きてて、体が悪かったり怪我してるのは、治療中だから歩かないけど話はする。それで、彼らの村の外にも考える樹がいるけど歩いたり話したりは出来ないってこと。それで、そんな樹は攻撃されたらやり返してきて、やり過ぎる樹は相手を殺しちゃう。どう?分かる?」
突然のアーチの介入にアンディとスーロの2名は思う。やっべ、こいつのことすっかり忘れてた。と。
「何だよそのドヤ顔は!腹立つ!」
「確かに少しうっとうしい。まあ、大体分かったよ。ありがとう」
と各々思った事を言う。
「で、大体分かったけど、そこには連れて行ってくれるの?」
「ん?そうだな、分かったならいいが、……そんなに行きたいか?」
「もちろん」
そのアンディの言葉を聞いて観念したスーロが覚悟を決めた様な顔で答える。
「分かった。連れて行ってやる。しかし、条件がいくつかあるからそれを飲めないと駄目だからな」
「ああ、分かった」
ここから彼らは樹々の集落へ向けての話し合いを始めた。