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第二十七話 なぜ

「なぜ、わが国の第二王子であるオーギュット様に、婚約者もいると知っていながら近づいた?」


イセリは、少しだけ迷ったが、正直に話すことにした。それは、平民仲間のアンヌちゃんやエネリくんにも言ってきた言葉。

「初めは、憧れで・・・。あの、私は無理だと思ったけれど、それでも、やっぱり近づきたくて・・・。学校が終わってしまったら、話もできなくなってしまうから・・・」

話しているうちに、イセリは、宰相パスゼナの様子が、表情が、あまりにも変わらないので不安になってきた。だから、最後まで付け足した。

「でもオーギュットも、私の方を向いてくれたから、仲良くなって・・・仲良くなりました」


宰相パスゼナが、目を細めた。ソファーから身をおこす。

「イセリ=オーディオ。オーギュット様の名を、敬え」


「・・・えっ、あ・・・」

相手の怒気を感じて、イセリは少しだけ血の気が引いた。慌てて事情を説明した。

「あの、オーギュット、さま、が、皆の前でも敬称を抜いても良いって言ってくれて」

「私たちは許可した覚えはない。オーギュット様が許しても、私たちが許していない」

「え、そんな・・・! だって、本人が・・・!」

言いかけて、イセリは、言葉を途中で飲み込んだ。

宰相パスゼナがイセリを射抜く様に見ている。怖い。


「・・・これは思った以上だな」

まるで歯ぎしりしそうにして、宰相パスゼナが顔をしかめた。

ため息を零す。頭が痛そうだった。


宰相パスゼナは言った。

「仮定の話だ。想像しろ。あるところに貴族が・・・いや、お前が貴族で、ご令嬢だ。良いか」

コクリ、とイセリはまた頷いた。呼び名が『お前』になったことが気になったが、苦言を呈する隙が無い。


「仮の貴族令嬢のお前には、あろうことか、王子と言う婚約者がいた」

え。それは嬉しい設定だ、と、イセリはコクリコクリと頷いた。


「お前とその王子は両想い。将来を約束し、貴族と王家の結婚は広く周囲に認められている。想像しているか」

「はい」

言葉でも返事をして、イセリはコクリと頷いた。

それにしても、素敵なお話だ。


宰相パスゼナは話を続ける。なぜだかどこか投げやりな雰囲気で。

「両想いのお前たちの前に、ある日、どこの馬の骨とも・・・失礼、まぁそんな女が現れた。その女は、あろうことか、婚約しているというのにベタベタと相手に接触した。さすがに腹が立ち、苦言を呈しに行くが、相手は馬鹿で全く聞かない。そればかりか、自分の行動を正当化する。王子が甘やかされて育ったようで、そんな女に新鮮味を感じたのかフラフラとそっちに行ってしまった。どう思う?」

「え?」


突然の質問で、イセリは思わず問い返してしまった。

「お前と婚約し、将来を約束しあって互いに思いあっていた王子様が、フラフラとお前を捨てて、他の女に走った。お前はそれをどう思う」

「え・・・と」

さすがに、イセリにも分かる。自分とオーギュットの事を、別の人の話として聞かせているだけだ。

「あの、でも、走ってしまったら、仕方が無く、ないです、か・・・?」

宰相パスゼナが目を見開いた。信じられないように。

「なんだと」


宰相パスゼナは眉をしかめ、苛ついた。

「・・・ならば現実に話を戻そう。イセリ=オーディオ。お前は、今、第二王子オーギュット様と仲が良い。けれど」

まるでイセリを睨むように見た。

「第二王子オーギュット様の心は、お前からはすぐに離れる。なぜなら、私たちがそのように導くからだ。しかるべきご令嬢をお傍に近づける。オーギュット様のお気に召す方が現れるまで、様々に紹介をする。だから、必ずその人は現れる。断言できる」

宰相パスゼナが、イセリに向かって微笑んだ。


イセリの胸のうちで、カァっと怒りが沸き上がった。

「そんな事、ありません!」

宰相パスゼナが面白そうに目を細めてみせた。


「勝手な事、言わないでください!」

「先ほどは『仕方が無い』と言っておきながら怒るのか?」

「え・・・」

イセリは勢いを殺された。


宰相パスゼナが、イセリを観察するような鋭い目で見ている。

「お前は、オーギュット様とは決して結ばれない。オーギュット様は必ず別の方と添い遂げられる」

「酷い・・・!」

「何が酷い。当然だろう。それより私は非常に疑問なのだが、イセリ=オーディオ。お前は何を『酷い』と言っているのか。どの部分に対して? ユフィエル=キキリュク様に何をした? その行いは『酷い』ものでは無かったのか? オーギュット様の行動も軽率すぎた。だが、お前はなぜ止まらなかった。平民間ならしばしばあるのかもしれないし、仕方ないで済ますのかもしれない。だが、お前が割り込んだのはそんな生易しい関係ではない。他国では過去に関係者間で殺し合いが起こったほどの事だ」

「え?」

そんな事を急にたくさん言われても、困る。


「お前は、平民の身分でありながら、国を支える体制の一つであった婚約関係に支障をきたした。キキリュク家に正面切ってケンカを吹っかけた。一人のご令嬢を精神的に追い詰めた。公の場で見当違いの恥をかかせた。その他にも」

宰相パスゼナが一度言葉を区切り、そして告げた。

「己の行動で、他の平民の奨学生たちに多大な心労と被害をもたらした。どう考えている」

宰相パスゼナの威圧に飲み込まれて、イセリは言葉が出てこない。


「あまりにも子どもすぎる。お前に関しては、身分などの問題では無い。他人に対してあまりにも鈍感だ。平民のままが相応しい・・・もっとも、他の平民がお前と一緒である事に憤慨するほどだろう」

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