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第三話 追いかける

それから、イセリは一生懸命王子様を追いかけた。出現しそうなところをウロウロして、目に留めてもらうのだ。

ちなみに、食堂の使い方は、平民の自分たちには確かに複雑すぎた。教師が懇切丁寧に教えてくれたから、恥をかかない程度に利用できるようになった。平民には、料理が時間を置いて一皿ずつ出てくるのも驚いたし、飲み物がどうとか何をつけるとか、選ぶものが本当に多かったのも大変だったのだ。


さて、オーギュット様に執着するイセリを見て、アンヌちゃんは「憧れるのは分かるけど、すごい行動力」と目を丸くした。

エネリくんはどこか心配そうに、「ねぇ、婚約者のいる人だよ? どうして?」と聞いてきた。

イセリは「憧れよ、悪い?」と答える。


実際のところ、本当にそうだった。

今は、接点が持てるのが嬉しくてたまらないだけだ。普通なら出会いも出来ない、雲の上の人だ。

それが声をかけて、心も砕いて親切にしてくれる。

どうせこの学校に通っている間だけの縁。だったら、今は思うままにいきたい。

卒業後も仲良くできたらなぁ、なんて打算は確かにあるけれど、付き合うとか恋人に、なんていうのは夢幻だとは分かっている。王子様には、冷たくも美しいお姫様がいるのだから。

とはいえ、やっぱり面白くない、とは思っているのだけど。

ダメだと知りつつも、すでに王子様にイセリは恋をしている。


***


「あの。イセリ=オーディオさん。お話が、ありますの」

少しイライラしている時に、声をかけて来たのは、王子様の傍にいつもいるお姫様だ。

破られた教科書を見ていたイセリは、キッとその声に振り返った。

お姫様は驚いた顔をしたが、すぐに顔を引き締めた。とても厳しい表情だ。


一体、何。とイセリは思う。

この嫌がらせについて、何か言ってくるつもりなの。


じっと見ていると、相手は静かに口を開いた。

「・・・あの。私は、オーギュット様の婚約者です」

「はい。知ってます」

相手はイセリの目をじっと見ていた。とても冷ややかな表情だった。


「・・・あなたは、オーギュット様に、とてもご執着されているように思えます・・・。間に割り込むようなはしたない真似は、お止めになってください。家が決めた婚約とはいえ、私もオーギュット様も互いを想いあっています。邪魔をしないでください。・・・正直、行動が目に余ります」

イセリはその発言を嫌悪した。

想いあっているなら、邪魔されたって問題ないはずじゃないの。

私は、今の思い出を作ろうとしているだけ。どうせ実らない。夢を見てるだけ。

行動が目に余るなんて、一体何様だろう。そっか、貴族様だ。

「私は自分の気持ちに素直なだけですし、お話したいだけです。憧れを持つのが悪い事なんですか? オーギュット様は優しいから、あなたは勘違いして嫉妬してるだけだと思います」

イセリがはっきりそう言うと、ご令嬢の頬に赤みが差した。図星だったのだろう。


「お話は、それだけでしょうか?」

イセリはイライラを募らせた。そんな話をしにわざわざ来るなんて、お姫様は自分の事しか頭にないのだ。

目の前で、平民の教科書が酷く破られているのを見ても、同情とか心配とかなにも沸いてこないらしい。普通の人との感覚とは違うのだ。


イセリの挑発的な発言に、ご令嬢は凍ったような表情でイセリを見つめた。

「・・・これ以上オーギュット様に付きまとわれるようでしたら、私にも考えがあります。ここは貴族の学校です。どうか節度を守ってお過ごしください」

イセリはため息をついてみせた。

お姫様とは話が通じないように思う。価値観が違うのだ。


「お時間は良いのですか?」

イセリが言ってやると、ご令嬢は少し悔しそうな顔をした。一瞬の事だったが。

ご令嬢は、美しい礼をしてみせて、

「失礼いたします」と去って行った。

あの完璧なお姫様のおじきだって、イセリへの当てつけに違いない。

いや、今は自分の気持ちがささくれ立っている自覚はあるが。


「もう!」

お姫様がいなくなってから、イセリは一人で怒った。


もう! この教科書、一体誰の仕業なの!? 陰険! だから貴族って!

ご令嬢の冷たい顔と言葉に、イセリはふと思った。

まさかあの人が?


いやいや、さすがに無いでしょう。こんなセコイ真似、オーギュット様のお姫様がするはずない。

それでも、密かにするような人だったりして。まぁまさかね。別の誰かだと思うけど。

「あーぁ、最悪」

イセリは呟いて肩を落とした。

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