表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/57

第三十二話 便り

イセリが手紙を出してから3か月ほど経った。

返事は来ない。待っている間にさらに2通出した。でも来ない。

オーギュットはどうしているのだろう。


まだイセリはあまり外に出ない。

前に出た時、町の人にケンカを吹っかけられて、話をしているうちに大勢に囲まれて怖い思いをした事があった。大通りで、騒ぎを聞きつけたらしい父親と兄が駆け付けて、皆に謝りながら必死でイセリを助けてくれた。

イセリは怖くて泣いて、家族に謝った。

家族は怒って泣いて、それでもイセリを守ってくれた。

やっぱり、家族は味方なのだ。

迷惑をかけていることをイセリは深く実感した。


***


「ねぇ、私が悪かったんだね。・・・悪かったんだって、思うよ」

イセリは、妹を抱っこしながら、妹に聞いて貰う。

「イセリちゃ、悪かった?」

妹のケルネが尋ねる。


イセリは妹のケルネにすり寄る。

「うん。そうだね」

「よしよし、イセリちゃ、よしよし」


「ありがとう、ケルネ」

「ケルネもよしよし、して」


「うん」

イセリに撫でてもらって嬉しそうにする幼い妹に微笑みながら、イセリは思う。


私が、悪かったんだ。

でも、まだ、悪かったんだって事しか、よく分からない。

好きになった人に近づいて、好きになってもらって。それが悪かったという事が、どうしても分からない。


嫌がらせは、ユフィエル様は濡れ衣だったっていうのは、理解した。皆がそう言うのだから、もうそうなのだろう。ごめんなさい。

それは、謝った方が良いと、分かってる。でも、どうしても割り切れない。

謝る機会などないはずだけれど、機会があっても、どうしても心からは謝れないだろうとイセリは思う。


最近、宰相パスゼナの言葉を思い返して考えようとする。

『自分がユフィエル様の立場だったと想像して。お姫様で、オーギュットと婚約していて、両想いで。でも、身分が下の人に、王子様を取られてしまった』


イセリは、それでもやっぱり、仕方ないじゃないと、思ってしまう。


身分の下の人がオーギュットの前に現れて、オーギュットを奪おうとしたら。

イセリは戦う。

奪わせない。

それで、イセリが負けてしまって、オーギュットが新しい人にいってしまったら。


それは、もうどうしようも無い事だと。思うのだ。


***


ある日、父が、深刻な真面目な面持ちでイセリに告げた。

「いよいよ厳しくなる、イセリ、お前は王都を離れた方が良い」

「えっ」

オーギュットを想い続けるイセリは、この言葉に酷く驚いた。


「店は、根性で、やれるところまでやる。でも、イセリ、お前は王都から出ろ。お爺さんとお婆さんのところに行け。田舎だから、そこならまだ大丈夫だろう」

その言葉に、イセリは身が震えた。

イセリに意地悪しているのではない、イセリを案じての話だと、分かったけれど。

でも。


「私、オーギュット、さま、と、約束した・・・待ってなきゃ・・・」

イセリの震える言葉に、父は眉根を寄せた。

「でも、お前が大怪我したり・・・下手すれば死んだりすれば・・・意味が無い」


「でも」

「オーギュット様が来てくだされば、お前にも伝えるし、オーギュット様にもお伝えできる」

「イセリ。本当に、オーギュット様が迎えに来てくださると、思っているの?」

そう言ったのは、母だった。


「え?」

母は言った。

「・・・ねぇ、考えてみなさい。オーギュット様には、多くの人たちがいて、オーギュット様の事を考えて、助言なさるわ。オーギュット様が聡明なお方なら、そのお言葉をきちんと聞くと思うの。周りの人たちは、皆、イセリは止めなさいというに決まっているのよ」

どこかわずかに、咎めるような気配が混じっていた。


「え・・・」

母の言葉の厳しさに、イセリは言葉を失った。

それから、一拍置いて、悔しさが沸き上がってきた。

「でもっ! オーギュットが、オーギュットから、待っていてって、言ったの!」


「お前は少し黙ってなさい」

母親が気色ばむのを父親が抑えた。

「でもあなた・・・!」

「良いから。イセリ、とにかく、オーギュット様が迎えに来てくださろうが、止められようが、どちらにしてもだ。王都にいるのは危険すぎる。お前は、次期国王妃に、ケンカを吹っかけているんだぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ