始動
「少し…疲れた」
心に問題があったのか体に問題があったのかはわからないが、ある者は未だかつてない疲労を感じていた。
「お、おい!寝るなよな運びづらい」
「仕方ないよ、この位置に倒れてたってことは多分、川に流されてたか道に迷ってずっと歩いてたんだろ。つまり、相当やばい状況だったんだよ」
ある者は薄れゆく意識の中で2人の男の会話を確かに聴いていた。
「おい、見ろこいつ耳が……」
一瞬間が空き、1人が気付いた。
「え、なんだよこれ……。何があったんだ」
カフィーヤの様なものを身にまとっていたため、発見が遅れたが、ある者は耳が片方無かった。
この一連の会話は2人がある者を発見してからおよそ2分後の出来事であった。
翌日、ようやく目を覚ます。
おかしい、ここはどこだ。あれ、何しようとしてたんだ……。何も思い出せないぞ。
ある者は恐怖にとらわれていた。何もわからない、無知であることの恐怖に。目を閉じ、気持ちを整理し、もう一度開け、今度は周りをはっきりと見る。そこで、目があう。
「お、大丈夫か?意識ある?てか、起きてるか?」
聴き覚えのある声だ。しかし、声の主との関係を思い出せない。
「すまない、ここはどこだ?そして君は、誰だい?」
不思議そうな顔をした。それもそのはず、前日にある者を助けた1人であるからだ。
「お前、何も覚えてないの?昨日俺ともう1人助けただろ」
全く身に覚えがないことを言われ困惑していた。しかし、この時男の耳が異様にとがっているのに気付き、無意識のうちに「エルフか?」と言っていた。
突然、種族を聞かれたため少し驚きはしたが「そうだ」と答える。
しかし、それ以上にある者は驚いていた。何故、そんな問いかけをしたのか?と。そのことを考える間もなくとっさに言う。
「すまない、突然変なことを言って……。失礼ではなかったか?」
「いや、気にするな。そんなことより、本当に何も覚えていなさそうだな」
「すまない、何も……わからない」
「種族か名前はわかるか?」
……種族?……名前?あれ、何だったっけ?種族は、人型か?じゃあ、名前は?
その時であった。突然凄まじい頭痛に襲われ、手紙の様なものが脳裏に現れる。読みにくい字体だったため時間がかかったが、声にならない声で読み上げる。
「ア…アンティ?いや、アンディか。アンディS…」
その瞬間であった。突如として頭痛は止み、同時に手紙を思い出せなくなる。何だったんだ今のは?ある者の中には疑問しかなかった。
「おーい、名前だよ名前。君を選別するもの」
返事が遅かったため、また聞かれた。
「すまない、アンディ.Sだ。Sは何か思い出せない」
「いいよ、気にするなアンディ。それから謝りすぎだ君は」
それに対してアンディは笑いながら「すまない」と言った。あまりにも嬉しそうだったため男も知らないうちにいっしょに笑っていた。