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バーレン VS クロネコ

 もう一方の軍務執務室の扉がノックされた。


「誰かね?」

「衛兵のクロネです。ご報告に上がりました」

「入ってくれ」

「はっ。失礼いたします」


 衛兵に扮したクロネコが扉を開けて入室すると、テーブルを挟んで、やや痩せ気味の男が座っていた。

 アンダルソン副大臣だ。

 クロネコは、不自然に思われないぎりぎりの距離までテーブルに近づき、敬礼の仕草をした。


「執務中に失礼いたします」

「構わない。どうしたのかね?」

「はっ、実は……」


 クロネコは時間をかける気などなかったし、かける必要もなかった。

 滑るように踏み込み、テーブルの上から拳を突き出した。


「ぐげ!?」


 拳は的確にアンダルソンの喉に命中し、彼の声を封じた。

 そのままテーブルを回り込み、苦しむアンダルソンの首に革の紐を巻き付けた。

 力を込めて、首を絞め上げる。


 アンダルソンは手足をじたばたさせたが、程なくしてぐったりと俯いた。

 息絶えた彼の身体を、きちんと椅子に座り直させる。


 そして椅子を回転させ、背もたれを扉のほうに向ける。

 これで入室者が一見しただけでは、アンダルソンの様子はわからないだろう。


 暗殺は終わった。

 後はさっさと引き上げるだけだ。


 そこで扉がノックされた。


 反射的にクロネコは、テーブルの影に身を潜めた。

 もちろん誰かが訪ねてくる可能性はあったのだが、タイミングの悪さに、彼は内心で舌打ちをした。


「アンダルソン? ワシだ、バーレンだ。いないのか?」


 扉の向こうから聞こえた野太い声に、クロネコは目を細めた。

 バーレンの名を彼は知っていた。

 リンガーダ最強の武人と誉れ高い、騎士団の副団長だ。


 最悪のタイミングで、最悪の相手だった。


「おうい、祝いのワインを持ってきたんだ。入るぞ」


 考える時間はなかった。

 今すぐ、どうするか決断せねばならない。


 正面からの戦闘は下策だ。

 たとえ勝てるとしても時間がかかるし、何より大声を上げられてはお終いだ。

 城内の兵がぞろぞろと集まってきて、彼の暗殺者人生は終了する。


 だが、ナイフに毒を塗っている時間もない。

 もう扉が開いた。


 精悍な顔立ちと逞しい肉体を持つ、中年の男が姿を表した。

 腰には騎士の剣を履いている。

 彼がバーレンだ。


「おい、アンダルソン。何だ、寝ているのか?」


 彼はテーブルの影で気配を殺しているクロネコに、まだ気づいていない。

 だが、それも時間の問題だろう。


 そして出口はバーレンの向こう側だ。

 逃げに徹したところで、望みは薄い。


 ならば、ここでバーレンを始末するしかない。

 それも声を上げさせず、逃亡すら許さず、時間さえかけずに殺すよりない。

 リンガーダ最強の武人をだ。


 ――手はある。


 正直言って気は進まない。

 平時であれば、絶対に使いたくない最終手段だ。


 だが猶予はない。

 彼はここで人生を終えるつもりはないので、最終手段に訴える決断を下した。


「ん……?」


 数歩進んだところで、バーレンが眉根を寄せ、足を止めた。

 クロネコは気配を殺しているにも拘らず、執務室の違和感に気づいたのだ。

 バーレンは手に持っていたワインを床に置き、腰の剣に手をかけた。


 瞬間。

 クロネコがテーブルの影から、猛虎のごとく躍りかかった。

 上段から、鋭くダガーを振り下ろす。


「何奴!」


 バーレンの抜剣は速かった。

 豪剣を振り抜き、上から迫ったクロネコのダガーを逆に弾き返した。

 音に聞こえたその剣速は、部屋の空気をビリビリと震わせた。


 そう。

 バーレンの意識は、上方に向いていた。


 クロネコは、バーレンの金的を蹴り上げた。


 声にならない悲鳴を上げ、バーレンはその逞しい身体をくの字に折った。

 口から泡を吹いている。

 白目を剥きかけている。


 クロネコは動きの止まったバーレンの喉を、躊躇なく切り裂いた。

 床に鮮血を撒き散らし、あまりの激痛に悶絶しながらバーレンは事切れた。


 クロネコは静かに扉を開閉し、退室した。

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