第二十二話 分かってくれない
「彼女をこれ以上傷つけるな!」
オーギュットがとっさに前に出て、イセリを庇ってくれた。
嬉しくて少し安堵したが、同時に怖くなった。ユフィエルの姿勢があれだけ強いということは、周囲に味方が多いのに違いない。
ここには、貴族ばかりが集まっている。まだ平民のイセリの言葉を聞いてくれる人は、いてくれるだろうか。
第一王子ルドルフ様が怒っている。
「・・・オーギュット。それから、イセリ嬢。私は、あなたたちを許さない。よくも二人で、この場に現れたものだ」
「あ、あなたこそ! 王子様なら、暴力なんて!」
イセリは勇気を奮い立たせた。オーギュットはお兄さん相手に言えないかもしれないから、イセリが言った方が良い。
すると、ルドルフがイセリを馬鹿にしたように笑った。
イセリはショックを受けた。
オーギュットのお兄さんなのに。人を見下す人なんだ。こんな人が、王子様。
きっと、ユフィエルと、同じような人なのだ。それとも、あの人に、色々吹き込まれた?
「では」
ルドルフ様が、言葉で追い詰めようとしてくる。
「イセリ嬢、教えてもらいたいが、あの時、オーギュットを殴る以外に、オーギュットの暴言をどうしたら止められたのだろう。私には分からない。次のために是非教えておいてもらいたい」
「・・・」
名前を呼ばれて、次のために教えてほしいというから、イセリは答えようとした。
きちんと話せば、と答えようとしたが、分かり合えない以上無理だと気づいた。
考えてしまったイセリを庇うように、オーギュットがルドルフ様を非難した。
「兄上。彼女への暴言の撤回を」
「どの口がそれを言う、オーギュット」
「もう良い。止めろ」
国王陛下が、制止に入った。
イセリはほっとした。国王陛下は、どちらが悪いか分かってくれるだろう。国王陛下なのだから。
だから、次の言葉にイセリは耳を疑った。
「オーギュット。お前には謹慎を命じよう」
すぐ傍、オーギュットも驚いている。そんなオーギュットに、国王陛下が告げた。
「頭を冷やし、謹慎の理由を考えるが良い」
ザァっと血の気が引く思いがした。
どうして? 国王陛下なのに。どちらが悪いか、分からないの?
・・・貴族だから、あの人に、丸め込まれた・・・? 向こうを、信じてしまってる・・・?
顔色を悪くしたイセリを、王妃様までもが、嫌な目で見た。失望したような、そんな眼差し。
どういう事・・・?
オーギュットも言葉を失っている。
「・・・あなたは、親と周囲が認めた、将来を約束した恋人の間を引き裂いたのだよ」
国王陛下が、イセリに少し柔らかい声をかけた。
イセリは縋った。まだ望みは消えていない。分かってもらえるよう努めなければならない。
「でもっ、それは、勝手に決められた結婚です! 結婚は、本人同士が好きあってするものだわ!」
すると、国王陛下は頷いてくれた。
「それは一理ある。あなたはきっと善良で疑う事を知らないのだ」
あぁ、やっぱり国王陛下は、分かってくれる・・・・。
しかし、次に続いた言葉に、イセリは目を丸くした。
「けれど、私たちは、オーギュットとあなたとの結婚は認めない」
え?
「・・・理由を教えてあげよう。あなたは、人を深く傷つけた。それを私たちが大変怒っているからだ」
どういう事? なんて言ったの? なぜ、そんな事を、私に言うの?
イセリの身体が震えた。怒りによるものだと、分かった。
傷つけられたのは、間違いなくイセリの方なのに。
イセリは、元凶であるユフィエルを思わずにらんだ。
「酷い! あなただけずるいわ!」
イセリの方は、嫌がらせはあったけど、もう許そうって、思っていたのに。お互い幸せになろうって、イセリの方は・・・!
なんて人だろう・・・!
オーギュットが振り向かないからってお兄さんを味方につけた。弱いふりをして、イセリとオーギュットの幸せを潰しに来た。
こんなに酷い人がいるなんて。オーギュットの、元婚約者・・・! こんな人が、いるなんて・・・!
「私が、何かをしましたか?」
「・・・どうして、そんなにオーギュット様を苦しめるのですっ!」
「苦しめる・・・?」
話しているのに、この人には何一つ通じていない。理解しようとしていないのだ。
オーギュットが可哀想になる。こんな人に、ずっと、縛られ続けていた。婚約だって、全然解消してもらえなかった。冷たくて、怖い。
「国王陛下。混乱を収めたく、発言許可を」
一人の貴族が、声を上げた。
「許可する」
「感謝いたします」
誰・・・?




