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第二十九話 詰め寄る

イセリは泣いて落ち込んで、とても人前に出れなかった。


4日が過ぎた時に、父親がイセリの前にやってきて、尋ねた。

「イセリ。お前、オーギュット様とユフィエル=キキリュク様の婚約解消の原因になったって、本当か」

「・・・」

イセリは、無言で頷いて肯定した。

「バ・・・なぜそんな事したんだ!」

父が急に声を荒げるのを、傍にいたらしい母が「お父さん!」と言って制する。


イセリが顔を上げて様子を見ると、父が顔を真っ赤にしてイセリを大きな目で凝視している。母親が片腕を掴むように父を止めている。その向こう、部屋の入り口付近で、兄と姉と弟が硬い表情で自分たちの様子を見つめていた。


「イセリ! 自分が何やったか分かってるのか!」

「お父さん、落ち着いて、お父さん!」

「甘やかすな! 一家が暮らしていけるかの大問題だ! イセリ! きちんと説明しろ!」


父親の剣幕に驚いて、イセリは涙も止まって茫然とした。

泣いて沈んでいるばかりだったイセリがある意味父親に反応を示したので、父親はズィとイセリの前に来て、しっかりと目を合わせてきた。

「何をしたか、正直に話すんだ。でないと、どう対応していいのか分からない。下手したら家族が路頭に迷うぞ。イセリ、話すんだ」


「わ、わたし、学校で」

「学校に行った。貴族の学校だ。第二王子オーギュット様も通っておられる」

父親が早口で言ってくる。イセリの言葉を待っていられない様子だった。

イセリは勢いに押されるように、頷いた。


「お前、第二王子オーギュット様と、ユフィエル=キキリュク様の仲を邪魔したのか」

「え・・・。邪魔だなんて・・・」

「邪魔したのか、してないのか、どっちだ」

イセリが答えないで茫然と父親を見ていると、奥からズカズカと部屋に入ってきたのは、兄だった。続いて姉も入ってきた。弟も。その後ろから、妹も。


「あんた、オーギュット様にアプローチかけたんでしょ!」

そう言ったのは姉だった。

「え・・・う、うん」

「嘘どうしようお母さん!!」

「こっの、馬鹿!」

「邪魔したんだ!」

家族が口々に騒ぎ出した。


「うるさい、落ち着け、まだ話終わってない!」

黙らせたのは兄だった。

「イセリ! まだ町では噂になってないけど、貴族の知り合いの人に教えてもらった。『お宅の妹さん酷い馬鹿な真似をしたね』って。オーギュット様に近づいて、学校で迷惑行為さんざんして、お前嫌がらせとか散々受けてたらしいけど、それ犯人誤解して、キキリュク家のご令嬢に恥をかかせたって本当か!」

「イセリ、仲を裂いた上、その恥、お前の勘違いで、ユフィエル=キキリュク様は濡れ衣だったって言ってるんだ。どうなんだ!」

「え・・・」


イセリはやはり茫然としていた。

家族がイセリを訴えるかのように口々に話す。


姉が父と兄の横から割り込むようにして、イセリの腕をガシっと掴んだ。

「あんた、ちゃんと謝ってきたんでしょうね!?」

「え?」

「超迷惑かけて、まさか、そのままって、そんなこと、しないわよね!?」


イセリが茫然としたまま、頷きもしない様子に、家族は次第に恐れおののきだした。

兄が、やはり顔色を失って当初の勢いを失った父に、

「どうしよう、謝罪をまずさせないと」

とよろめくように相談する。

父は、

「無理だ。謝罪なんてそんなさせてもらえるはずが無い、そもそも住んでる世界が違う人たちだ」

そう言いながら、身体が細かく震えていた。

「なんてことだ。王家とキキリュク家の婚約に割り込んで・・・濡れ衣で恥までかかせて・・・。ユフィエル=キキリュク様は一時声まで出せなくなったほどだと・・・」


弟が、

「でも、イセリお姉ちゃん、罰則ないっていう話なんでしょう? 学校は止めさせられちゃったけど」

と首を傾げる。


「・・・クルト、あんた、その話まさか友達に言いふらしてないでしょうね」

「え。うん・・・ジョナくんとウィキくんにだけしか言ってないよ?」

「この馬鹿クルト!」

「止めなさいウイネ! 止めなさい!」

「だってお母さん、この馬鹿が」

「止めなさい、どうせすぐ広まってしまう事なのよ!」

母親がどこかヒステリックに叫んだ。

「イセリ! イセリが悪いの、ちゃんと分かってる!? 何を茫然としているの! とにかく今から謝りに行きましょう!」

「お母さん、落ち着いて」

「何を言うの、なんて酷いことをして・・・!」

母がボロボロと泣きだした。


「私が、悪いの・・・?」

イセリが、茫然と、呟いた。

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