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騎士の進言

 リィンハルトは、騎士団長室の扉をノックした。


「誰だ?」

「リィンハルトです」

「……入れ」


 リィンハルトは入室し、胸に手を当てて礼の作法を取った。

 騎士団長はため息をついた。


「リィンハルト。何度も言うが、騎士団は……」

「いえ。報告に上がりました」

「報告?」

「私は昨日、非番でしたが、首狩りと一戦交えました」

「何だと!?」


 騎士団長は思わず立ち上がる。


「いったいどういうことだ」

「偶然、遭遇しました」

「……聞こう」

「はっ。路地裏で不審人物を見かけ、追いかけたところ、賊に襲撃を受けました」

「単独で追ったのか?」

「人を呼べば、逃す恐れがありましたので」

「その賊が首狩りだったと?」

「十中八九。賊は一言も発しませんでしたが、戦い方は暗殺者のそれでした」

「一言もか……」


 騎士団長は苦い顔をして、座り直す。


「声色や口調から足がつくのを警戒したのだろうな?」

「はっ。恐らくプロの職業暗殺者と思われます」

「一戦交えたということは、仕留め切れずに逃したのか?」

「いえ。正しくは見逃してもらいました」

「何?」


 リィンハルトは、一呼吸置いて報告を続ける。


「団長。我々騎士は、正面からのぶつかり合いにおいてはプロです」

「そうだな」

「そして僭越ながら、私は騎士団の中でも上位に位置すると自負しています」

「ワシもそう思う」

「その私が首狩り相手に、防戦一方に追いやられました」

「何だと……」


 騎士団長が唸る。


「我々騎士と違い、暗殺者の本分は暗殺です」

「そうだろう。正面戦闘は、暗殺者の本領ではない」

「はい。にも拘らず首狩りは、全力の私を追い詰めました。見逃された理由は不明ですが、私は昨晩、命を落としても不思議ではありませんでした」

「……」


 リィンハルトが鎧を纏っていればもう少し戦えたかもしれないが、彼はそれを報告しない。

 いずれにしても勝機は薄かったという自覚があるからだ。


 騎士団長は瞑目する。

 リィンハルトの報告が本当なら、騎士団で最強の実力を持つバーレン副団長ですら、一対一で勝てるかどうか怪しい。

 団長自身はすでに老年に差し掛かっているため、剣の腕ではリィンハルトに及ばない。

 そして騎士団最強の副団長が勝てないのであれば、戦闘で首狩りに勝てる武人は、この国にいないことになる。


「この連続殺人事件の犯人が、快楽殺人者あたりであれば、まだマシだったのだがな」

「プロの暗殺者となれば、必ず依頼者がいるはずです」

「わかっている。予想以上に厄介な事態のようだ。軍務大臣に判断を仰ぐしかあるまい」


 軍務大臣とは、軍務と治安維持を統括するトップである。


「覆面をしていましたので、首狩りの顔まではわかりませんが、性別と背格好は判明しています」

「うむ。首狩りに関する初めての具体的な情報だ。これを頼りに、王都中を捜索させねばな」


 そこでリィンハルトが、一歩進み出る。


「団長。魔法使いを動かすよう、軍務大臣に進言すべきです」

「馬鹿な、正気か!?」

「捕縛にせよ、捜索にせよ、もはや衛兵隊と憲兵隊だけで手に負えないことは明白です」

「地方から王国軍も一部、呼び戻している」

「それでもです。騎士団を動かせないのであれば、魔法使いに動いていただくしかないかと」

「……一国に、片手で足りるほどの数しかいない、貴重な魔法使いだぞ」

「心得ています」


 騎士団長は、深々と息を吐き出した。

 リィンハルトはこれ以上、王都の住人に被害が出るのを看過できないのだ。

 しかしだからといって、そう易々と動かせるものではない。

 魔法使いは騎士団以上に、対外戦力としての切り札なのだ。

 万が一、一人でも失うことがあっては、国にとって大損害となる。


「……進言するかどうか、検討はしよう。だが期待はするな」


 結局、騎士団長はそう答るに留めた。



◆ ◆ ◆



 11日目の夜。

 クロネコは屋根の上を駆けていた。


 リィンハルトからの情報が通達された影響か。

 昨晩よりも、巡回密度が増していた。

 明らかに王国軍とわかる兵隊が、憲兵や衛兵に混じってちらほらと見受けられた。

 地方から呼び戻された軍が、少しずつ王都に到着しているのだろう。


 しかし身を低くして屋根から屋根へと渡るクロネコに、気づく者はいない。

 クロネコは屋根から飛び降り、通行人の喉を切り裂き、すぐさま屋根の上に戻る。

 巡回の兵が気づいたときには、すでに死体が転がっているだけだ。


 多少、王国軍の兵隊が増えようが、暗殺への影響はなかった。

 クロネコはこの晩、4人殺した。

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