急転
アンディは砂漠の中を歩いているがそこに道はなかった。
砂漠には稀に看板が点在するのみで道しるべが全くと言っていいほど何もなかった。
そして今アンディは看板の前にいた。
「2個目だな、町に着く前は看板すらなかったのに、町出てからは親切だな」
そう言って、看板を見つめるアンディ。
看板には
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この先北西へ進むとティカリットです。
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と書かれていた。
「やっぱり当たり前のこと書いてるな。しかもまた1文だけか。道が正しいかしか分からないな」
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暫くしアンディが3つ目の看板を見つけた時起こった。
町にいた時と同様に……地震が。
しかしそれは町の時とは明らかに違うとアンディは即座に理解する。
揺れは大きいけど、あの時と違う。確実に揺れが大きくなってきてる。
アンディがそう思ったまさにその時であった。
アンディを中心に足場が盛り上がった。
「やばいやばいやばい! 何だこれ」
この時アンディは分からなかったが、アンディは今とてつもなく巨大な生命体の上にいた。
それはアンディが今までに見たことがないほど大きく、常識外のものであった。
「な、何で今突然山が出来るんだ! ありえないだろ!」
するとその生命体は目覚めてすぐ伸びをするかの様に前足を上げた。
「待て待て待て、何で傾斜が」
途端にアンディはそれの背から滑り落ちる。
その生命体の背には無数の岩よりも強固な棘が生えていた。
しかしそれはアンディにとっては棘よりも岩に近い代物であった。
何度も岩の様な棘にぶつかった後アンディは地面に落ちた。
もの凄い衝撃がアンディを襲ったが、辛うじて意識を保っていた。
そして初めてその地面の盛り上がりが生命体だと確認した。
「馬鹿げてる。デカ過ぎる。やばい……」
その時町の人の言葉を思い出す。
ーーーベヒモスーーー
そしてアンディの脳内をベヒモスに関係すると思われる言葉が目まぐるしく駆け巡る。
やばい……死ぬっ!
その言葉が頭をよぎった時アンディは急速な眠気に襲われる。
と、ど、け……。
……やばい……やばい……や、ばい………………。
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「はぁ、また来てしまったね。いや、また会ってしまったの方が適切だな。君への忠告は不十分だったのかな?」
朦朧とする意識の中アンディは声のする方へ視線を向けた。
そして驚愕と共に意識がはっきりとする。
「何でお前が、いや、お前はどっちだ!」
アンディの眼前に影がいた。
「何でって君が来たんだよ。どっちって君が創り出した方さ」
アンディは安堵するが即座に先ほどの巨大な生命体を思い出す。
「やば、い? いない。どこ行った? いや、何処だここは」
「どこって砂漠だよ。というか何慌ててるんだ?」
「さっきのデカイ奴は?」
「デカイ奴? 少し待て………………なるほど、おそらく君を逃してくれたんだな。優しい奴でよかったな」
「何故言い切れる?」
「催眠効果、落ちた君に気付き見つめるあの目、それにほら今君のどこにも傷がない。これで確証だと思うけどね」
「目? 確かに見たけど優しそうだったか?」
「君はあの時意識がはっきりしていなかったろ? なら私を信じろ」
「そういうもんなのか? そういえば、お前見た目影だけど影ではないんだろ? なら呼び名でも付けないと呼び辛いな」
「ようやく私が影でないと信じてくれたか。そうだな、考えるのも面倒だし本物は影だから私は陰でいいよ、シャドウとシェイドそれでいいだろ?」
「確かに違うけど、意味は似てるんだよな」
「別に構わないさ、そう滅多に会えるものでもないしね」
突如上空から声が響いた。
「ようやく見つけたぞ、アンディ。会えるのを楽しみにしていた」
アンディは過去最高の驚愕で体が硬直する。
そのアンディの眼前には2体の影がいた。
「何やら私の名前をこの偽物と一緒に付けていたようだね。シャドウとか。別に呼び名は気にしないが私の偽物ならもっとセンスがあってもいいと思うがね。そう思うだろ? アンディ?」
アンディの周りを周りながら放つその言葉と共にシャドウの中心が赤く滲んでいく。
「あ」
アンディが口を開こうとするとシェイドがシャドウと組み合った。
「ここは何とかする。とりあえず、治療装置か何かがあっただろ? 使え! ピン式の方だ!」
アンディはその声で我に帰りピンを抜こうと手を伸ばす。
するとシャドウが巨大化する。先ほどの生命体と同程度に。
やばい、急げ、届け、
ピンの抜ける音が反響する。
やった!
アンディにはまだ僅かに傷がありそれが治療装置を作動させた。
「逃げられてしまったか。仕方ない今日は諦めよう」
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……ここは? 間に合ったみたいだな。よかった。
眼が覚めるとアンディは山の麓にいた。
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吹雪が吹き荒れる中1人の人物が呟いた。
「ここももう潮時だな」




