第二十話 平民同士で打ち明け話
空き部屋に入って、三人だけになる。
イセリは、この二人には正直に話したいと思っていた。
それは、やっぱり、平民だから。
「あの、私、オーギュット様と付き合ってるよ。・・・ごめんね、アンヌちゃん。エネリくんも。私のせいで、嫌がらせ受けてたでしょう。本当にごめんね」
「うん・・・。あの、私も、ごめんね、今まで話しかけても無いのに、急に・・・。でも教えてほしいの。イセリちゃんは、オーギュット様と結婚するの?」
アンヌちゃんが真剣に尋ねる。眉間に少し皺が寄っている。
「えっと・・・あの・・・」
イセリの言いよどむ様子に、エネリくんが腕を組んで首を傾げた。
アンヌちゃんはイセリの一挙一動をじっと見つめている。
「あ、あの。あの。あのね。・・・あの・・・」
「何?」
「口止めでもされてるの?」
エネリくんがそう尋ねた。
アンヌちゃんが驚いてエネリくんを見る。
「口止め? どうして?」
「んー。そりゃ、まぁ。・・・オーギュット様、婚約者いるのにな。イセリちゃん。俺たちにはもう言わなくても良いって、そういう事なんだろ」
「え、ち、違うよ!」
イセリは慌てた。エネリくんもアンヌちゃんも、どこか刺々しい。
「最近、まるで貴族みたいにしているし。・・・これ、一応、元友人として、キツイけど事実を言ってあげるけどさ。まだ婚約中の人の愛人って、かなり良くないと思うけど。本当、いい加減にすればいいのに」
イセリが絶句し、アンヌちゃんは、エネリくんのはっきりした言い方に赤面している。
アンヌちゃんが、
「愛人・・・」
と呟いて衝撃を受けている。
イセリだって衝撃だ。
身につけたマナーなど吹っ飛んで、イセリは慌てて両手を振って答えた。
「違う、誤解、誤解だよ、エネリくんもアンヌちゃんも! 愛人なんて言われてない! そんな話ないよ!」
エネリくんがイセリを胡乱な目で見ている。
アンヌちゃんが尋ねた。
「じゃあ、やっぱり結婚できるの?」
「え。あ」
イセリは、観念した。
「あの、口外しないでね。あの、たぶん、そうなると、思う。そういう話で、進んでるの・・・」
「騙されてる」
と言ったのはエネリくんだった。
「え?」
とはイセリ。
アンヌちゃんは、エネリくんのキツイ言葉をさすがに咎めるようだった。
エネリくんは苛立っていた。
「考えてみれば? 平民が、たかが平民が。王子様のお嫁さんに。無理。絶対に無い」
「どうしてそう言い切れるの!」
「じゃあ言うけど。それ、たぶん、アンヌちゃんならまだ大丈夫かもしれないけど、イセリちゃんには無理だね」
「え、私?」
「どうしてよ!」
エネリくんは苦々しく言った。
「全然、周りが見えてない人が、王家に嫁げるはずがない」
「嫁げるよ! 大丈夫だって、オーギュットも言ってくれてるもの! 身分だって、オーギュットが手配してくれて・・・!」
「え? それ・・・貴族になるって事? どうやって」
あ。しまった。ここまで言うのは、マズイのかも。とっさに口を閉じたが、アンヌちゃんは不思議そうにイセリの答えを待っている。ちなみに手続きは終わっていなくて、まだ平民だ。
エネリくんがため息をついた。
「・・・もう良いよ。いこう、アンヌちゃん。もうこの人は、住む世界が違ちゃったんだ」
「え、でも・・・」
アンヌちゃんが困っている。眉がハの字に下がっている。
エネリくんがまたため息をついた。
アンヌちゃんとエネリくんが見つめ合って、言葉にしないけれど何か意思疎通を図っている。
アンヌちゃんが、イセリの方をまた向いた。
「えっと。やっぱり、確認させてほしいの。ごめんなさい。私ね、嫌がらせを受けてたけど、庇って守ってくれた貴族の人がいるの。お友達っていったら、身分が違って畏れ多いけど・・・、そう呼んで良いって言ってくれる人たちなの。それで・・・私、その人たちの役に立ちたくて、イセリちゃんに直接聞きに来たんだ。ごめんね」
「え・・・、あ、うん・・・。その貴族の人って、誰・・・?」
アンヌちゃんが首を横に振る。
「ごめん、教えたくない。ごめんなさい」
「うん・・・」
きっとそのうち分かる、と思ったのもあって、イセリは追及する事を止めた。
イセリは少し考えて、アンヌちゃんに答えを渡した。
「あの。今は、何も言えないの。オーギュットは、あの、他の人が婚約者にいるから・・・。でも、私、私たち、幸せなの。・・・こんな答えで、大丈夫かな」
「うん・・・。ごめんなさい。ありがとう、イセリちゃん・・・」
アンヌちゃんは目を伏せて、少し落ち込んでいるようだった。
それからアンヌちゃんは、目を上げた。
「・・・あの、こんな事いうの、何だけど・・・。平民なのに、良かったね、イセリちゃん。・・・頑張って。幸せに、なってね」
アンヌちゃんの目が、少し潤んでいた。
イセリは感動した。




