武器には愛着を持つ派
7日目の午後。
カラスは定時報告のため、クロネコの泊まっている安宿を訪れた。
「おはよ、クロネコ」
「おはよう。もう午後だが」
「どうせお昼まで寝ていたのでしょ」
「まあ」
カラスは断りもなく、安物の椅子に腰を下ろす。
金髪を手で後ろに払う仕草が、非常に様になっていた。
「首狩りのせいで、憲兵隊の詰め所はてんやわんやよ」
「首狩り?」
「あなたのことよ」
「俺か」
厳密に呼ぶなら喉切りとでもしてほしいところだが、呼ばれ方は大した問題ではない。
「あなたがセレーネ・マクガフィを殺したせいね」
「誰だ?」
「第2憲兵隊の女隊長」
「ああ……。あれは隊長だったのか。道理で、悪くない腕だと思った」
「それでも悪くない程度なのね……。憲兵隊の中でも一、二を争う腕前だったそうよ」
「そうか」
いい情報だ。
つまり憲兵隊は、よほど多数でなければ実力で突破できる程度ということだ。
逆にセレーネくらいの腕前の者が、もし一般憲兵だったとすれば、厄介なことになっていたところだ。
「それと、首狩りの噂はもう王都中に広まっているわ」
「まあ、この3日で25人も殺せばそうだろう」
「もう目標の4分の1を達成したのね。すごいじゃない」
「いや、ここからだ」
そう。
ここからのはずだ。
「そうね。王城に詰めている衛兵隊が、町の巡回に加わるそうだから」
「予想通りだな。衛兵隊の腰がもう少し重ければ、楽だったんだが」
王城勤めの衛兵隊だ。
当然、町の治安維持に当たる憲兵隊より実力は上だろう。
「情報はこんなところ」
「ああ、助かった。また明日も頼む」
「ええ。あの、ところで」
「何だ?」
カラスの視線は、クロネコの手元に向けられている。
厳密には、クロネコが手入れをしている肉厚のダガーだ。
物騒なことこの上ない。
「あなたの得物?」
「えぐりドラゴンくんだ」
「え?」
「ん?」
カラスは瞬きをする。
「ごめんなさい、もう一度?」
「えぐりドラゴンくん」
「……えっと」
「2本あって、こっちは1号だ」
「…………そう」
カラスは何を聞いていいのかわからなかったが、とりあえず一つ聞いた。
「何で、えぐりなの?」
「えぐったほうが痛そうだろう?」
「………………そう」
カラスは帰った。
クロネコは日が落ちるまで、満足そうにダガーの手入れをしていた。
その夜は、憲兵隊と衛兵隊の合同巡回の目をかいくぐり、一般人を4人殺した。
戦闘にならなかったため、えぐりドラゴンくんの出番はなかった。
<用語解説>
憲兵隊 …… 町の治安維持を司る組織。現代における警察のような役割。
衛兵隊 …… 王城を警備する兵隊。衛兵の中でも一部のエリートが、近衛兵として選出される。