積み上がった金貨
ハゲタカの手配は素早かった。
翌日には、クロネコとカラスは、商人の馬車に紛れてリンガーダブルグを離れた。
キャルステン王国の暗殺者ギルドまで帰還した2人は、ギルドマスターに大いに労われた。
「本当にこの依頼を達成しちまうとはなあ。お前は伝説だぜ、クロネコ」
ギルドマスターの言葉には、半分賞賛、半分呆れが混じっていた。
テーブルに積み上がった成功報酬の金貨2万枚はさすがに壮観で、カラスは羨ましそうにそれを眺めていた。
「やはり金はいいな」
「でも、まだ稼ぐのでしょ」
「まあな」
クロネコは戦争に興味はなかったが、リンガーダがどうなったのかは自然と耳に入ってきた。
軍務大臣と副大臣という、軍務のトップを担う人材が同時に2人も殺されたことで、リンガーダ王国の軍事はまともに機能しなくなった。
当然、すぐさま後任の人事が成されたが、そうそう大臣を務まる人材がいるはずもない。
全軍に命令を下す軍事のトップがこの有様では、キャルステン軍の本格的な侵攻に耐えられるはずもなく、リンガーダの防衛線は東部を突破され、王都リンガーダブルグにまで押し込まれた。
更に悪いことに、この機を逃すまいと反対側の隣国からも侵略を受けた。
挟み撃ちのような攻撃に曝されたリンガーダは、軍の数が足りなくなった。
そのような状態だったので、王都での防衛戦も酷い有様だった。
王国最強の武人であるバーレン副団長を欠いたことで、騎士団の士気は低下しており、また治安をズタズタにされていたせいで、衛兵隊や憲兵隊も上手く機能しなかった。
最終的にリンガーダは、キャルステン軍の侵攻を受けてから、僅か一ヶ月ほどで陥落した。
リンガーダ王国はキャルステン王国に併合され、リンガーダの名を冠する国は消滅した。
過去の歴史を紐解いても、これほど鮮やかな侵略劇は他に類を見なかった。
◆ ◆ ◆
それからしばらくして。
クロネコは、ギルドマスターに呼び出されていた。
部屋に入室するとマスターはおらず、代わりに先客がいた。
「カラス」
「あら、クロネコ。あなたも呼び出されたの?」
久しぶりに見るカラスは、切った髪をまた伸ばしているようだった。
彼女は嬉しそうに、クロネコの隣まで歩いてくる。
「事務方に左遷されたと聞いたが?」
「先日、情報員に復帰できたのよ」
「そうか」
「あなたが口を利いてくれたおかげね」
「お前は、まあ使える人材だからな」
相変わらずぶっきらぼうなクロネコに、カラスはふふっと笑った。
「おう、すまん。待たせたな」
「遅いぞハゲ」
ハゲのギルドマスターが入ってきた。
「いやあ、お前らにでかい依頼があるんだ」
「ほう」
「他国に暗殺者を送り込んでからの侵攻ってのに、お偉方が味をしめてな」
「それはつまり」
「ああ」
ギルドマスターはにやりとした。
「ちょっと100人、殺してきてくれ」
完結いたしました。
読者の皆様に恵まれたおかげで、大変楽しく執筆することができました。
最後までお読みくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございました。
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第二部を連載中です。
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よろしければ続けてお楽しみください。




