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第十六話 罪を知らせる

「・・・何か、いう事はないのか!」

オーギュットが声を荒げるほどに求めるのに、ユフィエルは何も発言しなかった。


ユフィエルは、蒼白を通り越した真っ白な顔をしながら、頭を下げてオーギュットに礼をとり、静かに立ち去っていった。プライドを守った様子に見えた。

中途半端な気持ちがイセリには残った。謝罪の言葉が、聞きたかった。


オーギュットも相手のそんな振る舞いに酷く眉をしかめ、

「キキリュク家は、代々常識から外れた振る舞いをする」

不愉快そうに告げた。

「地位と富と権力は持つが・・・人柄が保証されていない。あれには姉が二人いるが、一人は人心を操ろうと考える鬼女で、もう一人は女性であるのに虫を喜んで飼うような奇人・・・それが大貴族だなどとは・・・。キキリュク家についてきちんと調べるべきだろう」

オーギュットはやるせないようにため息をつき、傍のイセリを見て、安心させるように、微笑んだ。

「・・・イセリ=オーディオ嬢。あなたの方が、相応しいよ」

「・・・え」

思わぬ言葉に、イセリはパチリと瞬きをした。次第に、言われた言葉に頬が染まっていく。

その様子にオーギュットは嬉しそうに目を細めた。


オーギュットは、イセリの手を取り、この場を見ていた多くの者に見せるように、少し手を持ち上げた。

「イセリ=オーディオ嬢は、私の大切な友人だ。彼女は私の庇護下にいる。これ以上彼女を侮辱するな。でなければ、私を敵に回すと思え」


周囲が息を飲むように、声を潜めているのをイセリは感じた。

皆、イセリを含むオーギュットを、畏敬のこもった眼差しで見つめていた。

オーギュットはイセリにまた向かい、優しく告げた。

「何でも良い、些細な事でも、私に言ってくれ。私は王子と言う身分だけれど、それを理由に避けるなど・・・。あなたになら、利用されても良いと思うほどなんだ。・・・そんな人では無いと知っているけどね」

大勢の目の前で、少し照れたようにオーギュットがイセリに笑う。


「あの、オーギュット、さま・・・」

「良いよ。人前だけど、きみになら良い。敬称などつけないで、変らないでいてほしい」

心からそう思ってくれているのだと、思った。

柔らかい優しい表情でいながら、オーギュットはイセリに乞うている。


傍にいてほしい。今までのように、話しかけてほしい。オーギュットが、イセリを求めている。


イセリは、周囲を見回した。

そして、イセリの様子を見つめるオーギュットを再び見た。


大丈夫なのかも、しれない。

イセリは思った。


オーギュットが、守ってくれた。皆の前で、酷い行いを非難してくれた。

それに・・・。

「あの、婚約者の、あの人は・・・」

イセリが控えめな表現で尋ねると、オーギュットは一度目を伏せるようにしてから、再びイセリの目を見つめた。

「・・・もう婚約者などではないよ。安心して。・・・今まで苦しめていただろう。すまなかった」

でもこれで、大丈夫だから。心配しないでいてほしい。

オーギュットが、小さくイセリの耳にだけ届く様に告げた。


カァっとイセリは赤面し、同時に、どっと安堵する自分を感じていた。

守られた。

これで、もう、大丈夫、かもしれない。

本当に、もう、邪魔する者は、いなくなったんじゃないんだろうか。


***


変化は劇的だった。


その日、授業が終わった頃合いに、オーギュットが教室に迎えに来てくれた。

オーギュットは教室の皆を見回して、ニコリと笑み、それからイセリに向かって手を差し出した。

「送ろう」


わざわざイセリの元にまで歩み寄り、イセリのカバンに手をかける。

王子様にカバンを持たせるような事になってはならないとイセリが思わず焦り、取り戻そうと手を出すのをオーギュットはクスクス笑って楽しそうにした。

「イセリ。このクラスは、楽しい?」

「・・・え?」

オーギュットの質問に、イセリは間の抜けた声を出したが、答えを返す前に、教室の中で緊張感が高まったのを知った。


オーギュットは、クラスの皆に、注意を呼び掛けている・・・?


イセリがオーギュットから目を外し、教室に様子を眺めてみると、皆顔色を失ったように、硬い表情で自分たちを見つめていた。イセリと目が合うと、慌てて礼をしてくる。

貴族なのに。


さすがにイセリがポカンとして様子を見ていると、オーギュットが苦笑していた。


***


その日から、嫌がらせがパッタリとなくなった。


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