表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

心の楽譜

作者: 円山翔

彼はいつもピアノを弾いていた

私は陰でこっそり聴いていた

彼の奏でるピアノの音には

彼の心が映っていた

それはまるで魔法のように

私の心に響き渡って

いろんな感情を私にくれた

譜面台に楽譜はなかった

彼の心が楽譜だった


その日は楽しい曲だった

軽やかで明るい曲だった

弾いている彼は楽しげで

聴いている私まで楽しくなった


その日は穏やかな曲だった

ゆったりとした温かい曲だった

弾いている彼は優しい顔をしていて

聴いている私まで優しい気持ちになった


その日は激しい曲だった

重くて荒々しい曲だった

弾いている彼は怒りに満ちていて

聴いている私まで怒りっぽくなった


その日は寂しい曲だった

とても清らかで

でもどこかせつない曲だった

弾いている彼は涙を流していて

聴いている私まで泣きたくなった


その日はピアノの音がしなかった

私が部屋に入ると

そこにいるはずの彼はいなかった

譜面台の上に紙切れを見つけて

そこに書かれた文字を見て

私ははっとした


――僕は遠くへ旅立ちます

  今まで聴いてくれてありがとう――


彼が奏でた曲に込められた彼の感情は

このことを私に伝えるためだったんだと

その時はじめて気が付いた


私はピアノの蓋を開いた

心に沸き立つ感情を

今まで彼にもらった感情を

一つ残らず詰め込んで

そこにいるはずのない彼へ向けて

私はその曲を奏でた



私の心の楽譜に刻まれた

楽しくて

穏やかで

激しくて

寂しい

お別れの曲だった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ