飛躍
「これ、お兄さんの家? 何か小さいね」
「……あのね、あんまりそういうことは言わない方がいいよ」
「ふーん。ねぇ、そういえばお兄さん飛べないの? ここに来るまで飛んでる人いたけどお兄さんは飛んでなかったよね? 私と同じなの?」
「飛べるよ。でも君に羽がなかったから飛ばなかったんだ」
「あ、そっか。お兄さん賢いね。私そんなこと考えなかったよ」
「んー、これで賢いって言われても反応に困るな」
「ねぇ、この町の人達はみんな飛べるの?」
「みんな飛べるよ。でも何で? 君も飛びたいの?」
「……飛びたい、とは思わないけど……飛べたらいいな、とは思うけどね」
少し悩んで答えた
「……。んー、飛んでみたいんだよね?」
確認の言葉をかけられ顔を見つめる。
「……飛んでみたい、よりは飛べたら便利かも、かな? 言葉、見つからないや」
「……じゃあ、飛んでみたいようだし、丁度いいものがあるよ」
「何? 気になる」
「ちょっと待っててね」
そう言うと奥から箱を取ってきた。
「何それ?」
「この箱の中の石を使うんだよ。この石は飛翔石って言うんだ。持ってみて」
その石を手渡そうとした時にあることに気付いた。
「あ、名前まだ言ってなかったね。僕の名前はハーロン。君は、名前覚えてるかな?」
「名前……分かんない」
「そっか仕方ないね。まぁ、これを持ってみて」
「……何も起きないよ?」
「持つだけだと何も起きないけどね、それを持ってあることを考えたら飛べるようになるんだよ」
「あること?」
「まず、円を考えてみて。その円にはエネルギーが流れてるんだ。そうだな、何かがぐるぐる回ってるイメージだね。右回り左回りどちらでもいい、両方に回っててもいいよ」
「うん、考えてみたよ」
「そしたら次はその円の中に天空を考えてみて」
「天空って言われても難しいよ。朝、昼、夕方、夜で景色が違うのにどうしたらいいの?」
「そうだね、空でも上向きの何かでも何でもいい、君が1番連想しやすい何かを考えたらいいんだよ。形じゃなくて、色でもいいよ。例えば昼の空の青。夜の空の黒。とかね」
「……分かった。頑張る」
天空って何だろ? あんなに大きくて形のないものって考えたことなかった。……何だろう。あれ……かな?
「分かった。波にする」
「え? ……波? 波って言った?」
すると
「あ、できた」
浮いた。
「ねぇ、これってどこまで飛べるの?」
「ずっと飛べるよ。でも集中力なくなったら飛べなくなって落ちる時あるから、その時は落ち着いてもう一回考えるといいよ」
「……すごいね、これ。……ねぇ、一緒に飛ぶ? 町を上から見てみたい。みんなしてるんでしょ?」
「いいよ。気がすむまで付き合うよ。落ちたら危ないしね」
「……ありがとう」
ーーー空中ーーー
「何かすごいね。町ってこう見たら小さいね」
「そうだね、あんまりじっくり見たことなかったな」
「ねぇ、あの鳥どうしたの? 落ちてるよ」
「あー、詳しく知らないけどあの鳥は今の時期死ぬ個体がいるんだよ」
「……そうなんだ。命って……」
その瞬間少女の中で何かが開いた。
命……。尊い……。敬い……。
大事……。大切……。重要……。
天空……。飛翔……。羽根……。
暗黒……。純白……。黄金……。
平和……。平等……。自由……。
白銀……。漆黒……。光輝……。
波動……。動作……。流動……。
単一……。命……。唯一……。
命……。命……。命……。
名前、は……
命……。とは……。
ーーー命ーーー
頭に流れ込んでくる文字群に恐怖する少女。
「君、君! 大丈夫かい?」
だがすぐき落ち着き、返事する。
「……うん。大丈夫……かな。……命って大事だね」
ハーロンは
本当にそれだけか?
と思った。
「……うん、そうだね」
「あ、名前、思い出したよ。私の名前はエポ。エポって呼んでね」
「いや、エポしか教えてもらってないからエポしか呼べないよ?」
「……あ、そっか。やっぱりお兄さん……ハーロンは賢いね」
「そうかな? でも何かあったのに飛び続けてるエポもすごいよ」
「……ありがとう。だとしても疲れた。降りよ」
「そうだね」
この時ハーロンは、初めてにしてはだいぶ長く飛んだエポを心からすごいと思っていた。




