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第二十四話 宰相パスゼナ

オーギュットが、顔を上げて宰相パスゼナ様を見ている。

「それとも、私が、今全て、この内容を読み上げて差し上げましょうか?」

「・・・・・・。いや、良い。・・・考えよう・・・」


宰相パスゼナが少しだけ表情を緩めた。

「信頼いただけて光栄です」


オーギュットの顔が、暗い。オーギュットは少し黙ってから、宰相パスゼナを咎めるように口を開いた。

「どうして、今なんだ」


「恐れながら、『今』初めて申し上げたわけではない。それに、私からではなく、周囲の者も、あなたに進言したはずです」

「・・・」


「謹慎処分ですが・・・改めて国王陛下から通知があるでしょう。ただし、先に申し上げておきましょう。期間や内容は国王陛下のご決定を待つことになりますが、外部との連絡は間違いなく遮断されます」


「え」

イセリは思わず声を上げた。

宰相パスゼナとオーギュットが、チラリとイセリを見た。

イセリは動揺して、尋ねた。

「それ、どういう事ですか・・・?」


「・・・会えないという事です。勿論、話もできませんよ。手紙のやり取りなども全て禁止でしょう」

宰相パスゼナが、イセリに言い聞かせるように告げる。

「えっ、そんな、どうして」

慌てるイセリの傍で、オーギュットも信じられないという顔をしていた。

宰相パスゼナが事実を告げた。

「それが謹慎です」


「・・・馬鹿な、どうして・・・」

オーギュットが呻いてから、ハッとしてイセリを見た。

「イセリ。待っていてくれるだろうか。謹慎が解けるのを」

「え・・・。う、うん!」

頷いたイセリに、オーギュットがほっとした。

「良かった。有難う。・・・パスゼナ。イセリへも、何かあるのか? 彼女はどうか許してもらえないか? きっと私が、悪かったんだ」

声は少しずつ小さくなり、そしてどこか悔しさをにじませた。


宰相パスゼナは目を細めて、手に持つ書類をペラリとめくった。下の方だ。

「イセリ=オーディオ嬢には、罰則などありません」

「それは・・・良かった」


「罰則が無い理由となりますから、今、事実をお伝えしておきましょう。スツェン家との養女縁組を進められていた件ですが、こちらは認められません。却下されました」

「え」

オーギュットも驚いたように声を出した。


「ご存じでしょう。貴族の家の存続に関わりがある事柄は国の重要事項です。最終決定権は、全て国王陛下にあります。とはいえ、父上を逆恨みされないように申し上げることにいたしますが、この件は、国王陛下に至る前に却下案件となります」

「どうしてですか」

イセリが尋ねた。思いがけず、必死の声が出た。


「さぁ。どうしてでしょう。私の知らぬことです」

宰相パスゼナは、じっとイセリを見て、目を細めた。観察されている。

イセリは緊張したが、恥じ入るところなどないはずだ。その目をイセリも見つめ返した。

宰相パスゼナは、ふっと交わしていた視線をずらして外し、また書類をパラリパラリと見やってから、オーギュットを向いた。

「少なくとも、私が知る現時点では、イセリ=オーディオ嬢は平民の身分ゆえに、罰則等は与えられません。言ってしまえば、罰金など平民に求めても大した額にもなりませんし、ならば働いてもらった方が良いのですからね」

罰則はないという話なのに、イセリは動揺した。

平民のまま働く未来を、示されたからだ。

でも、私は、オーギュットと結婚するのに・・・。


〝けれど、私たちは、オーギュットとあなたとの結婚は認めない”


国王陛下の発言がよみがえってきて、イセリはゾッとした。

待って。どういう事。

どうして。どういう事なの。


「では、オーギュット様。お部屋にお戻りください。陛下からご指示が下されるでしょう」

「待て。イセリはどうなる」

混乱するイセリを置いて、会話が進められている。


「私から、少しお話があります」

「それは、私が聞いてはいけないのか」


「オーギュット様はご自身で考えていただきたい内容の話になりますから、ご退出を」

オーギュットが言葉を失ったように宰相パスゼナを見つめ、それからイセリを不安そうに見た。

「イセリ。大丈夫か?」

「う、ううん」

イセリはブルリと身体を振るわせた。


「ね、ねぇ、オーギュット。さっき、国王陛下が、私とオーギュットの結婚は認めないって・・・! ど、どうしよう。どうして?」

不安がどっと押し寄せてきてきた。

オーギュットの顔も強張ったが、イセリを見つめてソファーから立ち上がったところを、宰相パスゼナに邪魔された。

「オーギュット様。止めなさい。見苦しい」

「なんだと・・・!」


「報告書を、やはり、読んで差し上げましょうか」

「何を・・・!」


「良いですか。オーギュット様。一つ教えてあげましょう。あなたは心底その子に惚れたのでしょう。それは認めてあげるとしましょう。けれど、あなたには、その子を守るだけの力が無かったのですよ。あなたの、力不足です」

「な・・・!」

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