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第七話 幸せ

「あ、あの、そんな事いうと、私、本気にしますよ?」

照れながらイセリが何とかそう言うと、オーギュット様がクスリと笑った。

「・・・本気にしてくれて、構わないよ」

静かな穏やかな声だった。

じっと嬉しそうにイセリを見守っていた。


「で、でも、あの、婚約者の、あのお姫様は・・・」

どうするの、と、イセリは聞きたくなった。

オーギュット様は顔をしかめた。


辛そうにするので、イセリは慌てて謝った。

「ご、ごめんなさい。気になっちゃったの。でも、良いの、ごめんなさい」

困ったように助かったように、王子様はイセリを見つめていた。


改めて、少なくとも友達への嫌がらせについて止めてもらえないだろうか、とイセリが訴えた。

「イセリは、強くて優しい人だね」

とオーギュット様はイセリを眩しそうに見て褒めてくれて、イセリは照れた。

確かに、嫌がらせによく耐えていると自分で思う。


オーギュット様はポツリ、と懺悔するように言った。

「・・・イセリと私が、仲良くするのが気に入らないんだろう。身分が違うから」


身分について言われてはイセリはどうしようもない。生まれついて決まっている。自分が選べるものではない。

でも、不公平だ、とイセリは思った。

拗ねるように、

「私も貴族に生まれたかった」

と呟くと、オーギュット様がふっと笑う。

それから眩しそうにイセリを見た。

「私は、あなたは、貴族では無いから、こんなに強く明るい人なのだと思う。窮屈な規則に縛られない人だから」

褒めてもらっているのだ。

イセリはくすぐったくなって、恥ずかしくなった。嬉しい。


「・・・嫌がらせの事は、私から皆に注意しておく。人に迷惑をかけるなんて最低だ」

王子様が静かに言った。

イセリは頷いた。

「あなたには、笑顔が似合うよ。イセリ」

そんな風に言われて、イセリは舞い上がりそうになる。

まるで夢を見ているみたい。でも、これが現実なのだ。なんて素敵なのだろう。


***


あの日以来、オーギュットが、イセリを見つけると積極的に傍に来てくれるようになった。

「大丈夫?」

「ありがとうございます」

はにかんでしまうのを、オーギュットも嬉しそうに見てくる。

体育用の運動靴に、泥が塗りたくられているのは、言わないでおこう。せっかく笑ってくれているのだから。


実は、嫌がらせは全く止まっていない。

とはいえ、平民の友達への嫌がらせはましになったみたいで、それは良かったと思う。

自分のせいで、アンヌちゃんたちが辛い思いをしているのは嫌だ。

貴族も貴族様だ。平民ってだけで、まとめて嫌がらせの対象にしてしまうのだ。悔しい。


二人でいるときは、楽しくしていたい。

オーギュットが傍に来てイセリのために笑ってくれる。それだけで日々は輝く。

そんな中で、イセリは、最近、オーギュットの傍にいつもいたあのお姫様の姿を全く見ていない事に気が付いた。

どうしたのだろう。

諦めた?

オーギュットの心が離れたと知って、身を引いた?

じゃあ、婚約者ではなくなっているとか?

確認したいけれど、あの人の話をすると、オーギュットが機嫌を損ねてしまう。


***


「ねぇ、ねぇねぇ、エネリくん」

「・・・あ」

イセリは図書館で、平民仲間のエネリくんを見つけた。

そっと声をかけると、エネリくんは軽く驚き、戸惑ったようだ。


「久しぶりだね」

「うん。話するの、久しぶりだね・・・」

エネリくんは、少し話をするのを躊躇っているような気がした。

イセリと話すと、いじめられてしまうからだろうか。


「ごめんね、捕まえちゃって。あの、人に聞いてみたいことがあったの・・・」

「あ、ううん、良いんだ。何?」


「えっと・・・あの、オーギュット様の婚約者のお姫様、最近どうしてるのかなぁ、って気になって」

「・・・気になってるんだ・・・」

ポツリ、とエネリくんは呟いた。


エネリくんは、不思議と、イセリを咎めるような目をした。

「ユフィエル様さ、色々調子が悪くなってて、家で静養しててあまり学校に来てないよ」

「え、そう。・・・よく知ってるね、エネリくん」

「・・・有名な話題だよ。・・・イセリちゃん、あのさ」

エネリくんの表情が硬い。

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