表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/57

第六話 秘密の会話

廊下で並んで歩きながら、二人にしか聞こえないよう気を付けた音量で、話をする。

「ああ、でも」

と、呼び捨てを許可してくれた王子様が悲しそうにした。

「私はこれでも、国の王子だから、人前で呼び捨てはさすがに問題だと思う。だから、できれば呼ぶのは二人の時だけにしてもらえるかな」

イセリはパァっと赤面した。二人で話をすることを、想定してくれている返事だと思ったからだ。

「はい!」


「私は何と呼べば良い?」

からかうように尋ねてくる。

「あ、あの、じゃあ、私も呼び捨てで! イセリ、で!」

「うん。そうしよう」

王子様が、満足そうに笑った。

「それで、相談があるんだろう? 人に聞かれたくない話かな」

「・・・はい」

「だと思った。この部屋を使おう。王族専用の部屋だから、誰も勝手に入ってこない。どうぞ」

王子様が、立派な扉の前にイセリを案内し、傍にある台座の石のあたりで操作をした。

カチャン、と扉のカギが開いた音がした。


***


通された部屋は、今は王子様専用の部屋らしい。

模様が細かくフワフワの、イセリにも絶対これ高い、と分かるほどの上質なソファーに案内される。

テーブルの上には、フルーツが盛られているカゴがある。

「どうぞ」とそのフルーツを勧めながら、イセリの正面に王子様が座る。


「それで? 授業の事もあるから、あまり長くは聞けないけど。何か私に力になれることだろうか」

真剣な顔で、王子様が尋ねてくれた。


イセリは、勇気を出した。話した。

貴族から、嫌がらせを受けている事。それは平民の友達にまで及んでいる事。

実は悔しかったらしくて、オーギュット様を前に話しているうちに、イセリは涙目になっていた。

ブルブルと身体が怒りで震えそうになるのを、両手をギュっと握って抑えようとする。


その手を、オーギュット様が包んだ。

イセリは驚いて目を上げた。

正面に座っていた王子様は、イセリの様子に、席を立って傍に来てくれて、あろうことかイセリの手を包んでくれているのだ。


「それは・・・辛い思いを。・・・申し訳ない」

オーギュット様の方が、酷く辛そうな顔をしていた。

「あなたが、そこまで、辛い目にあっているなんて・・・私が原因だと、思う」


え・・・。

イセリはじっと王子様の様子を見ていた。

身体の震えは、収まっていた。


「・・・私が原因の嫌がらせだったら、あなたは私を嫌うだろうか。イセリ」

少し、切なくなるような瞳で王子様が言った。

イセリの頬に熱が集まった。

ひょっとして。ひょっとして。王子様も、私をちょっと、良いと思ってくれていたりする?

だが、瞬間、あの冷たい令嬢の事が頭に浮かんで、イセリはそれは振り払うように頭を横に振る。

ふっと、王子様が安心したように息を吐くので、イセリは慌てた。

「あ、待ってください、今のは、違って・・・」

「違う? では・・・」

王子様が、目を見開いてから、キュっと悔しそうに口を結ぶ。

あれ、やはり勘違いでは無くて、私は好かれているかも、しれない、かも。イセリはドキドキした。


「あの、あの、お姫様、婚約者、なんですよね」

突拍子もない質問に、オーギュット様は驚き、イセリをじっと見た。

「そうだね。・・・気になるのかな?」

「えっ、あの・・・はい」

正直にイセリは頷いていた。


オーギュット様は探るような目をした。

「それは、どういう意味で、気になるのかな。・・・嫌がらせの事で?」

「あ、いえ、あ、それも確かにあるんですけど」

と言ってから、さすがにイセリはまずい、と口を閉じた。

確証もないのに、王子様相手に今の発言は良くない。

あのお姫様は『オーギュット様にこれ以上つきまとったら考えがある』なんてケンカを売ってきた人だ。でも、婚約者。

間違っていたら自滅する。


口を閉じたイセリに、王子様は追及を諦めなかった。

「・・・そう。では、何を気にしているのかな。イセリ。教えてほしい」

じっと真剣に自分を見つめている。イセリの胸は高鳴った。格好良すぎる。

「あ。あの。あの」

聞きたい。でもさすがに勇気がいる。

婚約者なんですよね、最近仲が悪いのですか。どうなのですか。私にチャンスはありますか、なんて。


ゴクリ、とイセリは唾を飲みこんで、このように言った。

「ああぁあの、オーギュット、は、あの人を、好きなんですか?」

オーギュット様は少しだけ驚き、すぐに嬉しそうに笑った。

イセリの真っ赤な頬を人差し指で撫でて、王子様はこう言った。

「・・・昔はね。今も婚約者ではあるけれど。・・・きみの方が可愛いね、イセリ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ