再会と約束
様々な諸事情が重なり投稿できない状況にありました。
今後も投稿が遅れることがあるかもしれませんが完結するまで書き続けますので、この作品を呼んでくださる皆様これからもよろしくお願いします。
日が沈み空が赤く染まり始める頃、二人は巨大な扉の前に立っていた。
「失礼いたします、ミカエラ・ロザリーです。カイト・ロランス様をお連れしました」
「入りたまえ」
中から返事がしたのでミラは扉を開ける。
部屋に入ると床にはダークブラウンの絨毯が敷かれ、中央の執務机には銀髪の麗人がレインスノートの街を背に座っていた。
彼女こそがレインスノート魔道学院学院長アレイシア・ルーカス、数々の偉業を成し遂げた魔導士であり〈大賢者〉と呼ばれている。
「久しぶりだな小僧。どうした、えらく疲れているようだが茶でも飲むか?」
「その前に一つ問いたい。何故ここに入るための必要事項を手紙に書いておかなかった?」
ローブの下から取り出した手紙を机にたたきつける。
「ここに来る途中俺を襲ってきた生徒に聞いた。ここに入るためには役所から許可を取り門の前にいる警備兵の同行が無いと入れないってな。だがどういう事だ、門の前には誰もいなかったぞ?」
「あぁ、そのことか。門の前にいる警備兵にはその手紙をみせればここに連れてくるように前から伝えておいたのだが、先程この街の近くを荒らしている連中の骸が見つかったらしく、その調査でここにいる警備兵にも召集がかかってな。もし侵入を許しても生徒たちなら捕縛する程度の実力はあるだろうから問題ないと思っていたのだが、そこに運悪くお前が来てしまったというわけだ」
「そのせいで危うく黒焦げになるところだったぞ」
「馬鹿を言え、貴様程の実力者がここの生徒に黒焦げにされるはずがなかろう」
そう言いながらアレイシアは机の引出しから紙束を取り出した。
「私も忙しいのでな、さっさと手続きを済ませてしまうぞ。この書類にサインをしてくれ」
渡された書類に目を通すカイト、彼はとある理由によりこの学校に転入してきたのだ。
「わかっていると思うが、くれぐれも落第にはならないようにな。任務とはいえお前はこの学院の生徒だ。勉学にも励んでもらうぞ」
「安心しろ、報酬分の働きはするさ。そんなヘマはしねぇよ」
今後のことについて話をしていると後ろから扉をたたく音がした。
「失礼します、エリーナ・アスフィルです。」
「丁度いいところに。いいぞ、入ってくれ」
扉が開き濃紺色の長い髪を白いリボンで結んだ少女が入ってくる。
「校内の見回りが終了しましたので報告に参りました」
「ご苦労、その様子だと何もなかったようだな、なら今日はもう下がれ。それと戻るついでにこいつを男子寮まで案内してくれ。今日からこの学園に入ることになった」
「はい、かしこまり・・・まし・・・た・・・」
そう言いながら彼女はこちらを見ると固まってしまった。
「カイト・・・なの・・・?」
「久しぶりだな、エリーナ」
1年ぶりの再会にエリーナは驚きの声をあげる。
「どうしてここにいるの!?しかもここの生徒って、向こうで何かあったの?」
「師匠からの命令で、上からの任務だから行って来いとさ」
「隊長から!?」
「ああ、だからしばらくこっちに滞在することになったからよろしくな」
この時彼女に動揺が走ったのをカイトは見逃さなかった。
その後ミラから受け取った制服に袖を通したカイトはエリーナとともに男子寮に向かっていた。
「それにしても驚いたわ、カイトがこっちに来るなんて。シスターたちは元気にしてる?」
「あぁ、みんな元気にやってるよ。ようやく最年長組が山で狩りをできるようになったから俺がいなくてももう大丈夫そうだ」
「そうなんだ。私も久しぶりに会いたいな」
後ろのリボンにそっと触れるエリーナ。これは1年前レインスノートに向かうときカイト達から贈られたものでお守りとしていつも身に付けていた。
二人が昔話をしながら歩いていると男子寮に着いた時には日が沈み、空には星が広がっていた。
「そういえば、渡す物があったな」
カイトは鞄の中から一つにまとめられた封筒を渡す。
「シスター達に渡すようにに頼まれてたんだ。時間があるときに読んでやってくれ」
「ありがとう、部屋に戻ったら読ませてもらうわ」
「それじゃあ、また明日」
「待ってカイト」
じっとカイトの顔を見つめるエリーナ、その目はどこか切なげにしている。
「エリーナ?」
数秒間の沈黙の後、ようやく彼女は口を開いた。
「カイトは上からの命令でここにきたのよね?」
「・・・ああ」
「なら帝国はこの国を狙ってるんでしょ。目的は何なの?」
「悪いけどそれは言えない、まだ確信が持てる状況じゃないんだ」
「向こうが動き出してからじゃ遅いわ、私だってこのあなたと肩を並べて戦えるように頑張ってきた。それなのにあなたは一人で抱え込むの?」
「確かにお前が努力してきたのはミラから聞いた。だけどあの力はまだ制御できてないんだろ」
「それは・・・」
言い返そうとしたが彼の言っていることは事実であり何も言えなかった。
「今は自分の成すべきことをしろ。俺たちの目的を達するにはお前の力が必要だ」
「・・・なら約束して、絶対に無茶しないって」
「わかってる、何かあったら必ず知らせるから。それまでに使いこなせるようにしておけよ」
そう言いながら彼女の絹のようにきめ細かい髪をそっと撫でる。
恥ずかしそうにしながらも、エリーナはカイトに頼られているのが嬉しくて受け入れていた。
カイト達が男子寮に向かっている頃、アレイシアは報告書を読み上げていた。
「やはり狂化の腕輪を所持していたか」
「はい、ですが信じられませんあれだけの人数をたった一人で倒してしまうなんて」
報告書を持ってきた男性が答える。彼はこの街の警備隊で盗賊を討伐したと連絡を受け調査に出ていた。
「確かに普通ならありえない話だがあの小僧なら納得がいく。すまないがまた明日来てもらえるか、あいつにもこの事件について協力してもらう」
「しかし一般人を巻き込むわけには。それに、この件は最高機密であり我々の中でも上層部と一部の者しか知らされておりません」
「安心しろ責任は私が取る、それに戦力は一人でも多いほうがいいだろう。秘密裏に動くなら奴はかなりの戦力になる」
そう言いながらアレイシアはレインスノートの街を見下ろす。
後にこれがレインスノート魔道学院を揺るがす大事件になるとは誰も知る由もなかった。