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第二十六話 質問

「まず。そうだな。イセリ=オーディオ嬢。あなたは、わが国の第二王子オーギュット様と、急接近した。親しくなった」

「は、はい」

どこか面倒くさそうな様子に、イセリは内心慌てて返事をする。


「尋ねていいだろうか。あなたは、オーギュット様に、婚約者がいることを知らなかったのか?」

「えっ、あ、あの」

イセリは動揺したが、正直に告白した。

「知っていました」

「知っていた。だろうね。普通は知っている。安心したよ。周知が足りていないのかとわずかながらに心配したものでね」

「は、はぁ・・・」

宰相パスゼナがあまり表情を変えず、淡々と話してくる。


「では、次を尋ねよう。私はどうも平民の感覚が分からない。だから教えてもらえると有難い。平民は、婚約者がいる人に言い寄るのは普通なのか」

尋ねられて、イセリは瞬きをした。

宰相パスゼナの様子を見つめてみるが、向こうは本気で分からなくて尋ねているようだ。

「あの・・・。えっと、どうでしょうか。人によって違うと思います。貴族の人は、絶対に言い寄らないのですか?」

「ふむ・・・興味深いね。きみは言い寄るタイプだというわけか」

「えっと・・・。結果として、そうなってしまいました」

「なるほど」

「・・・」


宰相パスゼナが、思い出したように紅茶を飲むので、イセリもならって、カップに口をつけた。

居心地が悪い、と、イセリは思った。

この人は、味方では無かったのだろうか。

でも、オーギュットはこの人を信頼していた。頼ることができる人?


宰相パスゼナがカップを置いて、また話し出す。

「・・・きみは、学校で嫌がらせを受けた。交換が必要になった支給品の数も相当だ。これらは、きみが破損したわけでは無い。貴族がきみに仕掛けたものだ」

「・・・はい」

「そんな事になった原因は、分からなかったのだろうか」

「・・・いえ。私が、オーギュット様と仲良くなりすぎて、それで、嫉妬されました」

「・・・嫉妬」

宰相パスゼナが、言葉を確認するように復唱した。


「重ねて尋ねるが。・・・きみの家業は、質屋だ。評判は良い。どうやら、平民に限りなく近いところまで落ちた貴族が君の家を頼る事もあるらしい。・・・その時の、貴族または貴族の使いの者の様子は? きみに頭を下げたのだろうか」

「え?」

イセリは話の展開に少しついていけなくなった。どうして急に、家の話になったのだろう。


宰相パスゼナは、その様子にソファーに少しもたれて、長い足を組んだ。そして、イセリの返答を促した。

「思い出せない?」

「え、いえ・・・あの」

「質問を変えよう。貴族はきみのうちを利用したか。はい、いいえどちらだ」

「は、はい。あの、でも、秘密です」

宰相パスゼナが面白そうに目を細めた。

「なるほど? けれど調べはついている。これは確認だ。隠す必要はない」


「えっと・・・」

「没落していく貴族に、君の家は、分け隔てなく親切にするようだ。貴族だからと金額を変更する事はない。むしろ良心的な対応をする。・・・きみは店番をしていた。貴族たちは、きみにも、頭を下げた」

「あ・・・」

家族から、お客さんの事は外で話してはいけないと、それだけは厳しく言われていた。だから、イセリには、そんな話を誰かにした覚えはない。

けれど、宰相パスゼナの言う通りだった。


宰相パスゼナが目を細めた。

「きみはとても愛らしい。魅力的だ。声も女性らしい柔らかさを持っている」

「え、あの、はい・・・あの・・・」


宰相パスゼナがフっと笑顔をみせた。整った顔立ちが急に表情と雰囲気を変えたので、ドキっとしたぐらいだった。

「周りはきみに親切にしてくれた」

「え、あ、学校以外の人たちは」

それは事実だったので、コクリと頷いた。

皆、親切だ。困っていたら助けてくれる。


「そんなきみは、学校では嫌がらせを受けた」

宰相パスゼナが、じぃっとイセリを見る。

「それは警告だ。嫉妬も中にはあったかもしれないが。婚約者がいる状態の王子にまとわりついた。きみは貴族に殴り込みをかけたようなものだ。だから殴り返されたのだよ」

宰相パスゼナが眉をひそめた。

「・・・理解できないのか?」

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