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依頼達成

 クロネコとカラスは、城外で落ち合った。

 2人とも何事もなく無事に脱出していた。


「上手くいったか?」

「ええ。もう、お尻を触られたりで大変だったわ」

「そうか、よくやった」


 カラスはクロネコに対し、成功したのかとは問わない。

 成功を疑っていなかったし、仮に失敗したのであれば彼はここにはいないからだ。


「もう日没が迫っている。宿に戻るぞ」

「そうね」


 2人が宿に戻ると、部屋でハゲタカが待ち構えていた。


「よう、お二人さん。お疲れ」

「明日、報告しようと思ったんだが」

「てこたあ問題なかったんだな?」

「ああ」

「ようし、さすがだぜ」


 ハゲタカは手を打って喜んだ。


「カラス。お前さんも、暗殺者でもねえのによくやったなあ」

「毒殺は簡単だもの」

「いや。さっきも言ったが、カラスはよくやった」

「あ、ありがと……」


 2人に褒められ、カラスは頬を赤くした。


「さあて。後はお前さんたち2人は、本国に戻るだけだ」

「帰還の方法は?」

「商人の馬車に紛れるのがいいだろう。俺が手配しとくぜ」

「任せた」


 クロネコは椅子に、カラスはベッドに、それぞれ腰を下ろす。


「ねえ。キャルステンからの軍隊はどうなってるの?」

「近いぜ。もう明後日くらいには、このリンガーダと開戦するんじゃねえのか」

「それだと私たちは軍隊とすれ違うように、本国に戻ることになるわね」

「そうなるなあ」


 ハゲタカは「ちょっと待ってろ」と言い残し、部屋から出て行った。


「カラス。少々、顔色が優れないな」

「そうね。疲れたかもしれないわ」

「傷も完治していないのだから、今夜は早めに休むべきだな」

「そうさせてもらうわ」


 カラスは無言になった。

 疲れていたのはその通りだが、考え事もしていた。


 ハゲタカの言った通り、後は本国に帰還するだけだ。

 それで2人の仕事は終わる。

 仕事上の相棒という関係が、終わる。


 カラスは自分の胸に、そっと手を当てた。


「ねえ、クロネコ」

「何だ?」


 見上げるカラスの表情は、どこか熱っぽい。

 クロネコはいつも通りのぶっきらぼうな表情で、それを見返す。


「……」


 カラスの唇が薄く開かれるが、言葉は出てこない。


 本国に戻れば、2人の関係はそれでお終いだ。

 ならば今しかないのではないか。


 彼女の想いを伝えるのは簡単だ。

 ただ一言、言葉にするだけだ。

 しかし、伝えたところで彼女の想いは成就するのか。


 ――しないだろう。


 カラスはそう結論づけた。

 クロネコが、彼女に対して特別な感情を持っていないことなど、見ればわかる。

 彼にとって、あくまで彼女はただの情報員に過ぎないのだ。


 もう少し一緒に過ごす時間があれば、あるいは可能性があったのかもしれない。

 しかし、仕事は終わり。

 ないものねだりだ。


 それに恋人や、それに類する大切な人間は、時として大きな弱点となる。

 最強の暗殺者に、そういった恋人がいるという想像が、カラスにはどうしてもできなかった。

 何というか、クロネコにはずっと最強のままでいてほしかった。


「……何でもないわ」


 カラスは首を振った。


「そうか」


 クロネコはそんな彼女を見て、何も言わなかった。


「待たせたな、お二人さん。持ってきたぜ」


 ハゲタカがワインと木杯3つを持って、部屋に戻ってきた。


「それは?」

「依頼が成功したんだぜ? ささやかでも、こういうときは祝杯を上げにゃあな」

「いいわね。飲みましょうか」

「そうだな、悪くない」


 カラスには、依頼が無事に成功したという安堵と達成感があった。

 今夜はその達成感に任せ、潰れるまで飲んでもいいかもしれないと思った。


 見ればクロネコも、口角を上げている。

 大きな依頼だったのだ。

 やはり熟練の暗殺者といえども、達成感はあるのだろう。


 この夜は3人とも、飲んだ。

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