拷問されるカラス
「はあ、はっ……はあ……」
王城の地下牢。
カラスは手首に鎖を繋がれ、天井から吊るされていた。
「はっ、はあ……くっ……」
鞭が鳴るたびに、彼女の表情が苦悶に歪む。
そして服が裂け、彼女のきめ細やかな肌に、裂傷が一つ増える。
「んうっ……はあ、はあ……」
額には脂汗がびっしりと浮いている。
想像以上の痛みと苦痛に、カラスは息も絶え絶えになっていた。
「俺ぁグスタフ様の子飼いの裏方だがね。本業はこっち、拷問屋のほうでねえ」
鞭を手にするのは、下卑た顔をした小太りの男だ。
「最小限の傷と出血で、最大の痛みを引き出す鞭の打ち方を、よぅく知ってるんだわ」
男は自分の手に、鞭を軽く打ち付ける。
乾いた音が、冷たい地下牢に響く。
「下手な奴ぁ、傷と出血ばかり増やして、捕虜をすぅぐ殺しちまう。俺ぁ上手いから長持ちするぜえ」
小太りの男が、鞭を振るう。
カラスの肢体が揺れ、鎖が音を立てる。
「んくっ……!」
カラスの頬を汗が流れ、顎を伝って石畳に落ちた。
牢屋番の衛兵2人が、拷問する男の様子を、醜い豚でも見るような目で眺めている。
しかしこの拷問は、男がグスタフ大臣から与えられた仕事であるため、衛兵は口を挟むことはしない。
「で、だ。粘ってもいいこたぁねえって理解できただろう? 喋る気になったかねえ?」
男は下卑た顔を、俯くカラスの顔に近づける。
「拷問慣れ、してねえんだろう? 痛えだろう? 早く解放されてえだろう?」
男は囁くように、言葉を続ける。
「首狩りとやらは、どこだ?」
男の問いに、カラスは唇を小さく動かす。
「……」
「んん? 何だって?」
「……口が、臭いわ」
「……てめえ!」
男は、カラスの形のよい胸を鷲掴みにする。
「んっ……」
「調子に乗るんじゃねえ。女に口を割らせる手段なんざ、いくらでもあるんだからなあ……?」
カラスが表情を歪めて、口を開く。
「だから……、もうちょっと、考える時間がほしいって……、さっきも、言ったでしょう……」
「あぁ、聞いたぜえ。時間稼ぎはいらねえんだがなあ」
男が鞭を、カラスの身体に叩き付ける。
鞭で打たれた場所が熱を帯び、じんじんと痛みを訴える。
カラスは意識が朦朧とし、熱っぽい吐息を漏らした。
男は確かに拷問が上手いようで、痛みのわりに傷は浅く、出血は少ない。
しかし彼女は、このような拷問を受けるのは初めての経験だ。
このままでは痛みで参ってしまい、意図せず口を割りかねない。
クロネコが助けに来てくれる可能性は、限りなく低い。
それがわかっていながらも、一縷の望みに縋ってしまうあたり、自分は甘いのだろう。
単純にまだ生きていたいという思いもあるが、彼ならば――と淡い期待を抱いているのも事実だ。
暗殺者ギルドの情報員として、失格の烙印を押されても仕方がないと、カラスは内心で自嘲する。
ぼんやりとした視界の向こうに、下卑た顔が舌なめずりをしているのが見えた。
いよいよ本格的に、いたぶってくるのだろう。
今夜一晩はもたないかもしれないと、カラスは感じていた。
次回は王城への潜入です。




