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王妃になるはずだった  作者: 天川ひつじ
ケルネ=オーディオ
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第14話 情報と、訪問先

職場は、貴族の上司と二人だけだ。

雑務も多いけれど、仕事につくために特化した能力は本当に役立っているようで、ケルネを大変重宝してもらっている。

「必死さが違う。良いね」

と上司は褒めてくれる。


一方で、イセリちゃんの情報は、全くなかった。


とはいえ、二人だけの職場でケルネのやる気を引き出そうと考えた上司は、

「これしてくれたら、休憩時間に例のお姉さんの調べてもいいから」

と許可を出し始めたので、お言葉に甘えてご褒美としてイセリちゃんの事を調べたりもしたのだが、やはり何も掴めなかった。


ある町で名前を変えた。その先が分からない。何と言う名前に変えたのかも、掴めない。

完全におかしい。

きっと、情報は隠されているのだと思う。

今のケルネには教えてもらえないのだ。そう分かっただけだ。


でも、だったら・・・生きてるんだよね、と、ケルネは思う。

死んでいたら、隠されていないのではと思うようになったから。

「死んでしまったんだ」と、教えればいいだけじゃないかと、思うから。


いつか、ケルネに情報がもたらされる日は、来るのだろうか。


未だにイセリちゃんを慕っているから教えてもらえないのかもしれない、と思う。

ただ、それは、どうしても仕方が無い。

心配で、気になってしまうのだから。


***


ところで、マルクは王宮の表舞台の方の職に就いた。

だから、学校で仲良くなった皆さまともお会いする機会もあるそうだ。

先日会った時には、「王妃ユフィエル様をものすごく近くで見たよー!」と昂る感情のまま教えてくれた。


マルクは、姉イセリの年代の特定の人に異様に関心を持っている。それは未だに治らない。

ちなみにマルクのアイドル的存在は、王妃ユフィエル様に、武官アレス様。宰相パスゼナ様。学校のナトゥラ先生。クゥエル家にお勤めの朗読係のエネリ様。

後は、地位に変動が起きたとかで上の地位におられないらしく、なかなかお目にかかれないとの事だ。次姉イセリの時代に学校にいた人が多い様子だが、当時すでに妻帯者だった人もいてマルクの言っている事は時折謎だ。


そんな夢見るマルクは、結婚した。

表舞台の方に勤務の平民の人とだ。もともとちょっといいなと思っていたらしい。

マルクのアイドル的存在の方々とは存在感が全く違う。

きっと夢と現実をちゃんと切り分けているんだろうなぁと、初めて紹介された時ケルネはしみじみとしたものだ。


一方、ケルネは、

「この有能さを是非我が一族に!」

と代々精査職についている上司が手を回し、ご親族の方と二人、お見合いをした。


ただし、ケルネは全くその気になれなかった。

幼少時から次姉イセリとオーギュット様の影響を受けたし、恋なんて正直どうでも良かったからだ。

それにケルネは本当に地味だった。真面目に仕事しか考えてこなかったから、面白味だってないだろう。身体だって細くて貧弱だ。


ケルネも乗り気になれなかったが、上司に手を回されて見合いさせられたご親族の方もケルネに全く乗り気では無かった。

ケルネの方から

「どうぞお気になさらずお断りになってください」

と伝えると、最後のためらいも失せた彼らは、翌日にはさっぱりお断りを伝えてきて上司をガッカリさせていた。


仕方ないと思うのだ。

これでケルネが乗り気で少しでも可愛さを持っていたらちょっとは違うかもしれないが、そんなものを持ち合わせていない自覚はケルネに十分あった。

そもそも、恋愛にやる気が起きない。


そんなケルネは、しかし、王宮勤めの帰り道、数日おきに寄ってコロッケだのお惣菜を買うお肉屋さんの次男アストラと「お見合いしたんだけど~」という会話までするような間柄になっていた。

なお、ケルネの王宮勤めの結果、王都でのオーディオ家の地位は回復の一途を辿った。ケルネが王宮に認められた事で『イセリはイセリ』『家族は家族』という認識が定着したのだ。姉ウイネに至っては結果的に貴族に嫁いでさえいる。だから周囲との関係も改善したのだ。


そんな改善された、いわゆる『普通が幸せだと感じる日常』で、調子の良い会話の結果、ケルネはお肉屋さんの次男アストラと結婚する事になった。

気が合ったのと、軽い社交辞令のようなプロポーズが本気で嬉しかったのである。

恋なんて興味ないと思っていたのに驚きであった。


今、ケルネは、王都の肉屋レイト家の嫁、ケルネ=レイトとして、毎日王都に出勤している。

男の子も生まれている。


***


「ケルネ=レイト」

「はい」


顔を上げると、上司ヒューエン様が外出用に上着を着ていた。


「今日がきみの最後の勤務日だが、一仕事ある。外出先での人物精査だ。来い」

「はい」


ケルネの義理の母が、腰を痛めた。孫の世話も負担だったようだ。

家族の求めがあり、ケルネは今日で王宮務めの精査職を退任する。


・・・あれから15年。未だに次姉イセリの行方は知れない。

けれど、15年。

オーディオ家の地位も回復した。

ケルネにも新しい家族が出来た。

もう、これ以上は、潮時なのだろうとケルネは思う。


あまりの不人気職のため、長期的な後任が不在のままの退職なのでヒューエン様は嘆き悲しんでおられるが、きっと親族のどなたかを就職させられることだろう。いつかヒューエン様を継ぐ人を育てる必要もあるのだから。


そのケルネの退職を全力で惜しんでくださるヒューエン様と、馬車に乗る。

行き先は告げてもらえない。

精査するべき人物は誰だろう。上司とケルネ二人を出動させるなら、少し重要な人物なのかもしれないな、などとケルネは思う。


馬車が留まる。降りる前にヒューエン様が静かに告げた。

「一切、他言無用だぞ。・・・お相手は、オーギュット様のご結婚相手だ」


え。

驚いて動きを一瞬止めたケルネに、ヒューエン様は言った。

「きみはオーギュット様との関係者でもある。未だにきみのもう一人の姉を探すほどのな。・・・これは私からの退職祝いだ。発言をいくつか、見逃してやろう。だからもし聞きたいことがあれば、個人的な質問を彼女にすることを許可する」


驚きながら、コクリと頷き、ケルネは

「はい」

と答えた。


先に馬車から降りたヒューエン様が、ケルネのために差し出す手を取りケルネも降りる。


王都の閑静な一角。平民には無い広大な敷地。

臣下に降格されたオーギュット様の、お住まいの屋敷。

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